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青のライバルキャラ

 私、倭村 木実は食べるのが大好きだ。

 よく動き回り、よく食べて、よく喋るため友達には小動物とか言われてしまう。

 身長が低いからかも知れないけど、失礼な話である。

 でも、そんな私だけど、今日は全然食べるのが進まない。

 普段はそんなに気にならないきれいな食べ方とか、服を汚してしまっていないかとかそんなことが気になって、正直味もさっきからあんまり分かっていない。

 場所はただのお好み焼きチェーン店で、ただの先輩を交えた係の打ち上げだと言うのにだ。

 でも、それは仕方ないと思うのだ。だって、テーブルを挟んだ向かいの席には青木君、私の好きな人が座っているのだから。


 私が彼のことを好きになったのは、中等部に入学してすぐのことだ。

 入学したばかりの頃、正直私は浮いていた。

 中高一貫のお金持ちがこぞって入学することで有名な進学校。

 確かにお祖父ちゃんはそれなりに名の知れた会社の社長さんだが、そんなお祖父ちゃんと大喧嘩して家を飛び出したのがウチのママで、パパと結婚して私が生まれるまで一切会わなかったらしい。

 そんな訳で真面目で働き者の自慢のパパだけど、会社はお祖父ちゃんの会社とは関係のない所だし、私も小学校までは普通の公立だった。

 でも、私の学校の成績が良いことを知ったお祖父ちゃんが学費を出してやるから、この学園を受験したらどうかと勧めてきたのだ。

 ママは気にしなくて良いからね、好きな所行きなさいと言っていたが、時々会うお祖父ちゃんは不器用ながらも甘やかしてくれるし、不器用だけどパパとも歩み寄ってくれてるし。

 だから、行きたい所も特に無かったし、仲の良い子達も私立に行ったりする子も多いしでまあいっかとここに受験することに決めたのだ。

 受かった時は、とても嬉しそうに流石は俺の孫、天才だと酔ってお祖母ちゃんに語っているのを見て、良かったなあと思っていたけど、ここに来るのはお金持ちばっかと言うことをすっかり忘れていたのだ。

 そんな訳で、名門私立小学校出身や時には外国にいたなんて子達の会話にちょっと前まで小学校の休み時間は校庭で男子に混じってドッジボールしてましたなんて私が混ざれる訳も無く。

