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17.ライトとルミナリアはなんだかバイオレンスな関係性で、きっと私は風邪を引いていて、おじいちゃん先生に皆は引いていて、そして魔法の実践授業が始まるのでした。

「おはようっ!

 グレース・アイオライト! ルビー!

 俺は待っていたぞ!」


「おはようございます、ライト殿下」


「……お、おはようございますー」


 王立学院二日目。

 ルビーとの友情を再確認し、順風満帆で平和な学院生活を送ろうと決意を新たにした矢先、それをぶち壊すであろう天下の第二王子様にお声を掛けていただけてわーい嬉しいなー泣いちゃうーぴえーん。


「聞いたぞ! グレース・アイオライト!!」


「な、なにがでしょう……」


 王子様? 非常にお声が大きゅうございます。

 ここは学院の校門でございまして、周りには登校中のさまざまな学年の生徒たちがわさわさおりまして、そして王子様である貴様は非常に目立つわけでございまして。そうなると必然的に私にも好奇の目が向けられるわけでして。

 あと、なんで私だけフルネーム呼び? 個人情報保護保護過保護で頼んますわ。


「俺は感動した!

 非常に感動したぞ!

 クロードのその男気、その勇気、その誠実さに!!」


「ラ、ライト殿下? す、少し場所を変えませんか?」


 えーとですね。

 

 クロードって誰やねん。

 そもそもあの女誰やねん。

 ライト殿下カッコいい!

 ルビー様素敵!

 で、あのちっこいのにでっかいの何?


 周りの方々のお声は概ねこんな感じでございます。


 王子様。貴様この目たちが分からないのか。

 常に人の目に晒される王子属性は盲目属性なのか。


「しかし驚かされたぞ!

 まさかグレース・アイオライトとク……」


「ちょっ!」


 ダメだコイツ!

 箝口令敷いといて自分が理解してな……


「ロー……ぶぎにゅやっ!?」


「おはようございます、皆さま」


「おわっとぉっ!?」


 たぶん私とクロードが婚約してるって知って驚いたって言おうとしてたライトだけど、後頭部を思いっきり学生カバンで叩かれて地面にぶっ倒れたのでした。


「危ないところでしたわね」


「お姉さまっ!」


「ルミナリア様っ!?」


 そして倒れたライトの代わりに、私の眼前には見目麗しいルミナリアが姿を現したのよ。

 今日もサラサラ黒髪ロングが美しい。けど、今日は耳の上あたりに片方だけに小さなリボンをつけてる。なにそのワンポイント。可愛すぎか。美しいアンタが可愛くしたら無敵艦隊すぎよ。


「お、おはよう、ルミナリア」


「あ、生きてた」


 完全に殺る勢いで人体急所である後頭部を思いっきり殴ってたけど、ライトもなかなか頑丈よね。


「おはようございます、ライト殿下っ」


 うん、ルミナリアさんいい笑顔。

 今はその笑顔がちょっと怖いどす。


「殿下。ちょっと向こうでお話がありますわ。

 一緒に参りましょう」


「おお。内緒の話か? これは楽しみだ。

 グレース・アイオライト。ルビー。

 俺はこれで失礼するよ。また授業でな」


「はい。ごきげんよう」


「ご、ごきげんよう……」


 ライトの首根っこを掴んで引きずっていくルミナリア。

 ライトはそれを気にせずに私たちにバイバイする。


 いや、どっちもメンタルどうなってんの?

 王子様は鈍感属性が標準装備な上におバカ属性までついてんの? ある意味無敵か?


「……!」


 あ、去り際にルミナリアにウインクされた。

 あとは私に任せとけってことよね。

 アンタのウインクは殺傷力が高いのよ。


「最初は驚きますわよね、あのお二人の関係性は」


「……は、はい、まあ」


 ルビーは慣れっこみたい。

 どうやらあの二人はあんな感じの関係値みたい。

 暴走気味のライトをルミナリアが教育を兼ねて躾する、みたいな?

 いや、どんな関係よ。


「でもあれで、お姉さまは殿下に首ったけなんですのよ」


 あ、そなの?

 お姉さまってば、けっこうなドエス的な?

 調教するのがお好き的な?

