13.不用意な優しさは時に乙女を傷付けるものなのだよ。勉強したまえ、ふん……
「……やってもた」
怒鳴った勢いで魔力放出。ロリババア先生ほどの魔力量でもなきゃ壊せない水晶を見事に粉砕。皆のポカンとした顔。
「はぁーーーーーっ」
お手洗いを済ませて、鏡の前で長い長いため息を吐く。
いや、すっきりはしましたけど、それどころではないのですよ。
そっちはすっきりだけど、あっちはワタワタなのですよ。
おわた。おわたですよ。
チート主人公の一話目お決まりムーブですよ。
いや、こんなんどうやって収拾つけるの?
だいたいこういうのって周りがフォローしてくれたり、「み、見間違いかな?」みたいな感じでうまいこといったりするのが定番だけど、私の場合はそうもいかんやろ。
周りはほぼほぼアウェーだし。弁解のしようもないし。ルビーも驚いてたし。頼みのグランバートにはあっさり見切りつけられて捨てられそうだし。
何より、この物語がチートバレする流れなんだもんなー。これは回避できないやつだったのかしらねー。
「……戻りたくないなぁ」
逃げるようにしてお手洗いに駆け込んだけど、戻ったあとのことを考えると足がドントムーブって言ってる。
え、私どうなるの?
この王国でも最強に近いレベルのロリババア先生に匹敵する魔力量を保有してることが分かって。
きっとたぶんおそらく間違いなく父親にもこのことは伝わるよね。学院にも父親の一派の手の者はいるんだろうし。
父親に連れ戻される? 実験体? それとも養子に出される? 魔王にでもされる?
いや、あるいは学院や国で研究材料にされる?
もしくは一生を国のために費やすような奴隷に?
「オホホホ。どれも嫌ですわ」
考えれば考えるほど悪い未来しか想像できない。
せっかく転生して、こーんな金髪青目の豊満ボディの超絶可愛い子になれたのに。
そんな悲しい結末なんてナンセンスすぎるのだよ!
「……逃げるか?」
このまま教室に戻らずに脱走して、ステラを連れて王国を脱出してみようかしらね。
物語ではこの王国と帝国しか出てこなかったけど、どうやら他にも国はいろいろあるみたいだし。まあ、帝国が最大国で、次点が王国みたいだけど。
どっか遠くのマイナー国で、ステラと一緒に平民としてほのぼの暮らそうかな。
ステラならついてきてくれるだろうし。
それもありだな。
なんかちょっと、オラわくわくしてきたぞ!
「逃げるでないわ」
「うひゃっ!?」
え! ロリババア先生っ!?
さっきまで間違いなくここには私しかいなかったはずなのに、いつの間にか私の後ろにロリババア先生ことエミーワイス先生が立ってた。
え? いや、ホントにいつの間に?
これでも探知系の結界は常に展開してるんだけど。この人、その中に急に現れたよ?
「どうやらお困りのようだの?
このエミーワイスに話してみよ?」
「え?
……あ、えっとですね」
なんかよう分からんけど、この人には私の実力が見抜かれてるから話してしまおう。
何かの糸口になるかもだし。
「……てな感じで。もう国外脱出しかないなと途方に暮れていた今日この頃なのです」
「……」
正直にさっき起きたことと、ここでの私の葛藤を話すと、先生は下を向いた。そんで……。
「……ぷっ」
「え?」
「はっはっはっはっはっ!!!」
「笑うとるでよ」
ロリババア先生大爆笑ですよ。
ツインテゆらゆら大爆笑美少女。これは、うん、いいな。
「いやー、すまんすまん」
そんな、目元の涙拭うほどですか?
そんなに私の恥態がウケたんかコラぁっ!
「お主はそのうちやらかすだろうなとは思うとったが、思いの外早かったの」
「……早すぎましたね」
さっきの今よ?
