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16/34

16.仮初めの平和だと分かっていても追い求めずにはいられないのが乙女なのよ

「……うーーん……むにゃ?」


 私、起床!


「おはようございます。お嬢様」


「おひゃひょー。ふふぇふぁー」


 学院生活一日目を無事(?)に終えた私はそのままステラの膝枕ですやすやぐっすり。

 起きたらいつの間にかベッドにいた上に、何やらお風呂まで入っていた模様。


 いや、まったく気付かなかったんだけど。

 ステラに聞いたら、「メイドの嗜みです」とか言ってたんだけど。

 え、なんか怖い。私が寝てるうちにアレヤコレヤされても気付かないじゃん! ……ま、ステラならいっか、ぬふふ。


「お嬢様。ご気分はいかがですか?」


「おかげさまで最高よ。ありがとう、ステラ」


 どうやら寝てるうちにふくらはぎのマッサージもしてくれてたみたいで、けっこう歩き回ったのに足のむくみも疲れもなくてスッキリ爽快なのよ。

 やっぱり持つべきものはステラよね。


「んーーーっっと。

 さ、今日から授業も始まるし、頑張っていきますかー」


 両手を天井に向けて伸びをする。


 パジャマの隙間から覗く見事な大山二つにもずいぶん慣れたわね。

 身体強化の魔法を使ってなかったら肩こり凄そう。


「……よっと!」


 ベッドからぴょんと飛び起きる。

 昨日あんだけいろいろあって疲れてたのに、それを全く引きずらずに元気いっぱい。

 いやースゴいわ、私。あーんどステラのサポート。

 前世の私も若かったけど、万年運動不足のメガネクソ陰キャオタクJKだったもんで、体育でちょっと走っただけで次の日は一日ずっと筋肉痛だったからね。

 やっぱり本物のJKはこうでなくちゃ!


「うん。そして今日も可愛い!」


 姿見に自分の姿を映せば、寝起きなのにサラサラの長い金髪に澄んだ空の青の、デッカい瞳。ツンと伸びた鼻に桜色の可愛らしい唇。ちっちゃい背に、それに見合わぬ豊満なお胸の最強ロリ美少女が爆誕しとる。

 これはヤバいわ。

 どんぐらいヤバいって、もうヤバいしか言えないぐらいにヤバいわ。

 こんなん、可愛すぎてモテモテハーレム構築できちゃうわ。

 実際、物語でのグレースはライトに狙いを絞りつつも、いろんな有力貴族の子息にも手を出してたみたいだからね。

 だからライトが王太子の座を奪って王になろうとしても、そんなに反対の声が出なかった。

 子息をツテにその親である貴族の方も篭絡したからね、グレースは。

 色気でいける人は色気で。あるいは金で。あるいは力で。

 グレースはその身一つで王国を掌握していったのよね。


「では、お(ぐし)を整えていきますね」


「お願いしまーす」


 化粧台に腰をおろし、ステラに朝の支度をしてもらう。


 メイドさんに身支度してもらうのにもだいぶ慣れたわね。

 もともと転生する前のグレースがやってもらってたのもあるけど、貴族ってそういうもんって小説とかで知ってたから、わりとすんなり受け入れられた。


「……お嬢様の髪は、今日もお綺麗ですね」


「ありがとー……って、なんか近いよ?」


「ふふふ。ふふふふ……」


「いや、なんか怖いわ」


 人の髪をガン見して(とか)しながら微笑み浮かべないでくださる?

 え、髪の毛食べないよね? ステラもグランバートみたいに変態属性ないよね? 帝国の嗜みとか言わないよね?


「でも、ステラの髪もいつもサラサラだし、銀色が綺麗な素敵な髪よねー」


「!」


 メイドタイム中は高めのポニテにしてるのもポイント高し。うなじ舐めたい。

 しかもお風呂ではその髪をハラリと解いてくれるという神イベント付き。

 ステラは私の髪を楽しそうに(?)梳かしてくれるけど、私はステラの姿と後頭部に当たる胸の感触を楽しんでるからお互い様なのよ。


「……そう言っていただけるのは、ずいぶん久しぶりですね」


「……あ」


 そか。

 家じゃ帝国出身の証である銀髪は侮蔑の対象だもんね。

 寂しそうな顔させたな。


「……前には、言ってもらったことあるんだ」


「!」


 家のことには触れずに、ちょっと気になったから発言の方に言及してみよう。

 ステラはあんまり過去を話さない。

 家の人たちが帝国を嫌いだから当たり前なんだろうけど、私には話してほしいとは思う。

 でも、本人が話したくないなら話さなくてもいいかなとも思う。

 誰にだって、触れられたくない過去はあるはずだ。


 私だって、ちょっとここでは言えない黒歴史がそりゃもう……ふっ。


「……私、帝国ではそこそこの地位にいたことがあるんです」


「!」


 てっきり適当にはぐらかされると思ってた。


「それが流れ流れて今はここにいますが、かつて、私が剣を教えた弟子がそんなことを言ってくれたことがありましたね」


「えー! そうなんだ!」


 興味あるー! めちゃめちゃ聞きたい!