 私もお願いしたい的な。


 でもそれって。


「ライト殿下もそうだからこそ、成り立っている関係性ですね」


「!」


 ライトもルミナリアにベタ惚れだからこそ、バイオレンスなルミナリアの教育も許容するし、ルミナリアもそこに愛があるから成り立ってる。それにライトはそれが王子たる自分のためって分かってるってことよね。

 ……まあ、ただのドエムな可能性は否定できぬが。


「そう! そうですわっ!」


「わっと!?」


 再び両手をぎゅっとルビーたん。

 近すぎてガチ恋するからやめてほしいけどやめてほしくないジレンマ。


「初見でそれを理解するなんて、グレースさんなかなかやりますわ!」


「おおう」


 ずずいっとルビーたん。


 なんか、ルビーってちょいちょい私と同じ匂い感じるんよね。オタクくさいっていうか。

 ま、私としては大歓喜なんだけど。


「理解度の浅い貴族たちがディーブイだの、暴力で王子の権力を我が物にしようとしてるだの、本当に好き勝手言いやがって、わたくしは毎回毎回腸が煮えくり返る思いでしたわ!」


「ル、ルビー様もなかなかに拗らせておりますわね」


「え? 何か言いまして?」


「あ、いえ、なんでもないですわー」


 アブネー。心の声を漏らしちゃうのマジで気を付けないと。

 でも、ルビーとはマジで親友になれそうな気がする。同じ匂いしかしないわ。


「ルビー様」


「あ、ガルダ! と、サイードまで。どうしましたの?」


 と、ここで筋肉ダルマと嫌味メガネ生徒会長の登場。

 ルビーたん。ガルダとサイードで反応が違いすぎて丸分かりよ。ホント可愛いな、アンタ。


「担任のソーヤ先生から今日の授業の準備を手伝うようにと我々三名に指令が下りました」


「まったく。なぜ貴族たる我々が……」


 メガネをくいっと生徒会長。あ、ホントに生徒会長ではないよ。あだ名よ。

 てかアンタ、プライド高そうだねー。生きにくそうでむしろ応援したくなるわ。


「あら。分かりましたわ。

 グレースさん、ごめんなさいね。わたくしたち、先に行きますわ」


「いえいえ。

 あ、私も手伝いましょうか?」


 それに比べてルビーたんの良い子っぷりったら。

 爪を垢を煎じて飲ませてやりたいわ、私に。


「ふん。貴様の手など借りる必要ない!」


「サイード!!」


 おっと、メガネぎらりと生徒会長。

 で、ぷんぷくぷんなルビーたん。

 これはやめといた方が良さそうね。


「すみません。余計な申し出でしたねー。

 ではルビー様。頑張ってください」


「……ごめんなさいね。いってきますわ」


「いってらっしゃいませー」


「ふんっ」


 メガネくいっアンド私をギロッで立ち去るサイード。

 ホント徹底してるなー。

 でも私に押し付けないで自分でやりに行くあたり、そこまで悪い奴じゃないんじゃないかって思っちゃうよね。ま、嫌な奴ではあるけど。


「……さて」


 うん。

 分かってるのよ。

 私が一人になるタイミングを窺ってる気配がさっきからずっとあるのは。


「ちょっと貴女!」


「……」


 ほーら。さっそく。背後から甲高い声。

 こういう人ってマジでタイミング図るの上手いよね。


「……おはようございます。

 何か御用でしょうか?」


 とりあえず、くるりと振り返って笑顔で挨拶。

 誰だろ。まったく知らん人×三人。


「何か、じゃないですわ!

 貴女、調子に乗ってるんじゃないの!」

「そうよそうよ!」

「その通りよ!」


「……」


 私はいま、正直テンションが上がっている。

 なぜなら私はいま、異世界の貴族の嫌味な令嬢たちに絡まれているのだから!

 このシチュエーション! 幾度となく小説で出てきた展開!

 ああ! 私はいま、ヒロインをしているっ!!


「何ちょっと笑ってんのよ!」

「ニヤってしてますわ!」

「してますわ!」


「はっ!!」


 違う、そうじゃない。

 私はヒロインをしてはいけないのよ。

 モブをしないといけないのよ。

 じゃないと、私に待っているのは氷の皇太子による首ちょんぱエンドなのよ。

 あかん。浸ってる場合じゃなかった。


「ちょっと! 聞いているのかしら!?」

「かしら!?」

「ら!?」


「……」


 しかもニヤけてたらしい。

 キモすぎるだろ、私。

 えーとえーと、どうしよ。


「あ、申し訳ありません。

 私のような下級貴族に話しかけてくださる心優しい方だと思ったら、思わず笑みが溢れてしまいました」


「へ? ……あ、えと……」

「へ? ……あ……」

「へ」


 どうよ。

 自分を下げて相手を持ち上げる。

 我が前世の国の民の得意技やで。

 ぶぶ漬け食わしたろか?


