第14話:身から出た錆
イグニア王国を支配していた巨竜――宇宙要塞ファフニールの『死』。
その報せは所有する帝国軍のみならず、空を見上げていたイグニアの人々もすぐ知ることとなった。
勝利の報告を受けたグスタフは即座に、予め準備してあった極秘回線を用いて、イグニア主星系の各地に潜むレジスタンスへ向けて全軍蜂起を促した。
それを受けて、彼らが即座に各地の帝国軍拠点へと蜂起を起こした。
その檄は、乾いた薪に投じられた松明のようだった。
地上の主要都市、駐屯基地、資源プラント――あらゆる場所で、潜伏していたレジスタンスたちが一斉に帝国へと蜂起を起こした。
長年、頭上を睨みつけていた絶対的な暴力装置が消滅したことで、帝国の支配体制は心理的にも物理的にも崩壊。
逆に士気が最高潮に達したレジスタンスの勢いは凄まじく、混乱した帝国地上軍を雪崩のように押し込んでいった。
地上での劣勢を悟った帝国軍の一部は、残存戦力を宇宙へと向けた。
制宙権を取り戻すことで地上の暴動を鎮圧しようと艦隊を出撃させるようとしたが、俺たちがそれを許すはずもなかった。
母艦のヤールングレイプルと共に、イグニア星系の中心に座した二機のヴァルキュリアがそれを阻んだ。
上昇してくる帝国艦隊にとって、待ち構える両機は、まさに死神そのものだっただろう。
地上からはレジスタンスの猛攻。
空からはヴァルキュリアによる殲滅戦。
逃げ場を失った帝国軍に、もはや選択肢は残されていなかった。
帝国軍は全軍をイグニアの領内から撤退する判断を早々に下した。
それは、長きに渡るイグニア王国における帝国の支配が、名実ともに終わった瞬間だった。
***
解放された王都の中央広場。
瓦礫の撤去もままならないその場所には、今や立錐の余地もないほどの人々が詰めかけていた。
その視線が注がれる先――王宮のバルコニーの左右には、イグニアを救った二柱の守護神、フリストとヘルヤが鎮座している。
瓦礫を踏みしめ、夕日を背に、互いの背中を守り合うように剣と銃を構えたその姿は俺とライラが徹夜で考えた『最も映える構図』だ。
計算され尽くした英雄の立ち姿は、民衆の心に強烈なカタルシスと畏敬の念を植え付ける。
そして、その巨人の足元に設置された演壇に、セリアが立っていた。
「我が愛するイグニア国民たちよ。長く、苦しい冬の時代は終わりました」
凛とした声が、マイクを通して広場に、ネットワークを通して全宇宙へと響き渡る。
「今日、私たちは取り戻したのです! 奪われた誇りを、未来を、そしてこの空を!」
ワァァァァァッ!!
