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23.イケメンにお金を払わずに頭ナデナデしてもらう方法があったら是非とも教えてほしい。

「んぎゃー! ヘルプ! へるぷみー!」


「うるさいな」


「これが騒がずにはいられるかってんでい!」


「狭いんだから暴れるな」


「ぎゃー! ムリー!」


「ちょっ! どこを触っている!」


「それ普通は私のセリフ! でもありがとう!」


「……いっそ潔いな」


「でしょー!

 ぎゃー! もうムリー!!」


「はぁ……どうしてこうなったのか……」


「みぎゃーー!!」












 えー。時は遡ること……何十分か前。



「はい。てなわけで始まりましたー。

 こちら現場のグレースちゃんですー」


「静かにしろ」


 はい、すいません。

 いや、ちょっとぐらいえーやん。

 どうせ結界張ってるから声なんて漏れないんだし。

 盛り上げやん、盛り上げ。再生回数上げてこー。


「案外近くて良かったね。サイードさん家」


 私たちは今、サイードさんの実家に来ております。繁みからこっそり観察しております。

 これから突撃隣のサイードさんするとこです。

 

「……まさか女に背負われる日が来るとはな」


「ふっふーん。男だ女だと言っているうちはまだまだよ」


 実際ね、馬車とかで向かったら数日はかかる距離だったのよ。

 でもそこはほら。グレースちゃん最強説やん?

 寮を出てグランバートと合流したら私の背中にこの人を乗せてね。光の魔法で光学迷彩してからね、風の魔法で空を飛んでね、火の魔法でジェットして一気に飛んできたわけよ。

 無敵艦隊グレースちゃんにかかれば数十分で到着なのよ。


「にしても、ずいぶんでっかいお屋敷ねー」


 深夜、森の繁みに隠れながらサイードさんの実家のお屋敷を見物なう。

 ウチの実家の三倍ぐらいの土地面積。でっかい門の向こうに、ウチの二倍ぐらいの大きさの豪華なお屋敷が見える。

 屋敷までの道にはよくわからんオブジェとか像とかがある。お金かかってそうやねー。

 サイードさんとこは伯爵家だっけ?

 やっぱりお偉いさんになってくるとおウチもパワーアップするのね。

 ……でも、表からは見えないとこにある使用人たちの家はけっこうボロボロ。視力強化してる私じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 目に見えるとこだけ、ってか自分たちのとこだけにお金使ってるね、こりゃ。


「……見栄が窺えるな。これはカネにうるさいタイプだ」


「お金持ってるくせに妹ちゃんに高価な薬を使いたくないって奴らだもんねー」


 貴族には見栄も必要らしいけど、自分たちの贅沢だけには金に糸目をつけないタイプやね。

 ま、自分たちで稼いだお金なら文句は言わんけどさ。サイードや妹ちゃんに酷いことしてる時点でアウトよね。


「これが例の結界か」


「そーみたいね」


 目を凝らすと、敷地全体を透明なドーム状の結界が覆っているのが分かる。

 これがサイードが言ってた決められた人間しか出入りできないっていう結界ね。

 

「ふむふむ。たしかにけっこう複雑な結界みたいね。

 あらかじめ個人の魔力を登録しておいて、登録者以外が結界を通ると弾くようになってる。

 弾くっても、バラバラになるレベルのだいぶ凶悪な弾き具合ね。おまけに警報機能付き。弾かれれば屋敷の人間にバレるみたい。

 訪問者なんかは当主の許可があれば通行許可が下りて通れるみたいね」


 あ、ちなみに私たちは今はちゃんと隠匿魔法で隠れてるよ。音も気配も魔力も隠すグレースちゃんスッペシャルバージョンね。


「……お前はこの距離から魔方陣さえ展開せずに、見ただけで解析できるのか?」


「え、普通はできないの?」


「……はぁ」


「……溜め息で返答すんなや」


 しゃーないやん。

 物語ではグランバートとグレースの強さがカンストしてるから、出てくるキャラクターがどいつもこいつもエグいのよ。

 だから知識としての魔法は知ってても、それが一般人のレベルじゃないことがほとんどみたいで、そのギャップにグレースちゃんビックリ、みたいなやつなのよ。だから学院の授業大事。超大事。