息を吐くようにやらかす女。それが私よ、ぴえん。
てか、先生にもそう思われてたんだね、正解です。助けて。
「どれ。今回はワシがどうにかしてやろうかの」
「え、マジで!?」
「ん?」
「あ、いえっ。ホ、ホントですか?」
やべーやべー。心の私の声が出とった。
一応、お偉いお貴族様の学校だから頑張ってお上品にいきたいのよね。
グランバートには速攻バレたけど。
「ふむ。まあ、可愛い生徒のためだからの」
嘘くせっ。
「……本音は?」
「お主ほどの実力者を他国に逃がすのは勿体ない。ワシが管理して手元に置いておきたい」
「……今はありがとうございますと言っておきます」
「それが賢明じゃの」
本音バリバリ晒してくるけど、私からしたらそれぐらい分かりやすい方がむしろありがたいかも。
貴族のあの回りくどい感じ、けっこうメンドいのよね。
現役JKが腹の探り合いで煩わしく感じるって相当よ?
なんで貴族とかいう生き物は三百六十五日、絶えずあんなことしてんの? 駆け引き止めると死んじゃうの? 回遊魚なの? 面子ってなに? プライドってなに? 美味しいの?
「それに理由はもう一つあっての」
「な、なんでしょう?」
ニヤリとロリババア。
可愛いけど怖いんすけど。
「これでお主に貸しを一つ作れた、ということだからの」
「ぬぐっ」
「ワシの貸しはデカいぞ?」
「しゅ、出世払いで」
私は今、悪魔と契約しようとしているのでは?
「ま、いいじゃろ。お主は出世しそうだからの」
でも、今は悪魔にでもすがらないとこの状況をどうにかできない!
可能ならば、この国で平和にのんびり暮らしていきたいってのが本音だし。
「さて。では、お主の属性はなんじゃ?」
「あ、火です」
ってことになってます。私の中では。
「魔力量は、普通にするかの?」
「あ、えと、中の下ぐらいが、いいです」
なぜ、それを今確認しよっと?
「よし。
では、さっそく行くとするかの」
「へ? さっそくって? ……わひゃっ!?」
先生が地面に手をかざしたら、足元に魔方陣が展開された。
私と先生が二人とも円に入るぐらいの大きさ。
その魔方陣が光りだす。
「こ、これって?」
「動くでないぞ」
ニヤリとロリババア。
もはやエロく思えてきたんだけど、その妖艶な笑み。
「あ、えっ!?」
やがて魔方陣の光が大きくなって私の視界を真っ白に染めた。
そして、
「到着じゃ」
「エ、エミーワイス先生?」
「……へ?」
聞こえたのは担任のソーヤ先生の驚いたような声。
「……教室?」
光が収まって周りを見ると、ポカンとした顔の生徒たちが。
正面にライトとルミナリア。右手奥にはルビーと、さらに奥にはグランバートも。
グランバートだけは険しい顔してる。
どうやら私と先生はトイレから教室に一瞬で転移したらしい。
ちなみに転移魔法なんてものは物語では出てこない。属性も分かんないし。
いや、マジでこの人は化け物よ。
私ってば、だいたいその魔法を見れば術式を理解して自分でも使えるようになるんだけど、この人の魔法だけはまったく分かんない。
発動するまで、ううん、発動してもどんな魔法なのか分かんないのよ。
マージでこの人だけは敵に回したくないよね。
「せ、先生。ど、どうしてここに?」
なんかソーヤ先生キョドってね?
エミーワイス先生にビビってる?
「ふむ。見事にぶっ壊したのう」
肝心のロリババアはソーヤ先生を無視して、粉々になった水晶の破片を眺めた。
「お主が見とったはずなのに、こんなことになるとはの、ソーヤ坊?」
ソーヤ先生をジロリとロリババア。
「あ、い、いや、その、あのー……」
坊?
坊やの坊?
なんかもう、焦り散らかしてソーヤ先生の汗が私みたいになってるよ?