 え、こういう時ってどこまで突っ込んで聞いていいの?

 こういう時にコミュ障陰キャが出ちゃうよねー。

 めちゃくちゃ誤魔化してたけど、空気読まずにどんな地位だったのー? とか聞いていいかな? さすがにダメかな?

 あ、そだ。


「お弟子さんがいたんだね。ステラ、剣スゴいもんね」


「はい。なかなかに優秀な子でしたよ」


「ふーん……」


 鏡越しにステラを見ると、なんか懐かしんでるような微笑み。

 そのお弟子さんのことを思い出してるのかな。

 あんまりステラのこんな顔見たことないかも。

 楽しかったんだろうなってのが伝わってくる。


「……ねえ、ステラ……」


「はい?」


 ……どうして、帝国からこんな国に来たの?


「……ううん。なんでもない」


「はあ……」


 って聞こうと思ったけど、なんか聞けない。

 聞いちゃいけない気がして。

 きっと、いろんな事情があったんだろうから。


「さ。出来ましたよ」


「ありがとっ! わっ! 可愛い!!」


「ふふふ。初めての授業ですからね。気合い入れちゃいました!」


「わーい!」


 可愛らしいハーフツインにしてくれた。

 まさにヒロイン!

 ツインテにしちゃうとロリババアと被るし、狙いすぎな気もするしね。

 やっぱり可愛く生まれ変わったからには可愛くしなきゃ!


「では、朝食の準備をいたしますね」


「オナシャス!!」


 ステラのことは、ステラが自分から話してくれるまで触れないでおこう。

 きっといつか、私には話してくれるような気がするから。


「今日のご飯はなんじゃろな!」


 テーブルに移動してご機嫌に尋ねる。

 家じゃこんなことしたら父親に怖い顔されるからね。

 メイドには威張って怒鳴って「遅い!」。これがマストのクソみたいな家だったからね。


「ふふふ。今日はパンケーキですよ」


「やった!

 ハチミツ苦手! ホイップ大好き! 冷凍フルーツはブルーベリーのみ許そう!」


「ふふ。分かってますよ」


 やっぱりこういう感じがいいよね。

 私も前世では、家ではこんな感じだったから。典型的な内弁慶だったから。

 外に出たら「あ、えと……あの、その……」だったけどね!


「さすがは私のステラたん!」


 ま、そんなことは今はもういいのよ!

 んーなことより、まずはご飯!

 腹が減っては戦はできぬ!


 ……うん。今日もまた戦になりそうな予感がしてるんだよ……うん。あたしゃね、もう分かってるんだよ、うん……。














「グレースさんっ!」


「ルビー様!」


 ご飯食べて元気百倍になった私が部屋を出ると、ルビーが待ってましたと言わんばかりに姿を現した。

 え、ホントにずっと待ってた?


「お、お、お、おはよう、ございます……です、わ……」


「おはよーございますー」


 ルビーたん。なんでちょっと緊張しとる?

 なんか最後の方、声めちゃくちゃちっちゃかったよ?


「や、やった。お友達と朝のご挨拶をできましたわ」


 ルビー様。その小声、バッチリ聞こえてますわよ。向こう向いてるけどしっかり聞き取れてますわよ。


 そっか。ルビーはずっとボッチ街道を突き進んでたんだもんね。


「ふふふ。ルビー様と朝のご挨拶ができて嬉しいです」


「わ、わたくしもですわっ!」


 アンタ、ホント可愛いな。

 そんなパアッと顔を明るくして。


「もう朝食は済ませてまして?」


「はい。お付きのメイドが用意してくれますので」


「では、このまま学院に向かいましょうか」


「はい!」


 この寮には食堂もあって、朝ご飯と夜ご飯は食堂でとることもできる。お昼は学院の食堂ね。

 門限はあるけど外で食べてもいいし、一人だけ家から連れてくることを許されてるお付きの人に作ってもらってもいい。

 どうやらルビーももう朝食をとったみたい。


「グレースさん。今日の髪型、とても可愛らしいですわね」


「ありがとうございます!

 メイドがやってくれました!」


 さっそく髪型の変化に気付いてくれるルビーたん。

 あんた、本気出せば女子にモテるよ。


「……ふふ。あんまりメイドのおかげ、みたいに言う貴族は少ないのですが、グレースさんらしいですわね」


「あ、そうなんですか?