地鳴りのような歓声が空気を震わせる。
俺はセリアの斜め後ろの席に座りながら、その光景を冷静に観察していた。
広場を埋め尽くす人々は皆、手に情報端末を掲げている。
写真、動画、ホログラム録画。
あらゆる手段で、この歴史的瞬間を記録しようとしている。
(いいぞ、もっと撮れ。もっと拡散しろ)
俺は内心で彼らを煽り立てる。
名もなき市民が震える手で撮影した、画質の粗い映像。
そこに込められた熱狂と涙。
それこそが大本営の発表よりも雄弁な『真実』となって、銀河を駆け巡るのだ。
ヴァルキュリアは架空の存在ではない。
帝国の要塞を沈め、国一つを解放した『実在する力』なのだと、全宇宙に知らしめる。
「そして、この奇跡をもたらしてくれた、最大の功労者を紹介します」
セリアが振り返り、俺へと手を差し伸べる。
「彼こそが、救国の英雄。新たな時代の盟友、クラウス・フォン・ライン伯爵です!」
俺は一歩前へ進み出ると、貴族としての洗練された所作で一礼し、そして拳を突き上げた。
「イグニアの諸君! そして、今もなお帝国の圧政に苦しむ、銀河の同胞たちよ!」
演説モードへの切り替え。
こういう場面で必要なのは理性よりも感情への訴えかけだと、腹の底から声を張り上げる。
「今日、ここにあるのは『奇跡』ではない! 君たちが諦めなかった『意志』の結果だ! 君たちが希望を捨てず、唇を噛みしめながらも前を向いたからこそ、我々はここに辿り着いた!」
視線を巡らせ、一人一人の目を見るように語りかける。
「希望を捨てるな! 顔を上げろ! 諸君らが自由を求め、戦う意志を見せる限り……必ずやこのヴァルキュリアが、その魂を解放しに行く! 我々が、君たちを救う!」
一瞬の静寂の後、広場は爆発した。
「クラウス! クラウス! クラウス!」
「救世主万歳! ライン家万歳!」
「ヴァルキュリア最高!!」
万雷の喝采。
熱狂の渦が、俺を、セリアを、そして二機のヴァルキュリアを包み込む。
これでいい。
この熱があれば、イグニアは早々に復興し、俺の強力な地盤となるだろう。
俺が満足して一歩下がろうとした、その時だった。
セリアが再びマイクを握り、少し頬を染めながら口を開いた。
「皆さんに、もう一つ……大切な報告があります」
ざわめきが収まり、注目が集まる。
「私は、王家の一員としてこの国の復興に全霊を捧げます。ですが……女王として君臨することは致しません」
(……え? 何? こんな流れ予定にあったっけ?)
突然のセリアの言葉に民衆も、そして俺も意表を突かれる。
「この国を導くのは、私よりも相応しい方がいます。私を救い、国を救い、未来を示してくれた英雄。イグニア王家は彼を、火を継ぐ者……つまり、新たな王として迎え入れます!」
「え? ちょ、セリ――」
「そして私は!」
セリアの声が一段と大きくなる。
「剣として、妻として! イグニアの火を継ぐ彼の伴侶として、その生涯を共に歩むことを誓います!」
――ドッッッッ!!
先程までとは比較にならない、割れんばかりの拍手と祝福の声が広場を、いや星系全体を揺るがした。
「おめでとうございます!」
「新王クラウス万歳!」
「クラ×セリてぇてぇ」
国民たちの歓声が現実とネット上で爆発する中、思考が完全に停止した俺は横を見る。
「……グスタフから全部聞いた」
しっとりとした嬉しそうな声で、セリアが言う。
「……え?」
……え?
現実と内心の戸惑いが重なる。
そんな俺に、セリアは満面の、とろけるような笑顔で答えた。
「昔、約束した通り……私を守ってくれたんだって。だから、今度は私が約束を守る番。イグニアの習わしに則って、私の全部を貴方に捧げる」
セリアは俺の手をぎゅっと握りしめ、幸せそうに身体を寄せてくる。
その瞳は、もはや国を憂う王女のものではなく、ただ一人の恋する乙女のものだった。
「一生、ついていきます……マイ・ロード」
あっ、なるほど……子供の頃に、主人公と結婚の約束もしてたんだぁ……。
俺は自分が乗っ取ってしまった幼い頃の美しい思い出が、想像以上に尊いものだったと気づいたが全ては手遅れだった。
国を救い、悪を倒し、お姫様と結ばれて、王となる。
俺は完全に、『主人公の存在意義』そのものを乗っ取ってしまったのだと理解する。
とりあえず、主人公を探すのはもう止めよう。
単なる保身以上に、きっとそれが誰をも不幸にしない最善の選択だ。
この広い宇宙のどこかで、どうか君と出会わないことを心の底から祈る。
俺は諦めにも似た覚悟を決め、隣で幸せそうに笑う新妻の背中に手を回し、熱狂する民衆へと手を振り返した。
いつも本作読んでいただき、ありがとうございます。
これで第二章は終わりです。
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