「このような見苦しい顔をお見せしてしまい申し訳ありません。

 私のような下賎な者は笑う価値もございませんよね」


「あ、貴女、そこまで自分を卑下するものではないですわ」

「ないですわ」

「わ」


「私のような虫に勿体ないお言葉」


 ふふふ。引いておるわ。

 なんだか絡むのが申し訳なくなるぐらい卑下するこの戦法。私もなんだか虚しくなるぜ。


「え、えーと、な、何を言いに来たんだったかしら」

「だったかしら」

「ら」


 名前も知らぬ三人のご令嬢が困惑しておる。

 我が策略にまんまとハマっておるな。

 てか、三人目楽だな。


「と、とにかく! あんまり殿下たちと仲良くするんじゃないわよ!」

「じゃないわよ!」

「!」


 ついに三人目がビックリマークだけになったで。


「承知いたしました。

 分を弁えた行動を心掛けて参ります。

 不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。

 お気遣いいただき、まことにありがとうございます」


 深々と頭を下げる。

 表情作りも完璧に。


「わ、わ、分かれば、よろしいのですわっ」

「ですわっ」

「っ」


 周りの目が気になりだしたご令嬢方。

 むしろ私に対する憐れみの目が増えていく。

 てか、三人目さんよ、それだとちょっとニュアンス変わってくるぞい。


「と、とにかく、そういうことですの!

 それでは、また教室で、ですわ!」

「ですわ!」

「ビックリマーク!」


「ご、ごきげんよう」


 あ、同じクラスだったのね。

 あと三人目さん、もうビックリマークって言っちゃってるよね? アンタけっこう面白い人やね。ちなみにエクスクラメーションマークだからね。


 そうして走り去っていくクラスメートだったらしい三人組。

 無自覚系チートヒロインならもっとこう、実力見せつけてからの「私、何かやっちゃいました?」みたいな展開だったんだろうし、悲劇のヒロイン系なら可哀想にいっぱい言われて王子様に助けてもらったり慰めてもらったりって展開だったのかなー。

 でも、私が目指すはヒロインではなくモブ!

 こうしてうまいこといなして凡人をやっていくに限る!

 メガネくそ陰キャオタクJKの隠密空気読み力をナメんなよ!

 しかもここの王子はあの王子だしね。


「朝から大変そうだな」


「あ、クロード」


 と、ここでグランバート扮するクロード参上。いや、タイミングよ。


「一連のやり取りを傍観してた人に言われたくはないわね」


「やはりバレていたか」


「むしろ私に気付かれないと思っていたのなら驚きよ」


 こちとら馬車から降りた段階でライトのこともさっきの三人組のことも、それら全てを遠くから見張ってる貴方のことも気付いていたんだから。

 ま、クロードはそれに気付いてたんだろうけど。


「なかなか上手いこと切り抜けたではないか」


「だしょ?」


 陽キャの絡みから逃れる術なら任せんしゃい。


「……だが、これからもそんなふうに自分を卑下してやっていくつもりか?」


「そだけど?」


 え、なんかダメだった?


「……あまりやりすぎるなよ」


「へ?」


 なんで?


「……俺が、相手の奴らを殺してしまいたくなる」


「いや、それは我慢してよ」


 なんですぐそんな物騒な感じになるのよ。

 あんたもモブでいたいんでしょ。

 てか、あんたがなんで私のことでそうなっちゃうのよ。


「分かってはいるが、お前が悪く言われるのはなぜだかあまり看過できない」


「そ、そですか」


 あれ、なんだろ。

 なんかちょっと、嬉しい?

 いや、よく分かんないな。


「まー、でも、私がぶち殺しちゃうよりはああする方がいいでしょ?」


 って、ここでふざけちゃうのが私なんだよなー。


「……ふっ。そうだな」


「わぷっ」


 この人はすぐに人の頭をナデナデしてくんなー。ま、悪い気はしないけど。

 ちっちゃいから撫でやすいんだろうね、私。


「だから、そのときは俺が代わりに怒ってやる」


「お、おお……」


 いや、それはさすがにときめいちゃうわ。

 勘違いしちゃうからやめて。

 調子に乗るなよ、私。


「よし。いくぞ。

 まもなく授業が始まる」


「う、ういむしゅー」


 ちょっとドキドキしてる自分に驚き。

 私にそんな感情あったのか。

 クロードの手があった頭がまだ熱い。風邪か?