 だって私自身は朝がものすっごい弱いから、ステラがいないとボッサボサ頭で毎日登校することになりますよ」


 いや、これはマジで事実。

 前世からの悪癖よ。

 毎日、お母さんにベッドから放り投げられて、ご飯食べながら髪の毛やってもらってたからね。

 いや、我ながらダメ人間でしたわ。


「ふふふ。

 わたくしも、きっとメイドがいなければ同じですわ」


 ルビーも私と同じようにメイドを連れてきてる。

 たぶん四十代ぐらいのベテランメイドさん。

 ルビーが心を許してるみたいだから、幼い頃からお世話してもらってたのかもね。

 今はたぶん、ステラと同じように部屋の片付けとかいろいろやってると思う。


「ふふ。お揃いですね」


「そうですわね」


「あ、ルビー様も、今日は素敵な髪飾りをされてますね」


 褒めてもらったらこっちも褒めなきゃね。

 ま、そんな気を使わなくても褒めたいとこはいっぱいなんだけど。


「ふふ。ありがとうございます。

 これはね、幼い頃にガルダからもらったものですのよ」


「あ、そうなんですか?」


 やるやん、筋肉ダルマ。


「わたくし、けっこうクセっ毛でして、今はメイドが綺麗にウェーブをかけてくれますが、昔はぼわぼわした頭のままで走り回ってましたの」


「へー。活発な幼少期だったのですね」


 今は、髪はホントに綺麗にセットされてるし、こんなに落ち着いてお淑やかなのに。

 やっぱり貴族の教育ってスゴいんだなー。


「ふふ。やんちゃすぎるぐらいでしたわね。

 それである日、わたくしの髪が枝に引っ掛かってしまったことがありまして。

 ガルダが取ってくれたのですが、その数日後にこれを……」


「へー。素敵なお話ですね」


 ルビーが優しく髪飾りに触れる。

 どう見ても髪留めじゃなくて髪飾りだし、そんだけボンバーなヘッドなら意味ない気もするけど、そういうことじゃないのよね。

 ガルダが自分のためを思って贈り物をしてくれたってことが嬉しいんだよね。





「わあ! いい天気!」


「本当ですわ!」


 外に出ると、空は見事に晴れ渡り、太陽が燦々と輝いていた。

 これは今日も暖かそうだ。


 いい。

 こういう平和なのが私は好きなのよ。

 こうやってずっと平和にのんびりやっていきたい。

 ……うん。望むだけなら自由だろ?


「馬車は手配してありますわ。

 行きましょう」


「ありがとうございます!」


 本当は私が用意しとかないといけないんだろうけど、ルビーに自分が用意するから何もするなと言われてしまったので、ありがたくお言葉に甘えることにしたんよ。

 たぶんルビーは友達のために自分でやりたいんだろうし。


 寮から学院までは馬車で十分ぐらいの距離にある。

 それぐらい歩けよって思うけど、そうしたら御者さんたちの仕事がなくなってしまう。

 貴族たちが優雅に暮らすことで生活できている人もいる。

 だから遠慮や過度な節制は平民の仕事を奪うことにもなりかねない。

 私たちが贅沢をすることで生活が成り立っている人もいるのだ。

 って、建国系の転生モノの小説で読んだ覚えがある。

 恋愛モノばっか読んでてそういうのは忌避してたけど、いざ自分が転生したときのためにもっとクリエイト系のも読んどけば良かったな。……自分が転生したときのいざってナニ?


 ま、それで堕落して民の生活を苦しめるようなのは論外だけどね。

 そこのバランスも大事よね。

 どこまでが民のためで、どこからが自分の贅沢なのか、その線引きを誤るようでは為政者としては失格だろう。


「……」


「今日はどんな授業をするのでしょうね」


「そ、そうですねー」


 馬車に乗り込む。

 ルビーと外の景色を嗜みつつ、他愛ない話をしながら馬車に揺られる。


 ……けど、じつは懸念していることがあってちょっと緊張してる。

 ステラが出掛けに言っていたことだ。





『これから大変でしょうが、頑張ってくださいね』


『あ、うん。結局いつもバタバタだもんね』


『いえ、そういうことではなく』


『?』


『お嬢様はクロード様と婚約者の関係だと公表したのですよね?』


『まー、それが最善っぽかったからねー』


『旦那様の、お嬢様のお父様からの命令は第二王子と婚約すること、であるにも関わらず』


『……あ』


『これが旦那様のお耳に入れば謀反と取られるでしょう。

 なにせ最優先命令を思い切り無視しているわけですから。

 まず間違いなく使者が問いただしにくるでしょうね。

 最悪、その使者が暗殺者である可能性も』


『忘れとったわ、私』


『はあ……』


『どーしよー』


『お嬢様の腕ですから暗殺者の件はあまり心配していませんが、そうですね、まずはあの場にいた方々に箝口令を敷くべきでしょうね。

 相手は完全に目上の存在ですからモノを頼むのも恐れ多いでしょうが』


『そ、そっかー』





 てなわけで、私はこれからあの場にいたメンツにクロードとの婚約は内緒にしてーって言わないといけない。

 てか、ホントはあの場で言っとかないといけなかったのよね。

 あのあと、皆が家に帰って家の人にそのことを話してたらアウトだもん。

 