「妹はどこにいるか分かるか?」


「んーとねー。ちょっと待ってねー」


 結界や魔法を使える人間にバレないように感知魔法を展開する。

 基本的には感知魔法を使えば、感知された側もそれが使われたことと、それを使った存在の位置に気付くらしい。

 だから私は感知魔法自体に隠匿魔法をかけて、向こうに気付かれずに一方的に相手の状況を把握できるようにしてる。

 うん、まあチートよ。普通は魔法の併用は基本的にできないからね。


「……一番奥。使用人用の家の裏の、倉庫かな?

 そこに、サイードに似た魔力を持った存在がいるわね」


 ソナーみたいな感じで、私から発せられた感知の波がその魔力を捉える。


「……倉庫、か」


「マジクソどもね」


 遠視で見ると、外観は完全にただの掘っ立て小屋。

 きっと暑さも寒さもそのまま素通しだろうね。病人を置いておいていい環境じゃない。


「……魔力がだいぶ弱ってるわ。

 魔法が使えない平民と同等か、それ以下」


「……急いだ方がいいな」


 魔法の才がある貴族の魔力がここまで弱るのは、単純に人としての生命力が低下してるから。

 このままじゃ、病気とか以前に衰弱死しちゃう。


「……ねえ。ついでにこのお屋敷全部消し飛ばしちゃダメかな」


 なんか腹立ってきたんだけど。


「駄目だ。組織の規模が分からない以上、下手に手を出しすぎるのは悪手だ。

 それにその状況で妹だけがいなくなれば疑われるのはサイードだ」


「……そっかー。まあ、使用人の人たちまで悪い人かどうか分かんないしね」


 ここはやっぱりこっそりひっそり作戦で行こ。


「で。実際見てみてどうだ?

 この結界は解除するわけにはいかないが、バレずに侵入できそうか?」


「んー。登録者に成りすますのもやめたほうがいいのよね?」


 感知魔法で屋敷の人の魔力は把握したから、その方がだいぶ楽なんだけど。


「そうだな。結界の通過履歴を残している可能性もあるし、通過したことを家主が察知できるタイプかもしれないからな」


「んー。そんなら、ちょっと難しいけど結界になろっかな」


「……は?」


 いや、そのバカを見るみたいな冷たい氷の顔やめて?

 クセになったらどうすんの?


 あ、ちなみに今のグランバートはクロードバージョンじゃなくて、銀髪長身イケメンのグランバート様ね。ま、私はいつでもそっちに見えるんだけど。

 クロードの方はちょっと可愛さのあるイケメンでそれはそれでいいんだけど、やっぱり私はこっちの氷の皇太子バージョンの方が好きなのよね。


 んで、あ、結界になるってのの説明か。

 今は目の前のことに集中しなきゃ。


「あの結界は、結局は魔力でできてるものなのよ。で、結界自体を構成してる魔力には当然反応しない。それを構成してる成分そのものだからね。

 それに鳥とか動物にも反応しないっぽいから、魔力を持つ人類種に反応するようになってるみたい。

 だからその魔力とまったく同じ魔力を纏って通れば、結界さんは私たちを認識することができないってわけ」


 白に白を混ぜても分かんないみたいにね。


「……その魔力ごとの質にどれほど微細な違いがあると思っているんだ」


 白は二百色あんねんでって話ね。

 そっからまったくおんなじ色の魔力を作らないといけないから、雲を掴むような話なのよね。本来は。


「べつに当てずっぽうじゃないのよ。魔法の術式自体を解析して、魔力ごと完全にトレースするの。

 私たちはあの結界のミニサイズのやつを身に纏う感じ。

 術式ごとコピーしてるから、魔力の微細な違いとか気にせんでも勝手に同じになるのよ」


 その色をその色だと決定付けているプログラム自体をコピペするイメージ?