 休み時間になる度、引きつった顔で遠巻きに皆を見ているような状況だったのである。

 そのまま一週間が経過した頃、流石にヤバいなと危機感を抱き始めた私は話しやすそうな子を探すことにした。

 今までは女子のグループに入ろうとしては一切話に混じれず涙目で撤退という結果になっていたけど、それなら男子に声を掛ければ良いのである。

 教室を見渡して話しかけやすそうな子を探していると、一人で席に座っていた男の子が目についた。

 確か、青木君と言って、入学式で迷子になりかけた私を案内してくれた優しい男の子。

 仲良くなりたいなあと思っていたから、これはチャンスじゃないかとさっそくその子の所に話しかけに言ってみた。

 なんだかちょっぴりドキドキするけど、話しかけられて無視したりするような子じゃないと思うし、大丈夫と勇気を出して声を掛ける。


「お早う!」

「・・・お早う、ございます」


 いきなり声を掛けてびっくりした顔をしたけど、ちゃんと挨拶を返してくれる。

 それに嬉しくなって、会話を続けようと口を開く。


「私、倭村 木実って言います。自己紹介の時のざーっと流れるみたいな紹介じゃ覚えてないかもだからもっかいね。青木君だよね、入学式の時はありがとう!」

「・・・えっと、覚えてるよ。古い日本の呼び方の村に木の実って字で倭村 木実さん。・・・入学式の時は、たまたまだから、気にしなくていいよ」


 読みづらい名字だからと自己紹介の時に言った名前の字までしっかりと覚えられててびっくりする。

 でも、覚えててくれて嬉しくなって、えへへと笑う。


「すごいね! 記憶力いいー! 青木君は下の名前、りゅうせいだったよね。どんな字だったか教えてもらってもいい?」


 そう言うと何故かちょっと困った顔をしたが、小さな声で答えてくれる。


「・・・えっと、流れ星って書いて流星・・・」


 思わず彼の顔をじっと見てしまう。とっても綺麗な響きの字でこの珍しいほどに純粋な黒の髪と目をした女の子みたいに綺麗な彼に似合ってると思った。


「綺麗な名前だね。えっと、私、いつも木実って呼ばれてたから木実って呼んで! 流星君って呼んでもいいかな?」


 きっと優しいこの男の子は頷いてくれるだろうと言った言葉に青木君は本当に困りきった顔をして、小さな声で言った。


「・・・ごめん、倭村さん」


 どっちのお願いもばっさり断られて、ショックを受けていると休み時間の終わりを告げるチャイムがなって、慌てて席についた事でその会話は終わった。


 数日後の部活決めの時、勧誘の先輩が優しそうだったという理由でボランティア部に決めた私は、青木君はどこにしたかと聞くチャンスを伺っていた。

 今までの小学校だったら、男子も名前呼びの子が多かったからあんな風に言ってしまったけど、きっとお金持ちの学校の子はそんなことをしないんだ。きっと、ぶしつけなことを言ってしまったのだろう、ちゃんと謝らなきゃとそわそわしていると近くの席の子が声を掛けてくれた。


「ねえ、倭村さん、どこにした?」

「あ、えっとね、ボランティア部!」

「あ、本当に! 良かった、ボランティア部の説明聞いてるの見たからもしかしたらと思ったんだ。私もボランティア部だよ」

「本当! 嬉しい! じゃあ、杉浦さん、一緒に初めての活動に行こう!」

「うん、勿論! あ、それと、由紀子でいーよ。倭村さんも木実って呼んでいい?」


 その言葉に思わずキョトンとしてから口を開いた。


「・・・お金持ちな学校の子は名前呼びをしないんじゃなかったの?」

「えー、何それ! そんな事無いよー!」


 笑っている由紀子ちゃんの言葉にちょっと固まる。

 あんな事を言って自分を誤魔化してたけど、やっぱり青木君は私に名前を呼ばれたくなかったんだ。








 あれから何週間か経ったけど、結局青木君には話しかけられないままだ。

 部活に入って、先輩達は優しいし、クラスの子とも話せるようになって浮いてる問題は解決したのに、やっぱり時々思い出しては落ち込んでしまう。


「おーい、どうした、倭村ちゃん。元気無い? 可愛い顔が台無しだぞー」

「・・・先輩、頭ぐしゃぐしゃになるので止めてくださいー」

「あ、ごめんね。ウチの犬思い出して、つい」

「犬じゃないですー」

「あはは、ごめんねー。でも、本当に調子悪いなら言ってね」

「ありがとうございます。あ、何かお仕事来てたりしますか?」


 ボランティア部の活動は校外のボランティア活動に参加したりもあるけど、主な活動は校内の雑用を引き受け、その返礼をためて学校の新しい備品を購入したりすることだ。

 豪華な備品は保護者からの寄付でまかなっているが、先生方にはこれ買ってと言い出しにくいものをウチの部活で購入するのが醍醐味らしい。

 前に購入したものは図書館に置いたはやりの漫画全巻やおでんやアイスの自販機らしい。

 なかなかに次に購入するものが楽しみだ。

 そんな感じなので他の生徒からも評判が良く、部費が余ってる部活や忙しすぎる委員会などに依頼を受けているらしい。

 また、中等部と高等部で部活は分かれているが、高等部の方とも交流会があったりするらしく、ちょっと楽しみだ。


「あ、今日は天文部からチラシの作成と配布の依頼が来てたのが出来たから貼ってくることだよ。見て見て、上手に出来たでしょう?」


 見せられたチラシを見てちょっと驚く。

 よくあるプリント紙に印刷のようなもので無く、つるつるとした紙に美しいイラストの本当に立派なチラシだった。

 すごいなあと思いつつ、その絵に描かれた流れ星を見て、また思い出してしまう。

 ちょっと落ち込んでいると、同じようにチラシを覗き込んだ同じ一年生の子が歓声を上げた。


「すっごいですね」

「ねー、流れ星、綺麗ー!」

「あ、流れ星と言えば、青木君って知ってる?」


 急に出てきた名前にどきっとする。


「えっと、同じクラスだよ」

「あ、木実ちゃんのクラスかあ。いや、あの子の名前って下の名前が流れ星って書いて流星で、フルネームで青木 流星でしょ。昔流行ったアニメなんだっけ、えっと、主人公の髪が青くて悪魔倒すやつ」

「あー、なんかあったね。って、ああ、必殺技と駄々かぶりじゃん」

「そうそう、漢字は違うんだけどね。そしたら、馬鹿男子がからかっちゃってさ、青木君、あんまり下の名前名乗らなくなっちゃったんだよね。アイツらまたなんかしてきたらちょっと言ってやってよ。青木君可愛いからってねたんでるんだよ、アイツら」

