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27.ロリババア先生はやっぱりスゴかった。てか、私も住みたい。

「はい、とうちゃーく」


 学院の門を上から失礼して、敷地内に着陸。

 認識阻害の魔法は使ってるけど隠匿魔法は使ってないから、結界に侵入した瞬間に魔力を感知したエミーワイス先生に気付かれたはず。


「うまくいったようだの」


「きゃっ!」


 言ってるそばから、何もない空間から金髪ツインテールの幼女が登場。

 相変わらずのジジイ喋り。安定のロリババア。

 マイアちゃんがびっくり。


「お主がサイードの妹かの」


「お、女の子?」


 突然現れた幼女にマイアちゃんは目をパチクリさせる。

 自分よりも年下っぽい女の子がジジイ喋りで唐突に現れたら、そりゃびっくりよね。


「あ、それ、ウチの教師」


「それとはなんじゃ、それとは」


「え、ええっ!?」


 頬を膨らませてプンプン怒る教師にマイアちゃんは目を真ん丸にしてさらに驚く。

 リアクションが可愛いからクセになりそう。

 端から見たら幼女と少女の戯れだし。


「びっくりよねー。でもホントに先生なんよ。

 ま、実年齢は分かんないんだけどねー」


「……貴様、どうやら死にたいらしいな」


「あ、嘘です。ごめんなさい」


「ふふふ」


 マイアちゃんのふふふ笑いは天使やな。


「エミーワイス先生」


「ぬ?」


 私たちが姦しくて話が進まないと見たのか、グランバートが入ってきた。


「先生は策があると言いましたが、このあとはどうするおつもりで?

 グレースの手前、何も教えてもらえずとも信用しましたが、サイードに疑いがかからずに片付ける方法などあるのですか?

 私にはなかなかに難しい条件だと思うのですが」


 そういや、グランバートはギリギリまで先生を問い詰めてたね。

 先生は秘密、の一点張りだったけど。


「なんじゃお主。学院で生徒をやっておる時とはずいぶん雰囲気が違うの」


「……」


 おいおい。真面目で実直なクロードくんの化けの皮が剥がれとるぞ。


「ま、お主がグレースを信用しておるのは分かった。

 そもそも、そちらがワシを信用していなかったように、ワシもお主を信用しておらんかったからの。

 ワシはグレースをそこそこ信用しておる。

 そんなグレースを信用しておるのなら、ワシも多少は信用してやるかの。

 いいじゃろ。聞かせてやろう」


「……」


 信用って言葉が乱れ咲いててよく分かんないけど、なんか褒められとる?

 てか、先生はクロードのことも信用してなかったんだね。生徒なのに。

 先生からしたらぽっと出のキャラだから当然か。そりゃ何も話さないわね。

 どこに組織の人間がいるか分かんないもんね。


「……俺がグレースを信用しているからといって、グレースが俺を信用しているとは限りませんよ?」


 いや、私はまあまあ信用しとるよ?


「それはこやつを見ておれば、お主が信用されているのは分かるわ」


 だしょ?


「ならば、私がグレースの信用を利用して情報を得ようとしている組織の手先だったら?

 グレースは私に騙されているのかも?」


 この人はさっきから何をありもしないことを言っているのかな?

 ま、でも、帝国の手先として情報を得ようとしてるってのは合ってるか。


「……ふっ」


 それを受けて鼻で笑うロリババア。


「だからこれまで何も話さなかったのじゃよ」


 そういうことよね。


「ならば、それなのになぜ私は急に信用され、貴女の策とやらを聞かせてもらえることに?」


「ふむ。無事に妹を連れ出し、かつお主が生きてともに帰ってきたから、かの」


 お二人はさっきから何を話しておられるので?

 あんまり回りくどいこと言われても国語の成績微妙だった私には分からんよ?


「……組織の人間ならば、グレースの奥にいる後ろ盾まで突き止めようと、ここまで手を出さずにいるのかも。

 全ては策とやらを聞き出し、貴女の狙いを探るために」


「お主はすでにワシが後ろ盾だと知っておる。

 策とやらを聞くためだけにここまでやるのはコスパが悪い。ワシの実力を知っているのだから尚更な。

 お主が組織の人間ならば妹を連れ出す前にグレースに手を出し、返り討ちにあって死んでおるはずじゃ」


 いや、たぶん私の方が死ぬよ?


「私はグレースがそれほどに強いことを知っている。そんな馬鹿なことはしない」


 てか、クロードくんって俺って設定じゃなかった?


「その強さを知っていてなお、ともにあるのが証拠じゃよ」


「組織としては、見過ごすわけにはいかないのかも」


「グレースはそれほどバカではない。

 いや、バカだが、愚かではない」


「……それに関しては同意します」


「え、なんかバカにしてる?」


 さっきから何の話をしてんのか分かんないんだけど。誰か説明プリーズ。


「それにワシの見立てでは、見過ごすわけにはいかないが、それは(あく)なるためではない、とお主は考えているように思うの」


「……」


 もしかして、先生てばクロードくんの中のグランバートに勘づいてる?

