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22.困った先のロリバ……おっと、誰か来たようだ。てか、お前も行くんか。

「さてさて。んじゃば、これからどうすっかべや」


「……グレース嬢はどこぞの出身ですか?」


 あ、うん。気にしないで。サイードさんは真面目だからちゃんと突っ込んでくれちゃうのね。

 グランバートもステラもとっくにフルシカトだからね。


「まずは、そうだな。

 妹の状態を聞きたい。

 一刻を争うような状態なのか、あるいは薬や魔法で延命していけば問題ないのか、もしくは病弱というだけで満足には動けないが命には別状はないのか」


 あ、そか。

 打開策を考えるにしても現状を把握しないことには、だもんね。


「……二番目、ですかね。

 高価な回復薬か高度な治癒魔法によって悪化を防げています。が、何もしなければ一週間ともたないでしょう。

 とはいえ、今は私が対応する治癒魔法を使えるようになったので問題ありませんが」


「そなんだ。じゃあもういつでも逃げ出せるやん」


 サイードさんがいれば万事解決なんやろ?


「……そうもいかないのです。

 妹が住む屋敷には結界が張られ、決められた人間しか外に出ることができません。そして、妹はその対象ではないのです」


「つまり妹を屋敷から連れ出そうとすると、妹は結界に阻まれて出られないか、あるいは結界によって焼き尽くされるか、といった所か」


「……後者、ですね」


「すんごいクソ親だねー」


「まあ、もともとそのために引き取られたようなものですから……」


 サイードさん苦笑。

 そんな貴族たちだからこそ、そんなバカみたいな組織にいるわけやね。


「……失礼。サイード様は寮暮らしですよね?

 では、今は誰が妹さまの面倒を?」


 あ、そなんだ。ステラさんは何でも知っとるね。

 てか、サイードも寮なんだ。まあ、だいたいの生徒がそうか。

 きっと妹と引き離して、妹に人質としての役割を十分に果たしてもらうためだろうね。サイードの逃亡防止にもなるし。


「三日に一度、私が屋敷に帰って治癒魔法を施しています。

 ですが、処置が終われば私はすぐに屋敷から出され、その日のうちに寮へと帰らせられます」


「うーん。徹底してるねー」


 自分たちで高価な薬を買わなくていいし、なかなか素敵なクソ手段使ってくるじゃん。


「……ふむ。妹には、連れ出すだけの体力はあるか?

 もちろんこちらが妹を抱えるとして、だ」


 そーね。それがダメだとお屋敷から動かせないもんね。


「それぐらいなら問題ないでしょう。

 屋敷でも少しの間なら歩いて移動していますし」


「じゃー、妹ちゃんを連れてトンズラするのは大丈夫ってことね」


「そうなると次の問題は、連れ出した妹をどこで受け入れるか、だな」


「そーよねー」


 さすがにサイードのいる寮で匿うわけにはいかないもんね。男子寮だし、親にバレバレだし。

 たぶん、組織の人間はサイード以外にも学院にいるんだろうし。

 そうなると寮は難しい。

 私の実家なんて総本山だし、グランバートの家は辺境だし。


「あの……」


「ん? どしたの?」


 サイードが困惑した顔してるけど。


「先ほどから妹を連れ出す前提で話をしていますが、屋敷に張られた結界は私でも解除することができないほど高度で強力なものです。

 まずはその結界をどうにかする方法を探ることからじゃないでしょうか」


 あ、そか。

 普通はそういうことをまず考えるのか。


「……グレースならそんな結界、何とかできるだろ?」


「うん。たぶん壊すことも解除することもできるよ」


「なっ!?」


 どうやらグランバートさんもだいぶ私のアホみたいなスペックに慣れたみたい。

 まあ、グランバートには入学初日に力の片鱗を見せてるしね。

 でも自分でも出来るはずなのに、そこには一切触れずに私にやらせようとしてるから、グランバートは自分のことをサイードに話すつもりはないんだろうね。

 ま、当然か。

 帝国の皇太子が変装魔法で王国の王立学院にいて、しかも魔法無効化の闇属性の魔法の使い手だーなんて言えるわけないもんね。

 それにこれは私の問題。

 私の力を主に使って解決しろってことなんだろうね。

 だから私もそれに従うことにする。

 

「だからさ。連れ出すことは問題ないから、その先のことから考えよって話なのよ」


「……あ、貴女は本当に、よく分からない人ですね」


 うん。それは前世からけっこう言われる。

 私の中では話が繋がってるし進んでるんだけど、私はおバカでその過程を説明しないから混乱させちゃうことがあるのよね。

 ま、グランバートは頭いいから汲み取ってくれるみたいだけど。

 あ、そういう話じゃないって?