「えー、そんなに可愛いの、青木君」

「そうそう、本当に女の子以上に美少女」


 その会話に思わず立ち上がって、口を開く。


「あ、えっと、先輩、これ、どこに貼れば良いですか?」

「あ、そうだね、学校内の掲示板だよ。昇降口の大きいのには3枚で、あとは一枚ずつ」

「じゃあ、私、その辺りのヤツ貼ってきます!」


 そう言って、チラシを数枚つかんで、部室を出る。

 なんかもう、心がいっぱいだった。

 私、嫌なこと言っちゃったんだ。青木君が困った顔してたのに、調子に乗って、あんなこと言って困らせたんだ。

 きっと、嫌われちゃったよね。ううん、多分、嫌われちゃった。

 急ぎ足で昇降口に向かう。部活に入ってない人が帰る時間と被ってたみたいでまだ賑わっていた。

 掲示板のどこに貼ろうかと見ると、上の方が空いていた。

 椅子を近くからもってこようか。でも、背伸びしたら届くかな。

 限界まで背伸びをして、画鋲で留めようとした瞬間、背伸びしてた足がぐらついた。

 手に持ってたチラシが散らばる。

 昇降口はまだ賑わってて、気付いてない人が踏みそうになる。


「す、すみません。踏まないでください!」


 私の声に顔を上げると、足元のチラシを見て、立ち止まる。

 必死に拾うけど、つるつるした紙は拾いにくい。

 立ち止まり、迂回したせいで昇降口のあたりが混んできて、文句がちらほら聞こえてきた。

 必死になるけど、やっぱり手がすべって上手く拾えない。

 どうしよう、どうしようで泣きそうになっていると、


「・・・倭村さん、これ」


 小さな声が聞こえた。

 顔を上げると青木君がやっぱり困ったような顔で立っていた。

 手にはチラシを持っている。

 周りを見ると、立ち止まってくれていた人達はもう動き出していて、文句は聞こえていなかった。

 

「あ、ありがとう」

「・・・うん。・・・えっと、これ、貼るの?」

「あ、うん。あそこの上の方」

「・・・じゃあ、俺、手伝おうか?」

「え、でも、その」

「・・・一応、俺、倭村さんよりは、身長ある・・・」

「あ、違うの! えっと、ありがとう。お願いします」


 頷いて、チラシと画鋲を持って、上の方に貼ってくれる。

 慌てて、チラシを抑えて、貼りやすいようにする。

 近い距離に何故かドキドキした。

 3枚目を貼り終えて、こっちに向き直る。


「・・・えっと、これで、大丈夫?」

「うん、ありがとう。・・・えっと、その、名前呼びごめんね。気にしてるって聞いて、その、あの」


 慌てる私に青木君は小さく首を振って、やっぱり困ったように笑う。


「・・・気にさせて、ごめん。・・・気にしてない、から」

「あ、うん、そっか。その、今日はもう帰るの? 部活は?」

「・・・入ってないから、もう、帰る」

「そっか、その、今日はありがと、また明日!」


 焦りつつも何とかひねり出したその言葉に青木君はちょっと笑った。


「・・・うん、また、明日」


 その笑顔は入学式で私を助けてくれた時と同じで、一瞬固まった。

 「あ、倭村ちゃんいたー。張り切るのも良いけど、割り振りちゃんとしてから行こうね・・・、え、ちょっと大丈夫、顔色変だよ!」

「だ、大丈夫です! えっと、すみませんでした。続き行きましょう」

「え、本当に大丈夫?」

「はい! あっちの掲示板次行きます!」


 早歩きでむこうに向かいながら、考える。

 ああ、そっか、一目惚れだったんだ。優しくて、でも何でか困った顔で笑う青木君の普通に笑った顔が見たかった。

 あの時、好きになって、だから気になって、こんなにこんなに悩んでた。

 名前呼びで困らせちゃった。他の子だったら、ごめんねって言って、反省して終わりだったのに、やり直したいって思うくらい気になって忘れられなくて。

 あの困った顔を思い出すと声も掛けられなくなるくらい、ずっと気になって悩んでる。


「ちょっとー、もう元気すぎだよー」


 先輩の声に我に返って、深呼吸。

 頑張ろう、頑張ったら、ちゃんと話しかけられるのかな。

 臆病になってしまうけど、でも、頑張ろう。

 そう思ってにっこり笑って振り返った。

 