 

「……ま、ワシは学院の平和を脅かさぬなら捨て置くがな」


「……それは、助かります」


「ふむ。存外、正直者だの」


 なんかよく分かんないけど話はまとまったらしい。

 グランバートのことを何となく察してるけど、迷惑かけないなら追及はしないよって感じかね。それはありがたいね。


「では、これからの策というのは?」


「ふむ。まずは移動しようかの。

 学院内ならば誰かに聴かれるようなヘマはせぬが、あまり彼女を夜風にあたらせるわけにもいくまい?」


「……それは、そうですね」


 先生がマイアちゃんの方を見ると、グランバートもそれを承諾した。

 なんだかんだ、この人たちって子供に優しいよね。

 防寒系の魔法をかけてるからマイアちゃんに負担はないんだけど、まだ深夜だから眠そうだしね。


「では行くとしよう。

 温かい飲み物を用意してあるのでな」


 先生を中心に、私たち全員が入る大きさの魔方陣が現れる。


「え? え?」


 マイアちゃんが何が起こるのかとキョロキョロ。かわええ。


「きゃ! ひゃーーっ」


 そしてマイアちゃんの叫び声とともに転移。

 ちなみに私たちの今のやり取りや魔法は誰にも気付かれてないよ。良かった良かった。









「ほれ。目を開けてよいぞ」


「え? ……え?」


 マイアちゃんが閉じていた目を開ける。

 目の前の光景にぽかん。かわいい。


「ここも創った空間なんですか?」


 転移したのは緑の草原にぽつんと建てられた一軒家。

 そんなに大きくないけど狭くもなさそう。レンガ造りの二階建て。煙突ついてて可愛い。

 天気も良くて暖かい。心地いい風。


「うむ。しばらくはここで過ごしてもらおうと思っての」


 相変わらずすごい魔法。

 周囲は森で囲まれてるけど生物はいない。たぶん気候も一定なんだろうな。

 試しに限界まで探知してみるけど、どこまでいっても終わりがない。

 無限空間? ループかな?

 マイアちゃんが迷わないように、森に入ってもこの家に戻ってこれるように魔法がかかってる。


「つ、創った、ってなんですか?」


 当然の疑問よね。


「ワシが魔法で創った空間世界ということじゃ。

 気候も一定。昼と夜はあるようにした。

 暇じゃろうから、いろいろと暇潰しも用意したぞ。望むなら勉強も教えてやろう。

 衣食も気にするな。何でもというわけにはいかぬが、暮らしていくのに不自由せぬ分は用意できるようにしてある」


「ほ、ほへー」


 マイアちゃん。お口ポカーンよ。かわいい。

 至れり尽くせりだね。


「ほれ。まずは部屋に入るぞ。

 ココアは好きか?」


「好き!」


「お主に聞いとらん」


 あ、すいません。この世界ってば紅茶ばっかだったもんでね。そういうのないんだと思ってたのよ。


「どうじゃ?」


「あ、えと、好き、です」


「そうか」


 ニッコリロリババア先生。子供好きなんだね。


「ほれ。家の中に連れていってやれ」


「あ、はいはい」


 そうだ。私が魔法で運んでるんだった。

 先行する先生に続いてマイアちゃんと並走する。


「……これほどとはな。空間の支配者、災厄のエルフ……」


 なんか後ろでグランバートが物騒なことを呟いた気がしたけど、賢い私は何も聞かなかったことにしたよ。














「ほれ」


「わーい! ココアだー! あちっ!」


 この甘い香り。前世でマミーが作ってくれたのを思い出すなー。分量同じはずなのに、なんか私が作るのより美味しかったのよねー。


「ありがとうございます」


「……お前、少し彼女を見習った方がいいんじゃないか?」


 うるさいわよ、グランバートさん?


「……温かいですー」


 ほっと一息なマイアちゃん。

 安心してくれたのなら良かった。


「素敵なお部屋ねー」


「そうじゃろそうじゃろ」


 暖炉もあって、木のテーブルにふかふかクッション付きの木の椅子。

 マイアちゃんでも届く背の低い食器棚にキッチン。二階は寝室とかかな。

 必要なものは一通り揃ってそう。


「私は、ここで暮らすのですか?」


「不安かの?」


「……」


 ちょっと不安そうではある。

 まあ、ある意味閉じ込められてるようなものでもあるから、不安は不安か。外部から完全に隔絶されてるし。


「……正直、少し不安です。

 でも、あのお屋敷にいるよりは全然いいです……怖くないし」


「……」


 きっと、親とかにも粗雑に扱われてたんだろうね。

 それでもお兄ちゃんのために一人でずっと耐えてきたのかな。


「ま、安心せい」


「わぷっ」


 先生がマイアちゃんの頭をポンってする。

 ずるい。私がやりたかった。


「少ししたらサイードもここで暮らせるようになるじゃろ。

 問題が解決するまでは二人でここで暮らすといい。

 それなら安心じゃろ?」


「……お兄様と、一緒に暮らせるのですか?」


 信じられないって顔。


「もちろんじゃ。そのためにお主を連れ出したのだからの」

「もち!」

「安心していいぞ」


「……うぅ」


 あらら、泣き出しちゃったよ。


「あり……ありがとうございますぅ」


「泣け泣けー。泣けるときに泣いた方がいいよー」


「わぷぷっ」


 マイアちゃんを抱きしめてあげる。

 こんなちっちゃい体で頑張ったね。


「……」


「あ、あれ?」


 しばらく泣いてたと思ったら急に静かに。


「疲れたようだの」


 どうやら寝ちゃったみたい。


「ベッドは上じゃ。寝かせてやれ」


「はいよ」


 そのまま魔法で二階の部屋にマイアちゃんを運ぶ。


「その間にお主に話をしてやろう」


「お願いします」


 え、私抜きで話すの?

 先生の策とやらは?

 私にも話してよー。おーい……無視かい。



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災厄のエルフ……!!
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