第51話 サッカー部も頑張るよ!
中途半端なんですが、少し投稿の間隔が遅くなりそうなので投稿します。少しずつ書いていきますが、相変わらずのグダグダぶりなのであまり変わらないかも。
放課後、サッカー部員たちは柔軟体操、軽いフットワーク練習、ランニングの順に練習をこなす。いつもの流れだ。しかし、今日は一つ問題があった。
それはランニングで学校周りを走っている時のことだった。学校で知らぬ者はいない立木勇気の下校姿を拝見するという僥倖にあずかった、はずだった。いつもは一人で帰っている立木くんの横に、一人の生徒の姿があった。しかも、至近距離で、二人で笑いながら歩いている。
多くの部員は嫉妬心とやるせなさを抱えながらも(付き合ってる、わけないよなぁ。多分三年生だけど全然釣り合ってないし)と、たかを括っていた。
しかし、一人の部員はその姿に大きなショックを受けてしまった。
ランニング終了後、各々がタオルで汗を拭いながらあれこれと話している中、一際大柄な部員が他の部員から体ごと違う方向を向き、無言で頭からタオルを掛けていた。その体は小刻みに震えている。
異変に気付いたサッカー部主将、小川朋花が「どうした?ツッチー、バテた?」と、軽い口調でその部員に声をかけた。
すると、声をかけられた部員は「なんでも、ないです・・・」と、明らかに涙声を出した。
小川は驚き、「えっ!?どしたのさ?ツッチー」と言いながら彼女の顔を覗き込み、さらに驚いてしまった。その部員は顔をくしゃくしゃにして泣いており、それをタオルで必死に隠そうとしている。
他の部員も心配そうにその様子を見ている。小川は副キャプテンの小嶺に「とりあえず槌瓦は私が見ておくから、練習開始しといて」と頼んだ。
そして、小川は槌瓦を部室棟の裏に連れてくると、なるべく優しく何があったか聞いてみた。
「どうした?ツッチー。なにか嫌なことあった?」と問うと、槌瓦は「なんでもないんです、ほんと・・・」と言いながら、ついに嗚咽交じりに泣き出してしまった。
「何でもないわけないだろ?あたしにも言えないことか?」と、小川は槌瓦の二の腕にそっと触れながら言った。小川はしばしば後輩の相談に乗ることがある。その時には必ず相手の体のどこかに触り、時間をかけてゆっくりと緊張をほぐす。
槌瓦も最初はなんでもないの一点張りだったが、徐々に「立木くん・・・彼女が・・・」と、しゃくり上げながらその心情を吐露し始めた。
なるほど、さっきのアレか。と、小川は理解した。
そして「いやいや、まだ彼女だって決まったわけじゃないじゃない。それに、立木くんが女に対して嫌悪感持ってないって証明にならないかね?」と言ってみた。
それに、一緒にいたあの女は立木くんにはそぐわない、と小川も思っていた。
槌瓦は少しだけ納得したのか、半泣きくらいに落ち着いてきてくれた。
小川はさらに「立木くんぐらい可愛い子なら彼女が何人いてもおかしくないし、あのメガネもそのうちの一人だよきっと!もしかしたら今日だけ立木くんが気まぐれを起こしただけって可能性もあるだろ?」と言うと、槌瓦は「そう、でしょうか?」と、ようやく泣き止んだ。そして「私も、その中に入れるでしょうか・・・?」と不安げに言った。
その点については小川も答えに窮した。
さっきのメガネみたいな女が立木くんの好きなタイプだとしたら、自分たちのような体育会系は除外されるかもしれない。
だがバスケ部の河嶋はうまくやって立木くんと話せていたようだし、立木くんがバスケ部の練習試合に姿を見せたという事実もある。自分たちにもチャンスはある、かもしれない。
小川は「そればっかりは立木くんの判断だからなぁ。でも、弱気なことばかり考えててもダメだぞ!アピールするだけでもしてみなきゃ」と励ますが、槌瓦は「多分緊張しすぎて吐きます」と、まだ弱気なままだ。
このままでは公式戦はおろか練習にも身が入るまい、と小川は思った。そして「よし!じゃあとりあえず調べてみよう!河嶋ならある程度のことは知ってそうだし、練習終わりにでもバスケ部に殴り込みに行ってくるわ」と、槌瓦の肩をポンと叩いた。
槌瓦はだいぶ元気を取り戻してくれたようだ。小川に取り乱したことを謝り、練習に戻っていった。
その日の練習後、ミーティングを小嶺に任せた小川は急いで体育館へと赴いた。幸いバスケ部もちょうど練習を終えたところらしい。一年生がモップをかけている。