グランバート、舐めに行きなよ。あ、私の方を見てスゲー怖い顔してる。ごめんなさい。心の声バレた。エスパーかよ。
「……と、言いたい所だがの」
「え?」
エミーワイス先生は慌てるソーヤ先生を一通り楽しむと、再び水晶に顔を戻す。いい趣味してるわ、このロリババア。
「こいつは実はけっこうガタがきてての。
そろそろ交換の頃合いだと思うとったのじゃ。
今回まではいけると思っておったのだが、壊れてしまったようだの」
「あ、えと……」
ソーヤ先生、ちょっとホッとした顔。
いや、二人の関係値が気になるとこよね。
「そこのグレース・アイオライトが壊したのですが……」
「ひゃっ!?」
売られた!
先生に売られた!
最低ー! 生徒を売るとかサイテー!
「も、申し訳ありません」
でもここは謝るしかない。
ソーヤ先生はいつかシメるけど、今はまず謝る。謝るが勝ち。
「いや、それはたまたまじゃろ」
「「……へ?」」
たぶん、私とソーヤ先生は今おんなじ顔してると思ふ。
「もともと限界が近かったのじゃ。
そこに学年首席のルミナリアや、ライトを始めとした高魔力保持者が続いて、最後の最後で耐えきれずに壊れてしまったのじゃ。そやつの時にたまたまそのタイミングが訪れただけだの。
このクラスは想定以上に優秀な者が多かったようじゃ。
そこなグレース、とやらの魔力量自体は普通じゃよ。中の下、といった所かの。属性は火。
特に特筆することもない。これからに期待だの」
「じゃ、じゃあ、グレースがとんでもない魔力量で水晶を壊したわけでは……」
「なわけあるかい。
ワシぐらいでなきゃ壊せない水晶じゃぞ?
お主でも壊せんのだろ?
平々凡々な学院の生徒が壊せるわけがないじゃろ。
常識で考えよ、バカ弟子」
「そ、そうですよね。すんません、師匠」
あ、師弟なんすね。お二人。
だからそんな恐縮してるのか。
さっきまですんごいいい加減な態度だったのに、ソーヤ先生めっちゃ良い子になってるし。
「ま、これは新しく作っておくとしよう。
グレースで最後なんじゃろ?
なら破片も回収するぞ。素材にするのでな」
「あ。ありがとうございます」
アンタが作ってたんかい。
そりゃこの人が作ったモンなら、この人レベルの魔力量でもなきゃ壊せないよね。
てか、エミーワイス先生ナイスすぎる!
完璧な言い訳!
この人に言われたら誰もが納得せざるを得ない。何せ製作者ご本人だからね!
「じゃ、ワシは帰るのでな。
しっかりやれよ」
「は、はいっ!」
エミーワイス先生はそう言うと、再び転移魔法で帰っていった。
ビシッと直立するソーヤ先生がオモロい。
「……」
いや、いつまでそのままなん?
生きてる?
「……はい。じゃー、グレースお疲れー。災難だったなー」
「切り替え早っ!」
「えーと、魔力量が中の下で、火の属性だったか。
これから頑張れー。席に戻っていいぞー」
「は、はいー」
ソーヤ先生が一瞬でソーヤ先生になった。
また師匠呼ぶぞ。
まあでも、ロリババア先生のおかげで何とか普通の生徒の不運な事故で済んだみたい。
「なんだ。偶然かよ」
「そりゃそうよ」
「中の下だってよ」
「所詮は下位貴族よね」
「まあ、邪魔にならない程度に役に立つのなら頑張ってもらえばいいだろう」
「そうね。弾除けぐらいにはなるでしょうし」
「……」
うんうん。敵意はすごいけど、いい感じに私が普通のザコキャラだってことになってる。
いい感じよ。このままモブ街道を進むのよ、私!
「災難でしたわね、グレースさん」
「ルビー様。お気遣いありがとうございます」
席に戻るとさっそくルビーが気遣ってくれる。
ルビーがいるから戻ってきたまであるよ、マジで。
「……」
うん、気付いてるよ。
背中にビシビシ視線を感じてるの気付いてるよ。
背後なクロードさんが何か言いたげな視線をバリバリ寄越してるのは気付いてるのよ。「おまえはまたやらかした上にエミーワイス先生に貸しを作ったな?」って言いたいんでしょ?
