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貴方は尊いのだから  作者: 若葉マーク
始まり
38/59

第36話 トリオ

うーん、グダグダ。

その日、私たちに幸運が訪れた。


私たちはいつも三人組で行動している。登校、体育の授業の組み分け、昼食など。下校の時は遼子がいない事が多いので、私と頼子の二人で帰るのがほとんどだ。


その幸運が訪れたのは、今日の昼休み。いつものように遼子の机に集まって昼食を食べようと動き始めた時だった。

遼子の所に、立木くんがいる。遼子に何事か話しかけて、遼子はアタフタしている。遼子、何か悪い事でもやったんだろうか?と訝しんでいると、遼子は机をいつもより一つ多くくっつけ始めた。

どうしたのかと恐る恐る近づいていくと、立木くんと目が合った。

一瞬で心臓が早鐘を打ち始める。立木くんは、遼子に私たちと一緒にご飯を食べていいか聞いていたらしい。

信じられない。なぜ急にそんな事を?と思ったけどこんなチャンスは二度とない、と思って立木くんの気が変わらないうちに慌てて昼食を持ってきた。


立木くんを退屈させてはいけない。できるだけ自分をアピールしないと!と意気込んだのはいいのだけど、何をしていいのか分からなくなって妙にかしこまった自己紹介が自然と始まってしまった。しかも、全員特にアピールせずに終わってしまう。空気が悪くなることはなかったけど、良くもなっていない。せっかくのチャンスが!と悶えるような気持ちだけど、動けない。


立木くんからは、敬語じゃなくていいと言われたけど、そんなのは無理だ。緊張してしまうし、何よりもクラス中の人間を敵に回してしまう。


なかなか食事が始まらない。すると、立木くんが「まあ、追い追い慣れてもらうとして、とりあえず食べようか」と言った。

あれ?追い追いって言った?これは、もしかしてまた私たちと食べてくれるって事かな?


期待を込めて、立木くんに「追い追いってことは、もしかしてまた、一緒に、た、食べてもらえるとか」と聞いてみる。


立木くんは、「須藤さんたちが迷惑でなければ、またご一緒したいな」と微笑む。その瞬間、私たちは「ぜひ!!!」と、叫ぶように返事をした。


なんて幸運なんだろう。そして、ここからもしかして私のバラ色の青春が始まってしまうのだろうか・・・などと妄想してしまう。


その日の放課後は、遼子に部活を休んでもらい三人で作戦会議をすることにした。

連れ立ってハンバーガーのチェーン店に入る。


「なんで急に立木くんが私たちとご飯食べるつもりになったんだろう」


「皆目検討もつかないね」と、頼子が言う。


遼子は何か考えていて、腕組みをして目をつむっている。どうしたのか聞いてみると、「もしかして、なんだけど」と切り出した。


「朝、立木くんに秋山先輩の事を聞かれたの。その時は何とか答えたのよ。で、その後4時限まで立木くんをずっと見て過ごしてたら、立木くんが急に私を見たわけ。もしかしたらそれで少し好印象を持ってもらえたんじゃないかと」と遼子が言う。


「あんた授業聞いてなかったの?」と笑いながら言う。


遼子は「授業なんかより立木くんを眺めてるのがよっぽど有意義よ」と、キリッとした表情で答えた。


私は、遼子が立木くんをずっと眺めているのが本人にバレたら好印象どころではないと思ったけど、とりあえず彼の関心がこちらに向いたという事実は揺らがない。このチャンスを活かしていかなければ。


問題は、私たちは正直イケてないということだ。三人とも、どこにでもいそうな普通の容姿をしているし、特にスタイルがいいわけでもない。遼子は少し目立つかもしれないけど。隣のクラスの深山みやまさんみたいにいい容姿と厚い人望があるわけでもない。


しかし、ないものを嘆いていても仕方がない。結局は手元にある手札で勝負するしかないんだ。あとはそれをどういう風に活用するか、だ。


「ねえ、立木くんと付き合いたい?」と私が二人に言うと、二人とも鼻息を荒くして「もちろん付き合いたい!」と身を乗り出してきた。しかしその直後、二人とも「でも、わたしイケてないしなぁ」と首を垂れる。


私は「まあまあ、イケてるイケてないはこの際置いておこう」と、問題の先延ばしをする。というか、この問題は解決できないのだ。ならば議論するだけ無駄だ。


「今のところ、立木くんが親しく話してるクラスメイトっている?」と聞くと、頼子が「うちのクラスにはいない。けど、C組の深山さんと、小山さん?だっけ。あの二人と話してるとこは見た」と言った。


やはり深山さんか・・・強敵を通り越してラスボスクラスだな、と私は嘆息する。

どうにかして深山さんより早く立木くんに気に入ってもらいたい。いや、何だったらキープだって構わない。


「私たちの長所って何だろう?」と言うと、遼子と頼子はともにうーん・・・と唸ったあと、遼子は「ドラムを・・・叩ける」と、頼子は「声優の声を聞き分けられる」と答えた。

なんとも会話の広がりに繋がらなそうな長所だ。かくいう私も、これといった長所がない。映画なら多少人よりは詳しいかな、というぐらいだ。


「とりあえず、またご飯を一緒に食べてもらえるっぽいし、今度は教室じゃなくて中庭とかで他の邪魔が入らないようにしよう」と提案する。そして、「今回はロクな会話ができなかったから次はなんとか実のある会話をできるように頑張ろう!」と付け加えた。


二人は、自信なさげに頷く。私だって全く自信はないけど、少しでも立木くんと仲良くなりたい。


そういった感じであまり実のない作戦会議は終了した。


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