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20.膝枕 ストーカー皇太子と メガネ飛ぶ (字余り)

「むにゃ……はにゃ?」


「おはようございます。お嬢様」


「んー?」


 目が覚めるとそこは……


「ステラの膝枕だったにゃー」


 楽園(エデン)でしたとさ……。


「お加減はいかがですか?」


 豊かなお胸の向こうにステラの綺麗なご尊顔。

 お加減ですって?


「我が人生に一辺の悔いなし!」


「ふふ。お元気なようで何よりです」


 うんうん。ステラも私のキモ反応に慣れっこね。


「よいしょ」


 名残惜しいけどステラの膝から起きる。


「一人で寮に向かって歩いてる時から記憶がないんだけど、ステラが回収してくれたの?」


 寝ながら歩ける私。

 起きたら周りに魔物の死体だらけとかじゃなくて良かったわ。


 ……うん。そんな経験あったなんて、うん、言わないよ……。


「はい。本日は入学初日。

 しかも予定していた時間よりも帰りが遅かったので、何やら野暮用でもあったのかと。

 そうなるとお嬢様は眠くなってしまわれる可能性が高いと判断し、お迎えに上がりました。

 すると寮までの道を目をつぶりながら歩いているお嬢様を発見。そのまま回収しました。

 そうしてお部屋まで連れ帰り、私がお着替えから入浴、お食事から歯磨きも済ませ、一緒にベッドで眠り、私が起きたあとは膝に移動していただき現在に至り、私はそれはもう幸せな時間を、うふふふふ……」


「そっかー。さっすがステラ。ありがとー」


「こちらこそありがとうございます」


 私もステラのそういうたいがいなとこに慣れたわよ。お互い様だねー。


「それで。昨日はどのような想定外な出来事が?」


「あ、えっとねー」


 例によってステラに髪を整えてもらいながら昨日の出来事を報告する。

 ステラには何でも相談するし、すれば鋭い指摘や意見をくれるから助かってる。


「……なるほど。

 サイード、ですか……」


「知ってる?」


 鏡に映るステラは手に持つ櫛はしっかり動かしながらも、視線はとっても鋭い。

 切れ者って感じよね。


「いえ。私も屋敷では大人しくしていたので、旦那様のそちら側の情報には疎く」


「そっかー」


 帝国出身であるステラは父親から嫌われていた。

 よく手もあげられていたみたい。ま、ステラはその程度の攻撃なんて全然平気みたいだったけど。

 でもこの言い方、普通の貴族としての私の父親の情報に関してはある程度把握してたのかも。

 やっぱりステラは諜報目的なのかな。ま、今はそれはいっか。ステラはどうやら私の味方でいてくれるみたいだし。


「ちなみに、そのサイードとやらのファミリーネームは?」


「……おら、忘れただ」


「……そうですか」


「スマソ」


 言ってたっけ?

 まったくといっていいほど記憶にございませんでございますよ。

 え、言ってないよね?

 知らない。私は知らない。聞いてない。うん、そうだそうだ。


「では、私の方でも調べておきます。

 日中はわりと自由に動けるので、久しぶりに本領発揮といきましょう」


「頼りにしてます。ステラ姐さん」


 屋敷ではとにかく大人しくしてないといけなかったから、下手に暗躍もできなかったんだろうね。

 ここは詳しいことは姐さんに任せよ。


「でさ。サイードが私に接触してきたときの対応なんだけど」


 ステラにも相談しときたいのよ。


「そのクロードとやらの一つ目の提案で宜しいかと」


「だよねー……?」


 なんか、ステラさん怒ってます?


「……ところでお嬢様。

 そのクロードとやらを私はいつ始末していいのでしょうか?」


「……え? なんで始末?」


 ステラさん?


「そんなどこぞの馬の骨とも分からん輩にお嬢様は渡しません。

 婚約? は? 斬ります」


「ステラさん。落ち着いて。

 ホントの婚約者じゃないから。

 お互いに利用してるだけだから。

 お願いだから私のクラスメートを斬らないで」


 どうしよう。ステラさんが怖い。

 ステラにはクロードイコールグランバートってことは言ってないから、相互利用の因果関係に対する理解が薄いのは理解してる。

 ステラに打ち明けるにも、一応グランバートにお伺いを立てるのが筋ってもんだろうし。


「それはそれで、こんな可愛らしいお嬢様に本気にならないなんておかしいです。

 普通なら舞い上がります。

 その男は男が好きなのですか? あるいは不能なのですか?」


「……ステラさん。不能はやめよう」


 あと、グランバートがもしBのLだったら私が喜ぶから。そっちもイケる系女子だから、私。


「彼は自分の目的があるのよ。

 そのためにはそんなことにうつつを抜かしてる暇なんてないんだと思うわ……」


 そう、よね。

 私だって私の目的があるからグランバートを利用してるだけで。

 お互いにそうで。

 そこに、それ以外の余地なんてあるはず……ないよね?


