第10話:違和感
「火力が足りないなら、火力を足せばいい。一機で無理なら、二機だ」
俺が指を鳴らすと、机上のホログラムが書き換わる。
そこに映し出されたのは、フリストとは対照的な紅蓮の装甲を纏った新たな巨人の姿だった。
燃え盛る炎を思わせる深紅の装甲。
過剰なまでに大型化された背面スラスター。
そして何より目を引くのは、機体の全長ほどもある長大な真紅の砲身だ。
その攻撃的すぎるフォルムは、見る者に防御という概念を忘れさせるほどの圧力を放っていた。
「ヴァルキュリアシリーズ二号機――コードネーム『ヘルヤ』」
俺はその名を告げる。
「『壊滅させる者』の名を冠する通り、対基地を想定した高火力の機体となる」
「ヘルヤ……壊滅させる者……」
セリアがその名を反芻し、熱っぽい瞳でホログラムの機体を見つめる。
その攻撃的な響きが、復讐に燃える今の彼女には心地良いらしい。
「こいつのコンセプトは単純明快。『火力』だ。そして、それを体現するのが主兵装である星源収束砲『レーヴァテイン』。こいつは光学兵器ではなく、搭乗者の星源力を纏わせた物理弾頭を発射する質量兵器だ」
「物理弾頭? ビームじゃなくて?」
「ああ、理由については専門家の方から説明してもらおう。ナルセ、頼んだ」
俺が促すと、開発部の材料責任者であるナルセが立ち上がった。
彼は眼鏡の位置を直しながら、冷静な口調で解説を始める。
「え~……開発部材料責任者のナルセです。現在、ヴァルキュリアに搭載されている『アストラル・コンバーター』……つまりは、U.S.E.R.の発する星源力を増幅し、機体へと還元する機構ですね。こちらには仕様上の限界がありまして、具体的には光学兵器には属性付与ができないという点です」
ナルセは淡々と、しかし決定的な事実を告げる。
「故に、搭乗U.S.E.R.の特性を100%活かすとなれば物理弾頭が不可欠となります。物質そのものを『器』とし、そこに星源力を直接封入して撃ち出す。これならば、属性を維持したまま対象を穿つことが可能です」
理路整然とした説明に、セリアも納得の表情を浮かべる。
ナルセは続けて、新たな鉱石データを表示させた。
「現在、その弾頭の素材として第一候補に挙げているのが『スヴァルチウム』です。フリストの機体フレームや実体剣にも使用されている、高硬度かつ星源伝導率に優れた希少金属です。これならば、射出時の負荷にも耐えうるかと」
「……待ってくれ」
ナルセの説明の途中に、グスタフが声を挟む。
見ると、彼は何かを言いかけ、口元を手で覆うようにして押し黙ってしまった。
その表情には、明らかな逡巡が見て取れる。
「どうした? 何か不服でもあったか?」
俺が尋ねると、彼は視線を泳がせた後、絞り出すように問い返した。
「一つ、疑問が。そのスヴァルチウム製の弾頭で……ファフニールのあの重厚な複層式の装甲を貫けるのかと……」
「計算上は可能です」
ナルセは即答する。
だが、すぐに付け加えた。
「ただし、それはあくまで『物理的に貫通できる』というだけです。要塞を完全に無力化するには、分厚い装甲の奥に隠された動力炉等の重要機関の位置を正確に把握し、そこをピンポイントで射抜くための技術と情報が必要になります」
「そうそう、そこが最大のネックなんだよね~」
ナルセの説明に補足するように、ライラがペンを回しながら口を挟む。
「ホントはさ、着弾した後にドカーン!ってめっちゃ爆発するとか、内部で拡散して暴れまわるとか、副次的効果のある弾頭にしたかったんだけどそういうのは軒並み射出時の衝撃に耐えられないか、属性を持った星源力との相性が悪くてねぇ」
彼女は肩をすくめ、お手上げといったジェスチャーをした。
対して質問者のグスタフは、得心がいっていないような顔で顎に手を当てて、「ふむ……」と呟いた。
「つまり、二機目を以てしてもファフニールの陥落はそう容易くはないと……?」
「それについてはパイロットの腕次第かな~。うちの領主くんはいけるって踏んでるみたいだけど」
「ふむ……では、こちらの作戦もまだ確実とは言い難いと……」
口に手を当てたグスタフが、はっきりと思ったことを述べる。
その姿に、俺は何かの違和感を覚えた。
まるで、彼がヴァルキュリアと何かを秤にかけているような……。