 風邪ってことで片付けさせてくれないかな。


「トイレは寄るか? 行っておいた方がいいぞ」


「うっさい。そこはイジるな」


「行くだろ?」


「……行っときます」


 うん、風邪だ。

 私の心臓と頭は風邪を引いております。

 だからこんなに顔面が熱いんだ。そうなんだ。くそう。

















「はい、ではー、魔法座学の時間だよー」


 そうして、ようやく王立学院での授業が始まった。

 いきなり魔法に関する座学かららしい。

 担当の先生は頭からブロッコリーが生えたみたいな髪型で、白い長い髭を生やしたおじいちゃん先生だった。


「よ、っとー。あー、届かんねー」


 先生がチョークを持って黒板に何か書こうとしてるけど、背がちっちゃくて届かないみたい。気持ちは分かるぞ、先生。

 てか、このおじいちゃん先生かわいいな。

 話し方もおっとりしてて穏やかで。癒し枠だね。


「やれやれ。仕方ないねー」


「……へ?」


 ところが、突然先生の手足がもりもりと盛り上がっていって、手足だけが筋肉もりもりのマッチョになって背が三倍ぐらいになった。

 いや、キモっ!


「むううー。ちとデカすぎたねー」


 袖とか裾とか破れてるし。

 どうやら植物の根を絡み付けてるみたい。

 よく見たら手も植物だ。


「つ、土の属性の最上位魔法に植物に干渉する魔法があるとは聞いたことがありますが、実際に見るのは初めてですわ」


「そうなのですね」


 ルビーも周りの皆も驚いてる。

 実際、命ある植物に影響を与えるほどの土の魔法ってのはかなり高レベルだ。

 今の私では扱うのはかなり難しい。

 つまり、あのおじいちゃん先生はそれだけの実力者ってことだ。

 てか、あの人入学式にいなかったよね?


「ゲント先生は授業以外では植物園に籠っているらしいですわね」


「あ、そうなんですね」


 入学式っていう大事な式典でもってこと?

 この学院、個性的な人多くね?