「……まあいいでしょう。

 ですが、もしも彼奴がお嬢様に手を出すようなことがあれば、私の剣が彼奴の下の剣をぶった斬ると伝えておいてください」


「そ、そんなことは伝えられませんっ」


 やめて。下の剣とかやめて。

 そんな美しい顔でそんなゲスなこと言わんで。私が喜ぶ。

 てか、キャツとか言う人初めて見たわ。


「まあ、お嬢様に手を出せるような輩がこの世界にいるとは思えませんがね」


「そ、そうだねー」


 うーん。どうなんだろ。グランバートの魔法無効化なら私を無力化することは可能だからなー。

 まあ、あいつはそんなことはしないだろうけど。


「ま、とにかくサイードの調査は任せたよ。

 私はうまいこと煙に巻く方に全振りして、あんまり探りを入れないようにするからさ。

 取引とか情報交換には応じないから、私からはサイードから情報を取れないと思うわ」


「承知しております。

 お任せください」


 うんうん。頼りになるわー。


「んじゃ。今日も元気にいきますか!」


「はい! ちなみに今日のパンケーキのトッピングはいかがしますか?」


「フルーツ! ホイップ!

 もりもりのもりで!」


「ふふふ。かしこまりました」


 













「おはようございます。グレースさん」


「おはよーございます! ルビー様っ!!」


 そうして、いつものようにルビーと合流して学院に向かう馬車へ。

 今日もルビーたんは麗しいでございますね。


「ふふ。今日はいつにも増して元気ですわね」


「え、そうですか?」


「ええ。何か良いことでもありまして?」


「いえ! 特に!」


「そ、そうですか」


 そーね。なんなら昨日は先生に魔力バレして、サイードが怪しいことが分かるっていう、あんまり宜しくないことの方が多かったものね。


「だが、私は元気です!

 元気ぐらいしか取り柄がないのです!」


 そう!

 前世ではメガネくそ陰キャオタクJKの根暗ネガティブガールだったからね!

 今回はポジティブ陽キャガールでいくよ!

 なんか、日に日に枕詞が増えてる気もするけど。脳漿が炸裂してる系ガールみたいな枕詞が追加された気がするけど。

 ま、とりあえず今世は元気にポジティブにいくのです!


「あらあら。そんなに自分を卑下することはありませんが、それでもグレースさんが元気でいてくれるのなら嬉しいですわ」


「ルビー様が喜んでくれるのなら私は永世元気人間でいきます!」


「……たまに貴女の愛が怖いですが、そうしてくれるなら嬉しいですわ」


 ふふふ。愛が怖い? 有り難きお言葉っ!


「じゃあ、今日も一日学院頑張りましょう!」


「ふふ。そうですわね」


「ルビー様。こういうときは『おー!』って言うんですよ」


「そ、そうなんですの?」


「はいっ!」


 そうなんですの。

 ノリよノリ。陽キャはノリで生きてんのよ……たぶん。


「さあ、いきますよ!

 声を合わせて『おー!』で!」


「え、え、あ、は、はいっ」


「今日も一日頑張りましょう!」


「おー!」

「え? あ、お、おー!」


 うん、ズレた!
















「はーい。じゃあ今日の授業は以上だー。

 おつかれー、かいさーん」


「帰るの速っ!」


 相変わらずソーヤ先生は授業が終わると爆速で帰る。

 まあ、ぐだぐだホームルームやる系の先生よりは嬉しいけど。


「んーーーっ」


 大きく伸びをする。

 今日の授業は取り立てて珍しいものはなかった。

 実践魔法の授業は昨日の実技の、それぞれの振り返りと課題について。

 私は魔力の制御と威力向上に向けての練習に重点を置くようにって、いろいろ訓練方法を教えてくれた。次回からはそれを基に基礎訓練を各自で行いつつ、新たに魔法に関する別の授業もするんだって。