「誰か、引き受け先として挙げられる人物はいないか?」


「……そんな人物がいたら、はじめから頼っていますよ」


「まあ、そうだよな」


 グランバートの質問にサイードが苦笑しながら首を横に振る。


「私も、お嬢様のご実家以外には繋がりがなく、申し訳ありません」


「……俺もだな。実家は遠すぎるし、こちらには入学したばかりだから伝手もない」


 ステラさんは帝国出身だけど、さすがに帝国は遠すぎるもんね。

 同じ理由でグランバートも。


「うーん。ゆーて、私もおんなじようなもんか」


 実家にいた時は入学直前ぐらいまでは、まだ私が私じゃなかったから友達なんていないのよね。悪役令嬢だったから。

 皆から嫌われてたのよ。ぴえん。


「組織と関わりがないことが明白で、かつ組織と貴族から二人を守れるだけの権威と実力を持った存在か」


「それは、なかなかに難しいですね」


「そもそも組織と繋がりがないことを確かめる術が我々には……」


「うーん……」


 なんだろ。なんか、最近そういう人と関わったような……。


「……あ、いたわ」


「「「……え?」」」


 あ、揃った。










「……てなわけで、先生のとこでサイードさんの妹ちゃんを匿ってやってほしいんですよー」


「……何が、てなわけで、じゃ」


 てなわけでやって参りました。

 ロリババア先生ことエミーワイス先生の研究室に。

 前回来たときのルートと変わってなくて良かったよ。

 ま、扉の仕掛けは前回よりも凶悪になってたけどね。下級悪魔(レッサーデーモン)の召喚とか、あんた魔界への空間もイジれるんかい。私とグランバートで容赦なく叩きのめしたけど。


「な、なんだ、ここはっ」


 先生の謎空間にグランバートも驚愕。

 今日は一面の星空、てかもう宇宙よね。

 そこに椅子とテーブルが置いてあって、先生は優雅にティータイムしてた。


「こ、こんなことが……」

「これは、魔法、なのですか?」


 サイードもステラもビックリ顔。

 やっぱり初見だと驚くよね。魔法の範疇超えてるでしょ、これ。

 ロリババア先生はもはや神様の域やろ。あ、年齢的にはそれぐらいなのか?


「ったく。許可なくお主以外の者を連れて来おって」


「まーまー。事情が事情だったのでー」


 とか言いつつ、私がここに向かってる時点で全員の選別は終えてるんでしょ?

 で、お眼鏡にかなったから全員でここに来れたのよね。

 だから私に釘を差す意味で言ってるだけってのは分かってんよ。


「……ふむ。まあよい。

 それより妹の件だが……」


 ごくり。


「ま、良いじゃろ。

 ワシの所で面倒を見てやろう」


「ほ、本当ですかっ!?」


「おわっとっ」


 サイードが私を押し退けてぐぐいっと先生に詰め寄った。

 サイードからしたら藁にもすがる思いだったんだろうね。


「お主。そんな安易にワシを信用してよいのか?

 ワシがもしかしたら組織の元締めかもしれぬぞ?」


「高潔なエルフ族がそんな下賤なことをするはずがありません」


「……ま、その通りじゃが。お主、その思想は些か危ういぞ」


 そういうトコを組織に突け込まれたのかねー。


「ま、いいじゃろ。

 ただし、お主の知る組織の情報を余すことなくワシに提供することじゃ」


「もちろんです! 私の知る限りの情報を!」


 いつになく真剣な顔つきで先生に宣言するサイード。


「……いいじゃろう。

 だが、誘拐犯になるつもりも、それに手を貸すつもりもない。

 妹は秘密裏にここに連れてくること。

 もしも妹をここに連れて来ることがバレたり、拐ったのがお主らだとバレた場合はワシは妹を引き受けない」


「つまり、妹ちゃんを連れ去ったのが私たちだってバレずに、かつここに連れて来たことを他の誰にも知られないようにしろってことね」


「そういうことじゃ。

 そうしたら、あとはワシが何とかしてやろう」


「おっけー。余裕のよっちゃんイカよ」


「なんじゃって?」


 あ、気にせんとって。

 前世でウチのパピィが事あるごとに言うからうつっただけだから。

 元ネタは知らん。


「とにかく、そうなればあとは妹ちゃんを連れ出すだけ。

 いつやる? 今から行く?」


「そ、そんな急にですか?」


 だって善は急げって言うやん?