 あんな気持ちに気付いてからもう2年以上、頑張っては空まわって、臆病になって。

 結局、進めないまま、勇気を振り絞って立候補した係の仕事。

 あの時と比べたら距離はずっと近くなったけど、やっぱり色んな事が気になっている。

 前の席もろくに見れないまま、食事をしていると、呆れたような声がかかった。


「おーい、桜宮、大丈夫か? 上の空だぞ」

「あ、ごめん、何でもない・・・きゃあ!」

「ちょっ!? 水!」

「ごめん!」


 水をこぼしそうになった桜ちゃん先輩が慌ててコップを抑えて、同時に抑えようとしてくれた篠やん先輩と手が重なりそうになって、真っ赤になってまたこぼしそうになって慌てている。

 思わず小声で隣の桜ちゃん先輩に声を掛けた。


「えっと、大丈夫ですか?」

「うん、ごめんねー。今日はずっとそわそわしちゃって。・・・ここのテーブル思ったよりも近くて。正面でご飯食べるの緊張するー」


 そう言って、篠やん先輩の方をちらちら見る桜ちゃん先輩は可愛い。

 係で一緒になって仲良くなった桜ちゃん先輩は本当にバレバレなほどに篠やん先輩のことが好きだ。

 篠やん先輩は確かに本当に優しくて頼れる良い先輩で、桜ちゃん先輩が好きになるのも分かるなあと言った感じの人だ。だけど、本当に鈍いのか、桜ちゃん先輩の必死のアピールをスルーしっぱなしである。

 桜ちゃん先輩はそんな篠やん先輩に落ち込んで浮かれて、見てるこっちも恥ずかしくなるくらいに一生懸命恋している。

 ・・・臆病な私にも勇気が出るくらいに、本当に頑張って頑張って恋してる。


「えっと、分かります! 緊張します!」

「木実ちゃんはいいよ、可愛いもん。もう最初から、すっごい可愛いよ!」

「え、桜ちゃん先輩の方が可愛いですよ!」

「女子達、二人だけでこそこそ盛り上がるんじゃなくて、男子も交えて会話しない?」


 こそこそと小声で話し合ってると、篠やん先輩から呆れた声が掛けられて慌てて二人で前を向く。

 青木君とばっちり目があった。

 ちょっと固まりつつも、桜ちゃん先輩とのお話でリラックスできたおかげでにっこり笑って口を開く。


「このお好み焼き美味しいね! 青木君、お好み焼きって家で食べたりする?」

「・・・えっと、家ではあんまりだけど、・・・広島に行った時にお店で食べた・・・」

「そっか、広島のお好み焼き美味しそう!」


 にこにこ笑っていると、青木君がちょっと笑って頷いた。

 心臓が小さくはねる。


「えっと、なんか変!?」

「・・・あ、ごめん、その・・・今日、ちょっと、元気なかったから、元気になったみたいで良かったなって」


 その言葉にやっぱり心臓がはねてばくばくだ。

 ずっと、近づけなくて、遠くから片思い。

 ちょっと近くなってもやっぱり色んな事が気になって、こんなに落ち着けない。

 ・・・だけど、


「・・・ひょっとして、お好み焼き、苦手だったか? 無理して食べ無くても、他のメニュー・・・」

「ううん、大好き、お好み焼き! 一番の大好物だよ!」

「・・・お、おう?」


 隣の可愛い先輩もおんなじようなことで悩んで取り乱して、それでも頑張ってるから私も頑張ろう。


「最初のうちはじっくり味わってたから、これからはどんどん行くんです! ね、桜ちゃん先輩!」

「そう、そうなの!」


 助かったって言うように桜ちゃん先輩がこっちを見るけど、多分こっちの方が助かってる。

 先輩の恋は私の恋にも力をくれるのだ。

 だから、


「篠やん先輩は、もっと女の子をちゃんと見るべきです!」

「う、それ、最近、貴成達にも言われるんだよなー」


 早く気付いてあげてくださいよ、篠やん先輩。

 青木君に元気をくれた篠やん先輩のこと私も尊敬してるけど、それ以上に青木君が篠やん先輩尊敬して大好きなの、本当はちょっとジェラシーなんですよ。

 早くひっついちゃって、桜ちゃん先輩を幸せにしてください!

 そんな風に思って大きく頷いた私に青木君が笑って頷いたのが、嬉しくて楽しくて、やっぱり私も笑った。


 




 




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