 魔法のレベルや種類が人それぞれによって違いすぎるから、こうやって個別にやりつつ全体授業も進めていかないといけないみたい。

 けっこうダルいから実践魔法の授業を担当しようっていう先生が少ないらしい。

 ソーヤ先生は例のロリババア先生に脅された挙げ句、多額の報酬に目が眩んで引き受けたんだって。先生が正直すぎる件。


 あ、私の場合は魔力の制御っていう方が本筋で、威力向上は建前ね。

 先生は私の魔力が多いってことを知ってるから、威力は出そうと思えば勝手に出ちゃうことを理解してる。

 だからまずは魔力の制御を覚えろって。でも授業ではたいした威力じゃなかったから、他の生徒に向けて威力向上も加えたってわけ。


 実際、私は自分の魔力や魔法の威力が他の人とどれぐらい解離しているのか分かってない。

 無自覚系チート主人公にならないように自重は最優先で覚えないといけない事項だから、この訓練内容は利にかなってるのよ。


「グレースさん。わたくしはここで。

 今日は寮での当番があるから早めに帰ってこいと寮から言われておりますの」


 ま、私の今日の本番はこれからだしね。


「ええ。ごきげんよう」


「ごきげんよう」


 事前の調べ通り、今日はルビーは寮の日直的な役割で一緒には帰れない。

 こういうの、爵位とかの区別なく割り振られるから学院ってスゴいなって思うよ。


 名残惜しそうなルビーを笑顔で見送る。


「……」


「……」


 クロードが他の人には気付かれないように目配せしてから教室を去る。

 私はそちらは見ないように、のんびりと帰り支度をする。

 クロードとは合図を決めた。

 サイードが私に接触してきそうだと思ったら、帰り際に合図を送ると。

 そのときはクロードが私を尾行しながら待機してくれる手筈だ。

 

 でも、私は合図を送らなかった。

 今日は大丈夫だと。

 クロードはそれを確認したから、そのまま帰途に着いたはず。


「……さて」


 私も支度を終えて席を立つ。

 まだ教室に残っているのは数名。

 その中には予想通り、サイードの姿も。

 今日は先生に用があるからとライトたちと帰るのを断っていた。


「……」


 教室を出て歩き出す。


「……ふむ」


 教室を探知し続けていると、やっぱりサイードも席を立った。


 今日は馬車を手配してない。

 サイードが接触してくるまで帰りの馬車はいらないとステラに言っておいたのだ。

 父親の手先が接触してくるとしたら、ロリババア先生の結界のない学院の外。

 何かあった際に私を始末することも視野に入れると必然的にそうなる。

 で、ルビーが先に帰って、かつ私が馬車を手配せずに歩いて帰る今日こそが絶好のチャンス。

 私はサイードが私に接触する機会をわざと作ったのだ。


 ……ま、たぶんそれはあっちも分かってるだろうけど。

 サイードは頭がいい。

 これが誘い込むための罠だってことは分かってるだろうね。

 ただでさえ、私とクロードが昨日接触してるのをサイードは見てる。

 こうなることはお互いに想定済みってこと。

 ま、これでサイードも私が彼と話したがってるって分かったでしょ。


 まあ、私は父親の手先にチョロチョロされるのがメンドいから早めに話をつけたいだけなんだけど。

 私ってばほら。いつボロを出すか分からんやん?