「……他人の魔法を魔力ごと完全に読み取って再現できるのか、お前は」


「……まーね」


 あー、ずいぶん警戒心が上がっちゃったな。

 たしかに脅威すぎるもんね。

 でも安心してね。


「ま、闇の属性以外はね。

 そもそも私は闇の魔法を使えないし、あれは個々人で魔力の質が違いすぎるのよ」


「……そうか」


 つまり、グランバートの魔法無効化は使えないってこと。

 だから、あなたはまだ私を十分殺せる。

 私が私の力を悪用しようとしたら、ちゃんと止めれるよ。


「……だから、心配しないで」


「……」


 あなたなら、いつでも私を殺せるから……。


「……何を心配することがある」


「ほへ?」


「お前にその気がないことなど、とうに分かっている。

 それにその力を悪用しようとするのなら、その欠点まで俺に説明するはずがない。

 お前は俺にそれを示すためにわざわざ説明してみせた。そうだろう?」


「……あ、あーうん。そだねー」


 やべー。なんも考えてなかったなんて言えない。

 普通にただこれからやる方法を説明しただけなんて、その先のことなんて何も考えてなかったなんて、とてもとても。

 そりゃ、ちょっとはセンチメンタルな気分にもなったけど、前世の私はそんな全部に計算高くなれるほど陽キャな世界で生きてなかったのよ(陽キャへの偏見)。


「……お前、何も考えてなかったのか」


「あ、さすがはグランバートさん。よくお分かりで」


 短いけど濃いお付き合いだものねー。


「……はぁ」


 うん。溜め息で返答されるのにも慣れてきたよ、あたしゃ。


「わぷっ」


「お前はそれでいい」


「んー?」


 ……うん。じつはちょっと頭ナデナデしてくれんの待ってたとこある。そういうしたたかさはあるのよ、女は誰でも。

 こんな超絶イケメンに頭ナデナデしてもらえんのよ? お金払わずに。

 そりゃちょっと待っちゃうってもんよ。ねえ? 有識者の皆さん?


「よし。ではそれでいこう。

 俺が無効化したら結界ごと消えてしまうからな。相手にバレないように動くならグレースの方法が最適だ」


「おけー……」


 魔法の準備に入る……と、そういえば、


「私の魔法ってグランバートにかけても無効化されないの?」


 それで無効化しちゃって、気付かずにそのまま結界にダイブしてバチーンとかなったらだいぶおマヌケだよ?


「問題ない。

 俺の魔法無効化の魔法は任意で停止が可能だ。何もしなければ基本的には常時展開されているがな。

 そうでなければ学院ではやっていけないだろう。怪我などをした際に治癒魔法の類いも無効化してしまうしな」


「そかそか。なら良かった」


 てか、そっか。

 ここに来るまでの飛翔魔法とか隠匿魔法とかも無効化されてないもんね。


「……」


「ん? どったの?」


 なんかちょっとビックリしたみたいな顔して。


「……いや、自分の能力についてこれほど簡単に話すのは初めてだと思ってな」


「わーい。初めていただきましたー」


「……お前がそんなんだからか」


 そんなんてどんなんやねん。

 せっかく人が軽く済ませてやろうとしたのに。


「まーまー。私が無害な超絶かわいい子だからってことでいいやん」


 ちょっとだけ、あの氷のような冷たい視線を待ってる私がいる。


「……そうだな。そうかもしれない」


「ぶおほっ!?」


「……なんだよ」


「あ、い、いえー、なんでもごじゃりましぇーん」


 いや、認めんな!

 これじゃ私がただのイタイ子みたいやん!