「では、そのパイロットの安全性の確保については?」
「それにつきましては、別の担当者から……」
その後もセリアが搭乗予定の二号機についての質疑応答は続いた。
特にグスタフは、大事なお姫様が乗る機体ということで何度も何度も仔細に至るまで質問を繰り返した。
***
数時間に及んだ会議の終了後、ミーティングルームには俺とヒルデ、そしてライラの三人だけが残っていた。
「……どう思った?」
「どうって? 領主くんが相変わらず、ハッタリ上手ってこと? 二号機なんてまだ基本フレームしかできてないのに、よくあんな誇大広告が打てるよねー」
俺の問いかけに、ライラが呆れと称賛が半々に入り混じった口調で答える。
「そうじゃない。セリア以外のイグニアの連中だ」
「王女様以外の? ん~……あのグスタフっておじさんは、まだ二号機の性能にちょっと懐疑的な感じだったね~。まあ、大事な王女様を乗せるかもしれない機体だから当たり前か」
「それだけか?」
「それだけって、他に何かあった?」
「はっきりとは言えないんだが……何か隠してるというか……」
先の会議で、俺が感じた違和感をそのまま口にする。
「うちらのことをまだ信用してないってこと? それは流石に考えすぎじゃない?」
若干笑い飛ばすように言われるが、俺の考えは変わらない。
特にあのグスタフという男に関しては、単に懐疑的なだけでなく、何かと秤にかけているような素振りをしきりに見せていた。
実は裏切っている……とまでは言わないが、何かを隠しているようには思える。
「であれば、私が吐かせましょうか? 必要とあれば、拷問の用意も」
「んも~……ヒルデちゃんはいつも物騒だなぁ……。流石にそこまでする必要はないかな。実際、俺の考えすぎかもしれないし」
「だと思うけどね~」
「とにかく、お前はこれまで通り二号機の開発を進めてくれ。主兵装の弾頭に関しては『スヴァルチウム』を利用する方向で進めつつも、別の案が出てきたらすぐ切り替えられるように」
「あいあ~い……おけまるすいさ~ん」
生返事をするライラを残して、ミーティングルームから出ていく。
杞憂かもしれないが、俺の方からも少し探りを入れておこうと、向かった先はヴァルキュリアのシミュレーター。
俺が着いたところで、ちょうどセッションを終えたばかりのセリアが中から出てきたところだった。
「クラウス……!」
俺の顔を見るや否や、セリアが懐いた犬のように駆け寄ってくる。
少なくとも、彼女に関しては俺たちに対して何か隠しているような気配は全くない。
だが、王女一人が蚊帳の外という事実が逆に、俺の推測を裏付けているようにも感じた。
「精が出るな。さっきまで長時間の会議をしてたのに疲れてないのか?」
「ええ、昔からお転婆姫で通ってたくらい体力は有り余ってるから。それに、今はじっとしている方が辛いし。身体を動かしていないと、余計なことを考えちゃうから」
「そうか。でも、あまり根を詰めすぎるなよ。作戦開始前に身体を壊されたらそれこそみんなが困る」
「そうね。分かった。貴方がそう言うなら程々にしておく」
「ところで、グスタフはいないのか? いつもなら君に付きっきりで、そういう体調の管理をしてるのは彼だと思ったが」
「彼は、少し休んでもらってるの。ちょっと、顔色が悪かったから」
セリアが心配そうに眉を寄せて続けていく。
「昔からそうなの。亡くなったお父様の代わりに……自分のことは二の次で、私のことばかり心配して一人で背負い込むから……さっきも、新型機のことで何回も質問してたでしょ? 彼はまだ私がヴァルキュリアに乗るのに少し抵抗があるみたいだから……それでちょっとストレスを感じてるのかも……」
「なるほどな……」
答えながら、頭の中でパズルのピースが嵌まる音がする。
この二ターン目で重要なのは二人目のU.S.E.R.であり、物語のヒロインであるセリアを自陣営に取り込むことだと考えていた。
でも、それだけでは片手落ちだったのかもしれない。
重要人物は、もう一人いた。
グスタフ・ベルンシュタイン――俺の推察が正しければ、あの男は『物語の中盤で自らの命を犠牲に主人公たちの活路を開く系のキャラ』だ。
二号機ヘルヤの完成に必要な最後の欠片がは、そこにある。