 だから、常に父親の手先に監視されてるのは嫌なんよ。


「……」


 学院の門から出る。

 昨日と同じように、ここから歩いて寮に向かう。

 馬車はたまに通るけど、この道を歩いて帰る人はほとんどいない。

 ここは学院と寮を繋ぐ道で、普通の人はあんまり通らないから。


「……」


 舗装された石畳を進む。

 左右は繁み。というか森。

 ちなみにサイードは森の中を私にバレないように進行中。

 どうやら先回りしたいらしい。

 この先の分岐で馬車もさらに減り、登下校以外では人がほとんど通らなくなる地点がある。

 サイードはそこを狙うつもりだろうね。

 そうしやすいように、わざわざ教室でノロノロと支度をして他の生徒たちの馬車を先に行かせたんだから。むしろ来てくれなきゃ困る。

 ホントはさっさと帰ってステラに癒されたいんだから。


「……はぁ」


 でも一個、懸念点がある。

 クロードことグランバートさんがついてきてるのよ。

 なじぇ? あんた先に帰ったやん。合図送らなかったやん。


「……」


 しかもご丁寧に私の感知系の魔法を無効化して。

 でも私にはグランバートの居場所が分かる。

 グランバートは自分に向けられた魔法は無効化できるけど、無差別の範囲系魔法は無効化するのが難しい。

 だから私はグランバート対策で広域魔力感知結界を作って展開してる。

 魔法を作る、なんて設定は本来の物語にはないんだけど、なんかやってみたらできた。さすが私。サスワタ。

 この魔法なら領域内の全ての魔力を感知できる。

 しかもこの規模の魔法を展開しても、ここはもうロリババア先生の領域内じゃないからバレない。

 でも隠密性を重視してるからスペックは高くない。

 そこに魔力があるってことが分かるだけで分別はつかない。

 しかもロリババア先生クラスが結界内にいたら、さすがにバレる。

 サイードにはバレてない。

 たぶんグランバートでも頑張れば気付くことができると思う。

 でも私の感知魔法を無効化してることで、それ以外の結界魔法に対する警戒が緩んでるみたいでバレてない。


 結果、向こうはバレてないと思ってるけど、私はグランバートが尾けてきてることに気付いてるって構図が出来上がった。


「……はぁ」


 思わず溜め息が出る。

 グランバートはサイードと接触するときは自分に教えろと言ってきたけど、私は一人でこっそりサイードと相対するつもりだった。

 彼には彼の目的がある。

 心配してくれるのはありがたいけど、あまり迷惑はかけられない。

 だからサイードが接触してきそうだと思ったら言うね、と言っておいたんだけど、どうやら私の魂胆はバレバレだったみたい。


 まさかサイードが接触してくるまで毎日私を尾行するつもりだったのかな。

 それはいささか怖いけど、まあその心配はなさそう。

 だってサイードは今日ここで接触してくる気満々だもん。


「……」


 分岐路を進み、人気(ひとけ)のない道を歩く。

 サイードがこちらに近付いてくるのが分かった。


「……」


 ガサガサと音を立ててサイードがやってくる。

 もう存在を隠すつもりもないらしい。

 グランバートはそれに魔力を一切乱すことなく尾行を続ける。

 サイードはグランバートの存在に気付いてない。さすがは帝国の皇太子。その辺の技術も一流らしい。


「だ、誰かいるのですかっ!?」


 普通の人が気付くであろう距離までサイードが近付いてから、怯えたように声をあげる。

 普通の女子生徒なら、こんな人気がなくなったタイミングで森の中から近付いてくる人の気配を感じたら相当怖いだろうから。

 そんなことを平気でしてくるサイードはやはりヤバい系の人間なんだろうな。


「……正直、貴女という人間を測りかねています」


「サ、サイード様?」


 森から出てきたサイードに怖がりながらも、見知った顔に少しだけホッとした感じで。

 んで? 今なんつった? ごめん。全然聞いてなかった。

 私のスリーサイズを測りたい? セクハラかっ!


「貴女はアイオライト家の子女なんですよね?

 当主の娘。

 密命を受けるほどに評価された存在。

 にもかかわらず、ずいぶんと腑抜けた様子ですね」


「!」


 メガネをくいっとサイードさん。

 あ、もう隠す気はないのね。

 これでサイードが私の父親の手先であることは確定。密命、なんて言っちゃってるもんね。

 しかもなんだか不服そう。

 父親から密命を与えられるほどの存在のはずなのに、私がずいぶんと不甲斐ないからってことみたい。

 そりゃまたずいぶんな言い種で。

 てか、私の父親って組織の中でも端役でしょ? べつに私の役目もたいしたものじゃないと思うけど。


「……ふん。どうせ、その庇護欲を煽るような容姿なら王子の誘惑も容易だと思われたのでしょう。

 貴女程度ならばそんなものでしょう」


 あ、はい。私、この人キライです。

 その見下したような態度、目。人を見た目だけでカテゴリにはめる思考。

 私は貴方の内面がキライです、はい。


「……んでー? あんたは私になんの用ですかー?」


「!」


 キライなのでもう気を使わなくていいでしょ。

 父親の手先なんだし。どーせクズやろ。


「ふっ。そっちが本性か。

 やはり組織での噂通りの悪女のようだな」


「それはさーせんでしたー」


 わざと態度を悪くしてみせれば、そら見たことかと決めつける。

 これはこれで御しやすいかもね。

 そっちがそうくるなら、私は望み通り悪女を演じてみせるぜよ!