気付いてて気付かないフリしてるのよ、怖いから。
「よーし。じゃー、今日はこんな所だなー。
明日からは順次、授業を始めていくから今日は早めに帰って休めよー。
はい解散。おつかれー」
「早っ!」
ソーヤ先生はそれだけ言うと、とんでもない速さで教室を出ていった。
私でなきゃ見逃しちゃうね。
「……えーと、帰りましょうか」
「そ、そうですわね」
なんだかあれよあれよという間に終わり、皆も戸惑いながらバラバラと教室を出始める。
「ルビー……」
「お、お姉様!?」
うげ。
私もルビーと一緒に寮に戻ろうとしたら、ルミナリアが声をかけてきた。
やべー。でもルビーに用があるみたいだし、逃げよかな。
「……あの、よかったら、このあと、少しお茶でも……どうかしら……」
「えっ!?」
あら。いいですわね。
姉妹で仲良くティータイム。
どうぞ水入らずで。
でもなんか、ルビーの表情があんまりよろしくないような?
「……お姉様。それはやめた方が宜しいですわ。
わたくしとお姉様が仲良くしていると派閥の者たちがいい顔をしないでしょうから」
「……そ、そう、よね……ごめんなさい……」
なーる。
侯爵家ともなると兄弟姉妹で派閥みたいのが出来てて、お家の中でいろいろやってるわけね。
で、ルミナリアとルビーは派閥的に仲が良くないと。
たぶん勝手に持ち上げられた長なんだろうな。
本人たちは仲良くしたくても、周りがそれを許さないわけか。
「……お気を付けくださいませ」
「う、うん……ごめんね」
うーん。
でも二人の悲しそうな顔を見るのはやだなー。
何とかしてあげたいなー。
私ってば、友達のことになるとお節介おばさんになるからなー。
でも、下手に関わるとルミナリアとかおバカ王子と関わっちゃうからなー。
でもなー……。
「おまえら! これから皆でティータイムに行くぞ!」
「で、殿下っ!?」
「!」
って言ってたら来たよ、おバカが。
「ルビーにガルダ。おい! サイードも来い!」
ルミナリアは当然なのね。
「し、しかし、殿下……」
「俺の命令だ! はっはっはっはっはっ!!!」
「……え、ええと」
「ルビーもいいよな!」
「……え、ええと」
ルミナリアもルビーも同じ顔しとる。やっぱり姉妹やね。
「俺の命令なのだぞ!」
「わ、わかり、ました……」
「ルミナリアもいいな!」
「は、はい」
「はっはっはっはっはっ!!! 楽しもうではないかっ!」
そう言って走り出すおバカ。
「あ、待ってください。殿下っ」
慌てて追いかけるルミナリア。
「……行きましょうか。ルビー様」
「え、ええ」
気遣いながらもエスコートする筋肉ダルマと、戸惑いながらも歩きだすルビー。
ゆっくりライトを追うサイード。
なんかもう、あのおバカ王子が全部持ってったね。
まあでも良かった。
これで私はお暇……
「……グレースさんも、一緒に来てくださらない?」
「……へ?」
ルビーたん?
何を言っとるの?
そんな可愛い顔して。何その心細いから一緒行こーよみたいな可愛いの。
いや、行かんよ?
行ったら間違いなくルミナリアたちと話さなきゃやん。
第二王子のグループに入るの確定やん。
「いえ、私はー……」
私がやんわり断ろうとすると、
「何を言っている!
おまえもティータイムメンバーに入っているぞ! グレース・アイオライト!!」
「うわっ!」
なぜか戻ってきてたライトが入口の扉から顔だけ出してそんなことを言いやがった。
「先に行っているからな!」
「ちょっ!」
そうして再び去ろうとするライト。
いや、あんたに命令されたら断れんやん!
「お待ちをっ!」
「あん?」
が、そこで私の背後から「ちょっと待った」入りました。え、お見合いパーリナイだっけ?