「えー、ではー、まずは魔法の基本からー、やってこうかねー」


 そのムキムキでその喋りだと怖いんすけど。


「えー、魔法はー、火、水、風、土、光、闇の六つの属性があってー」


 おじいちゃん先生は植物の手で器用にカリカリと黒板に文字を書いていく。

 あ、もう普通に進めるんすね。


「魔法は魔力によって成りー、人がそれぞれ持つ魔力の色によってー、それぞれの属性の魔法となるよー」


 補足すると、魔力の性質ってのは人の魂に繋がっているものだから生まれたときから決定していて、それが変わることはない。

 で、その魔力の色は魂の色でもあるから、普通は一つの属性以外を持つはずがない。

 これは人間じゃなくてもそう。

 龍族だろうが魔族だろうが獣人だろうがエルフだろうが、誰だって使える魔法の属性は一つだけ。

 だからこそ、私はこの世界では異端なんよ。闇以外の全ての属性の魔法を使えるんだからね。

 魂が五個あるのか、魂の色が五色なのか、とにかく化け物なのよ。

 ま、その理由は私の覚醒イベントで明らかになるんだけどね。まあ、私はそんなとんでもな力を求めてないからやる気はないけどさ。


「でー、魔力は魂と呼応してー、大気の魔力と呼応してー、魔力を源として魔法を使うんだよー。

 まー、皆もう知ってるだろうけどおさらいねー。

 あとー、属性には相性もあるよねー。

 水は火に強くー、火は風に強くー、風は土に強くー、土は水に強いよねー。

 光はどれにも強くないけどどれにも弱くなくてー。

 闇はまー、能力次第かなー」


 なんか、マジで癒されるなこの先生の話し方。てか、眠くなりそうで困る。たぶん学院で教わることは全部知ってることだし。

 こっそり眠気覚ましの魔法を使い続けてるから平気だけど。


「えー、そんじゃ次はー、それぞれの属性の特徴の説明ねー」


 あ、私の斜め前の男子生徒が船こぎ始めた。

 たぶん皆もこの辺は既知の内容なんだろうね。気持ちは分かるぞ。


「んー?」


 あ、おじいちゃん先生にバレた。

 起こされるのかな。温厚そうなこの人が怒るとこ想像つかな……


「ぶぎゃっ!?」


「!?」


 と、思ってたら突然、居眠りしてた男子生徒が私の横を猛スピードで吹っ飛んでいって、教室の後ろの壁に叩きつけられた。


「居眠りはいかんよー。死んじゃうよー」


「おおう」


 前を見ると、おじいちゃん先生の肩甲骨から植物が伸びてて、男子生徒がいた席に拳の形を作ってた。

 どうやらあれに吹き飛ばされたらしい。


 え、あの温厚そうなおじいちゃん先生がやったの?


「僕は戦時中はねー、千人(くび)きのゲントって呼ばれて恐れられてたんだよー。

 大事な授業だからねー。聞いてませんでしたで死んじゃったら困るんだよー。

 だからちゃんと聞こうねー」


「……」


 この先生ヤベー。

 皆の気持ちが一つになったのを感じるよ。


「はい。じゃあ次ねー」


 吹き飛ばされた男子生徒は伸びた植物の腕に掴まれて席に戻されてた。ご丁寧に気付けの魔法で目覚めさせてから。

 あんだけぶっ飛ばされたのに顔にアザひとつないし。先生の実力具合が怖すぎる。


「グ、グレースさん。もしもお互いが寝てしまいそうになったら、お互いに眠気覚ましの魔法を掛け合いませんこと?」


「さ、賛成ですわ」


 激しく同意ですわ、ルビーたん。














「はい。じゃー、この時間は実際に魔法の訓練をやってくぞー」


 あのあともいろんな先生のいろんな授業を受けて、今日のラストはソーヤ先生による魔法訓練だ。

 魔法を実際に使うから、皆で学院の敷地内の原っぱみたいなとこに来てる。魔法の演習場みたいだね。

 あ、そうそう。この学院、ちゃんと算数とか社会とかみたいな授業もやるのね。歴史の詳しいのとかは知らなかったけど、他は前世でJKやってた私からしたら問題なく理解できるレベルだったよ。


「基本的にそれぞれの属性を考慮した合同授業になるけど、まずはそれぞれの実力を知りたいから、あっちにある的をそれぞれの魔法で好きに撃ち抜いてくれー」


 そう言って先生が指差す方向には木でできた的が何本も地面に埋められて、まばらに立っていた。


「あれ、埋めるの大変でしたわ。自動修復の魔法とやらを使うのに魔力を込めながらやらないといけなくて……」


 ルビーが遠くを見つめながら疲れた顔をして呟いてる。


「……あ、それを手伝ってたんですか。お疲れ様ですー」


 いや、生徒にやらすなや。

 ソーヤ先生てば、自分がやるの面倒だからやらせたでしょ。

 先生からしたら、ライト周辺の生徒たちの実力はある程度把握してるから別にいいかみたいに思ったんかな。


「はい。じゃあ、誰からでもいいぞー」


「もちろん俺からだ!」


 うんうん。こういうときに一番に名乗り出てくれるライト様、けっこう助かるよ。

 私はこういうときいつも最後から五番目ぐらいの、皆が飽きてきて、かつトリじゃない地味なところでやりたいからね。


「……」


 あ、クロードことグランバートが私に視線を送ってる。

 分かってんよ。手を貸せってんでしょ。

 闇の属性であることを隠したいクロードは風の属性だってことになってる。

 つまり、クロードがやるときに皆にバレないように私が風の魔法を使って、あたかもクロードがやったみたいに見せかければいいんでしょ。

 ちゃんと遠隔発動は心得てるから安心して。


「……ふんっ」


「……?」


 クロードに返事をするつもりで、気合い入れてウインクなんてしてみたり。

 ルビーがこてんと首を傾げてて可愛い。


「グレースさん。そんなに目をぎゅっとつむって、目にゴミでも入りまして?」


「……あ、はい。そうみたいですー」


 うん。私、ウインクできなかったわ。

 ま、ともあれ、クロードのときも私のときもやらかさないように無難に行くよ!


 ……うん。フリじゃないよ?



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[一言] 相変わらずみんなキャラが濃いwww
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