「で? 私の婚約云々の話を聞きたくて、本当は接触するべきではないのに私にわざわざ声をかけてきたわけ?」


 髪をファサってやりながら、少しだけ責めるように。


「……思ったより話は通じそうですね。

 その通りです。

 どういうつもりなのです?」


 サイードのことを父親の手先であると認識した上で、その立場まで理解している様子の私にサイードは気を引き締めた様子。

 そのメガネくいっとサイードさんは癖なのかな?


「どうもこうも、演技に決まっているでしょう?」


 腕を組んで見下すように。絵に描いたような悪役令嬢をイメージ。


「……演技、ですか」


「私のお父様からの密命をご存知?」


 ついでに本当に知ってるのか確認しよ。


「……第二王子ライトの婚約者となること。彼を籠絡し、傀儡にせよ、と」


「分かってるじゃない。

 ならば別の男との婚約など、カモフラージュでしかないことなど少し考えれば分かるはずではなくて?」


 ちょっとバカにしてみる。

 なんかちょっと悪役ムーブにハマってきたわい。


「……今の貴女ならばそう思ったかもしれませんが、学院での貴女を見ていると、到底そのような考えがあるようには見えませんでしたね……」


 うんうん。サイードさん、ちょっとタジタジ。

 いつの間にかマウント取られてることに気付いてないね?

 こういうときは会話の上位性を取られたらアカンのよ。


「男爵令嬢でありながらその才を見出だされて学院に入学。しかし、実際はその実力はたいしたことはなく。

 本人は真面目でひたむきで、実力不足ながら懸命に努力して精進しようとする。

 あの世話焼きなライトが助けたくなる設定だと思わない?

 それにほら、庇護欲を煽るような容姿なんでしょ?」


「っ!」


 首をかしげて妖艶に笑ってみる。

 だいじょび? ひきつってない? キモくなってない?


「……ならば、なぜクロード氏と婚約などと?」


 いいねいいね。グレースちゃんワールドに引き込んできたよー。


「私に秘密の婚約者がいる。

 その方がルミナリアも、魔法や勉学を教えてくれるライトと、真面目でひたむきな私を安心して二人きりにしてくれるじゃない?

 二人きりのその場で何が行われているかも知らずに、ね。

 それに、秘密の共有は親密性や信頼を勝ち取るのに最適の手段ですわよ」


「……貴女は、やはり噂通りの怖い人ですね」


「ありがとう。最高の誉め言葉よ」


 うんうん。

 ここまでは順調。

 えーと、でももうネタ切れだなー。

 てか、このあと私はどうするんだっけ?

 あ、そうだ。

 私はこの通り父親の密命に忠実に動いてるから心配するなって言えばいいんだ。


「そう。そして私はこれからライトが世話を焼いて勉強や魔法を教えてくれるよう仕向けていくところ。

 だから貴方はお父様に……」


「……ならば、貴女にはここで死んでいただきます」


「……へ?」


 なんて?


「……【アクアブレード】」


 サイードの腕に水でできた透明な剣が現れる。

 実態のない、物体を透過してその先のものを斬れる不可避の刃。水の中級魔法。


「え? いやいや、なんで?

 だって計画はじゅんちょ……」


「くらえっ!」


「いや、ちょ、まっ!」


 いやいやいやいやいや、なんでやねん!

 ちゃんと理由言ったやん!

 なんで殺しに来んねん!

 どないなっとんねん!


「……すみません」


「え、なんて?」


 迫り来る刃。

 感覚強化してるからゆっくり来るとはいえ、やっぱり刃物怖い!


「くそっ!」


 あ、グランバート。いや、間に合わんて。


「やばっ」


 剣が向かってくる。

 あれは防御してもすり抜けて私だけを斬ってくるから避けなきゃ。

 あ、でもいろいろ考えてたら間に合わぬ。

 えー、どうしよ。あーうーもー。

 えーい。めんどい!


「刃物こわーーーいっ!!!」


「ぶぎゃぼらっ!?」


「……あ」


 そうして、私のそこそこ強め魔力パンチはサイードの魔法を吹き飛ばして、ついでにサイード自身も森の中へと吹き飛ばしたのでしたとさ。


 グッバイサイード、永遠(とこしえ)に……。




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