「あ、あのさー、ルビー様ー」


「なんですの?」


 まずは一番お願いしやすいルビーに頼もう。

 ルビーならきっと快くお口にチャックしてくれるはず。


「昨日さ。私とクロードが婚約してるーって話があったじゃないですか?」


 ルビーはどうかおウチの人に話してませんよーに!


「ああ。わたくし、とてもビックリしましたわ」


「そ、そうですよねー。それでー……」


「ご両親に反対されている、内緒の婚約だなんて」


「……へ?」


 ワッドゥーユーセイ?


「あ、聞いてませんの?

 あのあと、ライト殿下のもとで皆さんでお茶会をしていたら、クロードさんがやってきましたの」


「え!? クロードがっ!?」


 あの人は何をなさってるのかしら!?


「ええ。

 そこでその場にいた皆に、『俺たちの婚約は二人だけのもので家の許可を得ているわけではありません。仲良くしていることも両親は快く思っていません。ですからどうか、このことはご内密にお願いします』って言って頭を下げてましたわ」


「そ、そーなんだー」


 さすがは帝国の皇太子グランバート。

 あらかじめそうやって動くことを決めてたってわけね。


「ライト殿下はその誠実さに感心して、その場にいた全員に貴女たちの婚約に関して箝口令を敷かれましたわ」


「そっかー。よかったー」


 ライトの命令なら皆従うしかないもんね。

 これなら安心やで。


「グレースさんっ!」


「うひゃいっ!?」


 突然手をガシッとしないで!

 綺麗な顔面と甘い香りにクラクラしちゃうから!

 貴女の至近距離は私を殺せるのよ!!


「わたくし、応援しますわ!

 めちゃくちゃ応援いたしますわ!」


「お、おおう」


 ルビーたん大興奮。

 いや、可愛いけど。


「家に秘密の、二人だけの内緒の婚約。ああ、なんて素敵な響き。こんなの物語の中だけのお話だと思ってましたわ。まさかわたくしがその状況に関われるだなんて。おウチで絵本を読んでる頃から憧れてたシチュエーション。囚われの姫をいつか白馬に乗った王子様が迎えに来てくださるのよ! 素敵! 素敵ですわ!」


「おーい。ルビー様ー?」


 いや、めっちゃしゃべるやん。

 帰っておいでー。

 気持ちは分かるぞー。でも帰っておいでー。

 端から見るとまあまあ痛いぞー。

 私もこんなんだったのかー。ルビーは美人だからいいけど、前世の私がこれだったと思うとだいぶ痛いな。複雑骨折の粉砕骨折だな。


「はっ!」


「あ、おかえりなさいませー」


 お早いお帰りで。


「し、失礼しましたわ」


「いえいえ」


 むしろ同じ匂いを感じられて嬉しいぐらいです。


「とにかく、お二人の関係は誰にも言いませんし、わたくしに出来ることがあれば何でも言ってくださいませ。

 と、と、と、友達の助けになることならば援助は惜しみませんことよ!」


「……ありがとうございます、ルビー様」


 これはホントに嬉しい。

 昨日会ったばかりなのに、私のことをそんなふうに思ってくれる友達がいるのってやっぱり嬉しいし安心する。

 私の居場所はここなんだって思える。


「……私も、ルビー様に手助けが必要なときは微力ながら全力で力になりますので」


「ふふふ。ありがとう」


「どぅへへ」


 これよ。

 私が求める平和はこういうのよ。

 切った張ったの世界なんていらんのよ。

 世界の覇権なんてどうでもいいのよ。

 こうやって友達とのんびり平和に過ごす。

 これが私が求めるものなのよ。


「着きましたわ」


「ええ。いきましょう、ルビー様」


 ずっと、こういう平和が続けばいいな。


「よーう! 来たな!

 グレース・アイオライト!!」


 そう、思っていた時期が私にもありました。


「……短い平和だったぜ」


 ええ。分かってましたとも。

 ドタバタやらかし体質の私にそんな平和など訪れないってね、ぴえん。





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[一言] ルビーたんきゃわわ( ˘ω˘ )
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