第31話 立木幸恵は果報者であります
そろそろキャラ増やそう。うん。
母さんが夕飯を食べた後、さっちゃんに部屋に誘われた。バスケットボールのスーパープレー集をパソコンで一緒に見よう、ということだ。
僕から了承すると、さっちゃんは、「よしっ!」と小さく叫ぶと、「飲み物持ってくるから、お兄ちゃんは部屋で待っててね」と、いそいそと台所へと向かった。僕はとりあえずさっちゃんの部屋でテーブル前に置かれている座椅子に座って待つ。なんとなく部屋を見回す。いわゆる「女の部屋」というやつだ。わりときっちり片付けられている。部屋の壁には海外のサッカー選手のポスターがたくさん貼られている。どのポスターも白黒の縦縞が入ったユニフォームを着た選手だ。同じチームみたいだ。
机の上には、参考書や読みかけの漫画などがある。その中に、家族三人で撮った写真が写真立てに飾られている。それをみると僕は微笑ましい気持ちになった。
あまりジロジロと眺め回すのは悪いのだけど、本棚も少し見てみる。漫画やサッカーの月刊誌、野球の選手名鑑、文庫版の小説やライトノベルらしい可愛い表紙の小説、いろいろあった。さっちゃんは読書も好きらしい。
そうしているうちに、部屋のドアが開く音がする。さっちゃんがコップ二つと、パック入りのレモンティーを持って入ってくる。
「お待たせお兄ちゃん。やっぱりレモンティーしかなかったよ。スーパーで何か買ってくれば良かったかもね」と、少し申し訳なさそうに言った。
僕は、「気を使わなくて大丈夫だよ」と言う。そして、さっちゃんがテーブルにノートパソコンを持ってくる。そして、「うーん、向かい合った状態だと、イマイチ画面が見辛いよね。ここは二人で並んで座るしかないよね!」と、すぐに僕の隣に座る。分かりやすい行動に、僕は少し笑ってしまった。
そして、少しイタズラしてみたくなり「さっちゃん、そんなに僕の隣に来たかった?」と、聞いてみた。
さっちゃんは、みるみる顔を真っ赤にすると、「あの、その、えーと、・・・うん」と、俯いてしまった。そして、「嫌だった?」としょんぼりとしてしまう。
僕は、やりすぎたと思ってすぐに「嫌なわけないよ、お隣どうぞ」と笑顔でさっちゃんを見る。
さっちゃんはすぐに、嬉しそうな顔で「ありがとうっ!」と言うと、さっきよりも僕に密着するように隣に座る。
パソコンで動画を見る前に、部屋のポスターについて聞いてみることにした。
「さっちゃん、このチームのファンなの?」と聞くと、さっちゃんは「うん!元々はここのチームに前に所属してた選手のファンだったんだ!で、その選手が引退した後もここのチームを応援してるの」と答えた。
そして、バスケの動画見た後はその選手の全ゴール集も見てほしい、ほんと凄いから!と力説されたので後で見ることにした。
さっちゃんの好きなもの、たくさん知りたいな。と言うと、さっちゃんはまた顔を真っ赤にしてしまった。
そして、さっちゃんがノートパソコンを操作して動画アップロードサイトにログインする。
まずはバスケのスーパープレイ集を見てみる。海外のプロリーグや世界選手権のものが中心で、まずは選手の背の高さにビックリした。全員大きいので錯覚を起こしてしまったけど、平均身長は2メートルを超えているらしい。比較的小さく見えたガードの選手も198センチだという。それでも小柄に見える。
そして、とにかく高く飛ぶ。スーパープレー集の中にボールをゴールリングに直接叩きこむダンクシュート集もあったのだけど、ヒジまでリングの中に入ってたり、ディフェンスの長身選手を飛び越えてダンクをする選手のシーンもあった。
「ほんとすごいんだね!」とさっちゃんに言うと、「やっぱり世界最高の舞台は違うよねぇ」とさっちゃんも興奮気味だ。
スーパープレー集の合間に、妙にぴっちりとした服を着た男性たちがバスケットコートの中で艶かしいダンスをするシーンがあった。さっちゃんはそのシーンに目が釘付けになっており、僕が隣にいる事を思い出したのか急に「さすがは本場だよね・・・あの、ダンスの質が高いよ・・・うん」と顔を紅潮させながら言う。僕は、そうだねぇと曖昧なコメントをしておく。
バスケのスーパープレー集が終わり、さっちゃんがファンだったというサッカー選手の全ゴール集を見る。映像に残っていない物もあるけど、現役通算260ゴールをあげた名選手なのだという。
最初に引退直後に撮ったらしい、セーターを着て微笑む選手の写真から始まる。優しそうな中年女性、という感じだ。
全ゴール集はさっちゃんが言う通り、なかなか見ごたえのあるものだった。その選手は華麗な技を持っているわけではないけど、力強くシュートを打ち、ゴールネットを揺らす。ゴール後は、右手を上げてファンの喝采に応えている。
おまけ映像で、自分にファールをして警告のカードを出されそうになる相手選手を庇うシーンもあった。さっちゃんは、こういう淑女的なところも好きなんだ、と熱っぽく語る。
「さっちゃんが好きなら、今度から僕もこのチームを応援するよ。また試合の解説してくれると嬉しいな」と言うと、さっちゃんは「ほんと!?一緒にユニフォーム着て応援しよう!」と興奮している。
幸せそうなさっちゃんにお休みを言い、部屋に戻る。とりあえず、練習試合の時に小山さんがどういう動きをすれば凄いのかはなんとなく分かった気がする。
小山さんに会ったら、練習試合頑張ってね!と言ってみようかな。