体育館の入り口近くで少し待つと、制服姿の河嶋が数人のバスケ部員と共に出てきた。
小川は「河嶋さん、ちょっといいっすか?」とできるだけにこやかに話しかけた。
同学年ではあるがあまり話したこともない上にバスケ部とサッカー部ではやはりバスケ部の方が地位が上になる。
無視されるかもしれない、と小川は少しだけ心配したが、河嶋は「ん?あー、サッカー部の、小川、さん?」とわりとにこやかに応答してくれた。そして「なに?なんか用事?」と、小川の方に一人で来てくれた。大チャンス!とばかりに小川はさっさと本題に入った。
「この前のバスケ部の練習試合あったじゃないですか?その時に立木くんが見学に来てくれたとか?」と聞いてみると河嶋は「うん、来てくれたよ!超可愛かった!」と目尻を下げながら答えた。
そして「もしかして、サッカー部もそういうの狙ってたりするの?」と少々渋い顔を作って言う。
小川は「いや、今日はそう言う話ではないです。」と、そこまで言うと河嶋が「同学年でしょー?敬語、やめなよ。私、そういうの気にしないからさっ」と、にっこり笑って言った。
小川は(こういうところが慕われる所以か)と感心した。そして「そう言ってもらえるならありがたいよ。今日来たのは、立木くんの交友関係というか、彼女関係を河嶋さんなら知ってるんじゃないかって思ってさ」と続けた。
河嶋は「彼女っ!?それはこっちも知らないよ!?なんでそんな情報が!?」と驚いた様子で言った。
小川は練習前の顛末を話すと、「かなり仲よさそうだったし、もしかしたらって」と河嶋を見上げた。
河嶋は「それはまずい・・・ウチの部員にもかなり立木くんガチラブ勢がいるからな・・・」と腕組みして考えている。そして「よし!まずは情報網をフル活用して調べてみよう。小川さんにもキチンと教えるから安心してね」と、また笑って言った。
そして「もし、彼女の一人に加えてくれそうなら嬉しいよね」と、少しだけ目をギラつかせながらスマホを取り出した。
河嶋とライン交換をした小川が部室棟に帰ると、槌瓦が玄関脇のベンチで待っていた。小川を見ると「キャプテン、どうでしたか?」と心配そうに聞いてきた。
小川は「河嶋も分からないらしい。でも、情報網をフル活用して調べてみるってさ。んで、何かわかったら教えてくれるって約束してくれた。だから、とりあえず練習と公式戦に集中な!」と答えた。
槌瓦も「わかりました。ありがとうございました!」と元気に言った。
小川からの依頼を受ける形になった河嶋は、とりあえず少しでも情報を持っていそうな友人に片端からラインを送ってみた。立木くんに親しい取り巻きができたかもしれない。おそらく三年、身長は立木くんよりやや高め、メガネをかけている。心当たりがあったら教えてくれ、というもの。
あとは新波あたりに聞いてみるとしよう。立木くんとタメを張るぐらい可愛い秋山くんと旧知の仲らしい。忌々しいが、男子との接点がある者の強みだ。
もう部活は終わっているだろうが、一応弓道場に向かってみた。案の定、道場は暗く静まり返っており、周りにも生徒の姿はない。が、校門のあたりに弓を背負った生徒の姿が一瞬見えた。
河嶋は大急ぎでその生徒の後を追うと、校門から少し離れた所でその生徒を呼び止めることができた。
河嶋より頭一つ小さな、恐らく二年生だ。急に大柄な先輩と思しき生徒に声をかけられたせいか、その小柄な生徒は少し怖がっているように見えた。
まずは緊張をほぐさなければ、と河嶋はにっこり笑うと、「急に声をかけてごめんね。大した用事じゃないし、時間は取らせないから」と前置きして「新波さんって、今日はもう帰っちゃった?どこかに寄るとか言ってなかったかな?」とにこやかに聞いてみたところ、今日は練習に参加していなかった、とのことだった。弓の備品を買いに行く、と中心街に向かったそうだ。
河嶋は丁寧にその小柄な生徒に礼を言うと、新波に「河嶋が話したがっていた、と伝えてくれる?」と頼んでおいた。
これであとはライン待ちだ。件のメガネ女が立木くんの本命の彼女だとしたら私もヘコむだろうな、と河嶋は思った。でも、もしかしたら取り巻きを侍らせることにしたのかも。そうすれば私も末席ぐらいには加えてくれるかもしれない、と淡い期待も抱くのだった。