「……次に屋敷に行くのはいつだ?」


「……明日、です」


 お、グランバートさん軽く私の言葉を無視したでしょ。

 ジョーダンやん。さすがに私も今すぐ行こうなんて思ってないよー。


「……ならば、グレースの言うとおり今夜決行しよう」


「あ、ホントに?」


 ジョーダンじゃなかった。マイケルじゃなかった。

 ちなみにマイケルなジョーダンを現役では知らない系のJKです、私。


「いずれにせよ、今日のグレースの報告を屋敷に行った時にする予定だったのだろう。

 その内容を考えるのも面倒だし、敵にわずかな情報を与える必要もない。

 魔法の類いで記憶を取られていたら厄介だしな」


「い、いつもは口頭による報告だけですが……」


「それの真偽を精査する魔法が使われてないとも限らない。

 これまでは報告を偽ったことはないだろう?」


「た、たしかに……」


 なるほど。報告がホントかどうかを判断する魔法か。

 たしかに光の属性の魔法にそんなのがあったな。


「ならば、お前はもう屋敷に行かない方がいい。

 妹が連れ去られたことが露見してから行ったら拘束される可能性が高いしな」


「な、なるほど。理解しました」


 人質たる妹ちゃんがいなくなったら、それは間違いなくサイードの関与が疑われるもんね。

 たぶん捕まったら拷問でもされて、いろいろ白状させられちゃうんだろうね。


「でも、そうなるとサイードは実家から召集されても帰れないよね。

 それで帰らなかったら、もうほぼサイードが犯人じゃない?」


 実家の命令に忠実に従ってきたのに、人質がいなくなった途端に帰還を拒むとか、自分が犯人だって言ってるようなもんじゃん。


「そのあたりはワシに任せておけ。

 何とかしてやろう」


「マ?」


「ま?」


「あ、マジで?」


「マジじゃ」


「それは助かる!」


 マジで! めっちゃ感謝!


「妹さまが連れ去られたことが学院に伝わるのは明朝でしょう。

 ならば、サイード様にはアリバイが必要かと」


 あ、そだね。さすがステラ。さすステ。


「寮にいればいい。

 寮は人の出入りを記録している。

 結界があるから秘密裏に出入りはできない。

 この記録は正式に提出できるレベルの、信頼性の高いものだ」


「あ、そなんだ」


「……入学式初日に説明があっただろ」


「あ、そなんだ」


「……はぁ」


 いや、しょーがないやん!

 初日はホントにいろんなことがありありだったのよ! おしっこ漏らしそうになったし!


「明日、サイードさんは取り乱してみてもいいかもね。

 妹ちゃんに治癒魔法をかけてあげないといけない日なのに! って。

 で、動揺して混乱してるから実家からの召集命令もきいてない、みたいな」


「なるほど。ありですね」


 だしょ?


「ふむ。それもワシの方でも利用させてもらおう」


 あ、どーぞどーぞ。


「よっし! じゃー今夜、私がちゃっちゃと行ってくるわ!」


「待て。俺も行く」


「へ?」


 グランバートさんも?


「いや、私一人で平気だよ?」


「お前一人に任せておくと何をやらかすか分からん」


「いや、信用ないな、私」


 まあ、自覚はあるけど。


「……(それに、心配だからな)」


「はい?」


 なんか言った?


「いや……とにかく、俺も同行する。拒否権はない」


 そんなとこで氷の皇太子発揮すな。


「で、でも、アリバイ的なあれがー」


 正直、ちょっと危ない橋なわけだし、グランバートさんにそこまで迷惑かけられないっていうか、危ない目に遭ってほしくないっていうか。なんかそういうアレなんよね。本音言うと。


「お前自身のアリバイはどうするつもりだ。

 何か手があるんだろ?」


「ギクッ」


「そんな分かりやすく言葉にするヤツいるんだな」


 はいここに。


「えーと、いろいろやって私の生体情報そっくりの魔法情報体を作りましてですね。その子に寮にいてもらってアリバイにしようかと」


「……王国の審問官もビックリですね」

「まったくじゃ」


 あ、そうなんですか? すいません。サイードさん、ロリババア先生。この事はご内密に。


「それは、俺の分も作れるな?」


「はい、作れます」


「よろしい」


 なんかこの流れさっきもやった。


「もー。分かりましたよー。

 足引っ張んなよ」


「ふっ。誰に言っている」


 ちくしょーイケメンだなー。


「グレース様、クロード様。どうか、よろしくお願いいたします」


 深々と頭を下げるサイードさん。

 ただのイケ好かないヤツかと思ってたけど、妹思いのいいヤツだったのね。

 そういう人はけっこう好きなのよ。

 グレースちゃん頑張っちゃうよ!



 てなわけで、次回!

 グレースちゃんとグランバートによるお屋敷大突入わちゃわちゃドタバタ大活劇! …………に、なればいいなぁ。




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