「おまえは……クロードだったか」
「覚えていてくださり、光栄にございます」
足を止めて教室に戻ってくるライト。
横のサイードがすんごい怖い顔で私とクロードを見てる。
サイードからしたら私もクロードも下位貴族扱いなんだろうね。
「彼女、グレース・アイオライトはこのあと、私が引き受けたいのです」
「ほえっ!?」
また!?
もう汗かきほっぺ舐められるのとかイヤなんだけど!?
「ほう」
ライトはちょっと楽しそうにクロードに近付く。
「第二王子である俺の召集命令を拒否してでも彼女を連れていきたいと?
相応の理由があるのだろうな?」
「……」
え、なにこれ?
なんでクロード……グランバートとライトがバチバチみたいになってるの?
やめて! 私のために争わないで! みたいな?
いや、ライトは単に楽しんでるだけかな?
なんか、スゲー悪役王子っぽい言い方だけど。
「……グレース・アイオライトは、私の婚約者なのです」
「ほう」
「え?」
そうなん? 初耳ー。グレースたん初耳やでー。
「婚約者の放課後を独占したいと思うのは、理由にはなり得ませんでしょうか?」
「ふむ」
いやいやいやいやいやっ!
なに言ってんの! なに言ってんのこの人!
こんにゃく!? いつ私とあんたがこんにゃくしたの!?
「そ、そうだったんですの? グレースさん?」
私も初耳なんですの、ルビーさん。
「だとしたら、先ほどはずいぶん失礼な態度を取ってしまいましたわね。非礼をお詫びしますわ、クロードさん」
「いえ。早くに打ち明けなかった私の落ち度でございます、ルビー様」
胸に手を当ててペコリ、じゃないんだよ!
何よ婚約者って!
どーいうつもり!?
「なるほどな。
それは確かに知らない男たちがいる茶会に連れていかれるのは心配だな。同じ婚約者を持つ身として理解はしよう」
「では……」
「ならば、おまえも来い。クロード」
「……え?」
「ならば問題なかろう?」
「あ、っと……」
ライト。思ったより手強いでごわす。
だてに王子教育を受けてないってわけね。交渉事では強い。
「申し訳ありませんが、入学初日は二人で愛を語り合いながら今後の展望を話そうと前々から決めておりまして。
私も彼女も楽しみにしていたのです」
ぐはっ!
よくそんな恥ずかしいこと堂々と言えるね、あーた。
ルビーさんたらお顔真っ赤よ。なに想像してんだか。可愛い。
「ふむ。そうか。
これ以上は無粋か。
あい分かった。
今回はおまえたちは来なくていい」
「お気遣いいただき、心より感謝を」
「あ、と、ありがとうございます」
悔しいけど、クロードのこの婚約者ムーブに任せるのがこの場を回避するのに適切なのは理解したよ。
ルミナリアとライトたちと関わらないようにするための手ってこれだったのね。
婚約者パワーでいろいろ回避していこうって肚か。
くそう。なんか、まんまとやられた感がするぜ。なんか悔しい。
「が、次回は来てもらうぞ。
グレース。おまえもな。
皆で仲良く楽しくティータイム。それが俺の主義だ!
では、先に行くぞ!
はーっはっはっはっはっ!!」
そう言って、再び颯爽と消えていくライト。
申し訳なさそうにこっちに会釈して後を追うルミナリア。
親の仇を見るみたいな目でこっちを睨みながらついていくサイード。
嵐みたいな一団よね、ホント。
「え、と、じゃあ、わたくしたちも行きますわね」
「あ、はい。楽しんできてください、ルビー様」
そして、筋肉ダルマのエスコートでルビーもついていくみたい。
まだ顔赤いけど。まあ可愛いけど。
「あ、あの、グレースさん……」
「はい?」
と、思ったら立ち止まるルビー。
どしましたの?
「あ、あんまり、ハレンチなことはしたらダメですわよっ!!」
「ハレッ!?」
「また明日っ!」
「ルビー様! 待ってください!」
とんでもないことを言い残して走り去るルビーと、それを追うガルダ。
「……」
「……」
いや、残された私たちの気まずさよ!