 ……え、てか、グランバートさんはそう思ってるってこと? 私のことを超絶かわいいって?  え? なに? どゆこと? いやいや、きっと無害の部分を肯定したんだ。きっとそうだ。皇帝だけに……うん。

 ……あかん。ウチにはキャパオーバーや。リア充陽キャプログラムのアップデートをお願いします。


「準備ができたらすぐに行くぞ」


「あ、へーい」


 いや、準備はできたけどさ。

 スルーなんか。お兄さんスルーなんですか。そうですか。もういいです。


「……じゃあ行くよー」


「……なんか急に機嫌悪くないか?」


「これが普通ですー。無愛想な女ですいませーん」


 自分とグランバートに結界と同じ魔力で作った薄衣を纏わせる。

 仕事はちゃんとやる子なんですー。


「……なんなんだ?」


「……はい、行くよー」


 ふーんだ。


「やれやれ。女はよく分からないな……」


 こっちのセリフじゃい。












「問題なく結界を通過できたな」


「そーね」


 私のコピペ結界は上手く機能したみたい。

 私とグランバートは屋敷の塀をヒョイと飛び越えて、難なくサイードさんの実家の敷地に侵入できた。あ、さすがに門を開けて堂々と入ったりはしてないよ。


「……どうやら気付かれてなさそうね」


 再び一帯を感知。

 位置も魔力もほとんどそのまま。

 私たちの侵入に気付いてたら魔力に多少は揺らぎが生じるはず。

 それを見逃すグレースちゃんじゃない。

 つまり、私たちは問題なく侵入できたってことだ。


「……妹の状態はどうだ?」


「……寝たのかな。今はわりと落ち着いてる」


 体の痛みで普段からあまり寝付けないんだろうね……。


「そうか。なら、このまま本邸に侵入してもいいか?」


「……なぜに?」


 どうしてそうなった。

 急いだ方がいいな……なーんてカッコつけてたのはあんたじゃろがい。


「俺の本来の任務のためだ」


 グランバートの目的……。


「えーと、王国が帝国に攻めてこようとしてる可能性があるから、その調査のため、だったっけ?」


 ん? 友好条約を結ぼうとしてるからその調査だっけ?


「端的に言えばそうとも言えるな。

 ようは王国側から提案された友好条約に裏がないか調査せよ、という感じだ。

 で、この感じだと王からの条約締結提案にはそこまで裏はないが、それを危惧してこの組織が動こうとしているという背景なんだと思われる。

 だから、この屋敷に少しでも組織に繋がるものがあればと思ってな」


「なるなる。理解理解。

 屋敷に潜入するのは別にいいけど、そんなに分かりやすく証拠を置いてるとは思えないけどねー」


 こんなたいそうな結界張ってまで侵入者対策するぐらいだし。


「それを確かめるためでもある。

 これほどの結界を張って、なおかつ直接的な証拠を屋敷に残していないとなると組織はだいぶ徹底されている。統率が取れているともいえる。

 通常は、侵入者はそもそもこの結界を通れないんだ。

 にもかかわらず組織に繋がる証拠を残していないのであれば、あちらは侵入者にそれなりの実力者を想定していることになる」


「んー。帝国のスパイ的な?」


「そういうことだ」


 まー、グランバートが実際そうだもんね。


「そこまでの備えと想定ができる組織ならば、帝国としては見過ごせないレベルの脅威と言えよう。

 場合によっては増援も呼んで本格的に潰しにかからなければならないかもしれない。

 帝国に牙を向けることの愚かさを、知らしめるためにも、な」


「……っ」


 冷たい。

 恐ろしく冷たい瞳。

 これが氷の皇太子。グランバートの本来の姿。


「……ふーん」


 んでも、


「なら、私と目的は一緒やん!

 協力してこの腐れ組織とやらをぶっ潰そうぜい!」


「!」


 私はもうグランバートを知ってるから怖くない。

 冷たくて怖いだけじゃないってことをね。


「……ふっ。そうだな。

 お前が手を貸してくれるのならありがたい」


 そうそう。

 そのニヒルな笑みこそあんたの真価よ。

 その笑った顔、私はだいぶ好きよ……なーんてね。


「んじゃまー、ちゃっちゃとお屋敷に侵入して調べて、妹ちゃんをゲットして帰ろっか」


「ああ」


 よっしゃ。イッツ不法侵入たーいむ! って、もうしてたわ。






 さて、ここでクイズです。

 冒頭のわちゃわちゃはいったいどんなシチュエーションで発生したでしょう。

 正解は次回! ……かも?




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