え、なに?
愛を語らうって、そゆこと!?
いやいや、この国は、てか、この世界は結婚前の状態でそういうのはダメだから。ないから。違うから。
ルビーの勘違いだから。勘違いだから!!
「やれやれ」
「っ!?」
後ろのグランバートが私の肩に手を置いた。
それだけで体がビクリと反応する。
「嵐のような奴らだな」
「ホ、ホントにねー」
落ち着け。
単にグランバートは呆れてるだけ。
このさりげないボディータッチも特に意味はない、はず……。
「ん? どうした?
耳が赤いぞ?」
「ひゃっ!?」
耳触んないでっ!
「おっと」
慌てて耳をおさえてグランバートから離れる。
向き合うと、銀髪長身イケメンのグランバートが。
ヤバい。顔も耳も全部真っ赤だ、私。
「なんか、悪かった……?」
しかも理解してへんで、こいつ。
なんで様子おかしいの? みたいな顔してやがる。イケメンだな、くそう。
「な、なんで、婚約者のフリなんて……」
いやいや、なんでそんなこと聞いてんの。落ち着け、私。
「ん?
いや、おまえをあいつらから引き離すのに最も適した理由だろ?」
「あ、そ、そーだねー」
そうですよね、知ってた。
いや……知ってたんだけどさー。
なんかさ、もうちょっとさ。なんか、特別なさ、理由がさ。ちょっとは、あるのかなー、なんて、さ。
「他に理由があるのか?」
「ないっ! 断じてないっ!!」
いやいやいやいや、何を変な期待を。
いや、期待? 期待ってなに?
グランバートにどう思ってて欲しかったの?
え、大丈夫? 私、大丈夫?
グレースになった不具合起きてない?
前世では陽キャに話しかけられても「あ、私はいいかなー、はははー」なんていってヘラヘラしてた私よ?
こんなカーストトップと関わる時間とか、早く終われーって祈ってたぐらいなのに。
なんか、心臓が脳みそから飛び出しそうなぐらいバクンバクンしてるんだけど。
顔が百辛並みに赤くなってそうなんだけど。
なにこれ。
今はグレースとごちゃ混ぜになって、こんなんになってるけど、本来はコミュ障すぎて日和見隊に徹してた奴よ?
前世のメガネクソ陰キャオタクJKの時にはこんな感情知らんのだけど。
グレースどうなってんの!?
「……なんだ。ないのか」
「っ!」
いや、なにそのちょっと残念そうな顔!
やめて! ずるい! これ以上私を惑わさないでっ!
私はもう死んでるわ!!
いてこますぞ! あ、こいつには勝てないんだった、くそう。
「ふっ、冗談だ」
うん! 知ってた!
だよね! 良かった! ……良かった?
「……俺とおまえは互いに利用し合う関係。それだけだからな」
「……あ、うん……そだね」
あ、うん。
……なんだろ。そうだよね。
そう、なんだよね。
うん、知ってた。知ってたよー……。
「では、俺はもう行く。
他の生徒も帰ったようだ。
もう絡まれたりもしないだろうからおまえも帰れ」
「……うん」
あ、帰っちゃうんだね……。そっかー……。
てか、私が他の生徒に絡まれないように一緒にいてくれたんだねー……。
「……一人で帰れるか?」
「っ!?」
頭ポンてされた。
「……うん。ナメんな」
「ふっ。そうか。
じゃあな」
「……うん」
軽く手を振ったけど、こっちは見てくれてない。ちょっとぐらい振り返ってくれてもいいじゃない。
「…………利用し合うだけなら……」
あんまり、優しくしないでほしい……。
「……帰ろ」
なんか疲れた。
すんごい疲れた。
早く帰ってステラのご飯食べて癒されて寝よ。
膝枕してもらお。
「帰るでない」
「痛っ!」
なんか誰かに叩かれたんだけどっ!
「放課後にワシの研究室に来る約束じゃろ」
「あ……」
ごめん。ガチで忘れてた。
てか、もう帰りたいのですが。




