頑張ろうと思いました ~桜宮視点~
ベンチに座って一息ついた。
目立たない所にある休憩所は、自販機の品揃えもあまりよくなく、いつも人が少ない。
私達以外誰もいないガランとした休憩所で隣に座った染谷さんが不思議そうな顔をして口を開いた。
「えっと、話って何?」
その言葉に、びくっとする。
いや、誘ったの私なんだから、そう聞かれるのは当然なんだけど、何故か異様に緊張しているのだ。
小さく深呼吸をしてから、口を開いた。
「…ごめんなさい。さっきの話聞いちゃいました」
まずは謝ることからとそう言って頭を下げると、染谷さんはようやく納得がいったような顔をした。
「いや、そんな謝らなくても大丈夫だよ。割りと人が来そうな所で普通にしゃべってたの私だし、そもそも言って回るようなことじゃないってだけで隠してる訳でもないしね」
気にしなくていいよー、と笑う姿は本当に自然で、思ったことが思わずポロリと口から零れていた。
「……どうして、そんなに強くいれるの?」
あまりにいきなりな質問に、染谷さんがびっくりした顔をした。
私もちょっと固まる。
うん、こんな風にやらかすつもりは無かったです。
…でも、聞いてみたかったのはこれだ。
私は知ってるから色々と出来るはずなのに、思いっきり間違えて、やらかして、怖じ気ついてばっかで。
あんな風にされたのに気にしない風に笑って、…なんだか悩んでそうだった篠山君にあんな顔させるなんて私には出来ないから。
染谷さんはちょっと困ったような顔をしたけど、私が真剣な顔をしているのを見て、ちょっと考え込んでから口を開いた。
「…割りとよく強いとか言われるんだけど、私、そんなに強くないと思うよ。と言うか、ムカつくだけだし」
「…む、ムカつく?」
思わず聞き返すと、ちょっと笑って頷く。
「だって、ムカつかない? ぶっちゃけ、父親のしたこととか私関係無いし。なんで、そんなことを気にして、ビクビクしなきゃいけないんだ!って中学の時にキレたんだよね。だから、周りは気にしないって決めてるの。やりたいことだけで、手一杯だし」
そう言った染谷さんに思わず、
「…格好いいなぁ」
と呟いていた。
ちゃんと真っ直ぐ前を向いて、やりたいことをやれて、言いたいことを言える人。
こんな風にいれたなら、もっとちゃんと頑張ってヒロインっぽく誰かを助けれたのかなあ。
…篠山君もあんな風に吹っ切った顔をしてたし。
本当に、私とは大違い。
何故だか妙に落ち込んでしまったが、ちゃんとお礼言わなくちゃと顔を上げて、ちょっとびっくりした。
染谷さんは、すごく困った顔をしていた。
「いや、そんなにマジトーンで褒めてもらうようなことでもないのよ? 周りを気にしないっていうのは、仲が良い一部の人さえいてくれればいいやって感じで排他的になっちゃっただけだし。やりたいことって言っても、やれることしかやってないし」
「…やれること?」
「うん。やりたいこと一杯ありすぎて、全然出来ないから。取り敢えず、今できることだけ一生懸命やろうと思って。桃ちゃんもそうでしょ? 文化祭の準備、簡単な作業だけどいつも一生懸命やってるし」
そう言われて、思わず頷いてから、ふと気づいた。
私はヒロインだから、それっぽく頑張らなきゃって思ってたけど。
文化祭の準備、私は不器用でどんくさいから、できることだけでも頑張ろうって思って色々やってた。ヒロインなんて考えずに私は私だって。
ヒロインっぽくとかは無理かもだけど、そんな感じでやれることを探せれば良いのかな。
顔を上げると、染谷さんはちょっと恥ずかしそうな顔で笑っていた。
「なんかちょっと語ってしまいましたが、こんな感じで良かったかな?」
「うん。本当にありがとう」
「なら、良かった」
そう言って笑う染谷さんに、詩野ちゃんと仲良くなった時のことを思い出した。
あの時も、苦手な人だと思ってた詩野ちゃんに色々相談に乗ってもらって、ちゃんと謝りに行くことが出来たんだっけ。
それで、あの時は…。
ちょっと息を吸い込んで気合いを入れた。
緊張しながらも、頑張って口を開く。
「あの!」
「はい?」
「と、友達になってくれないかな?」
図々しいかもしれないけど、未だにちょっと苦手だけど。
染谷さんのこと、格好いいって思って、仲良くなりたいと思ったのは本当で。
だから、自分から言わなくちゃって思った。
これは、私のやりたいことで、やれることだと思うから。
緊張しながら染谷さんを見ると、ちょっと不思議そうな顔をしていた。
「えっと、勿論!って感じなんだけど。ちょっと聞いてもいい?」
「う、うん!」
「桃ちゃんって、私のことちょっと苦手じゃなかった?」
思わず固まってしまった私に苦笑いしながら続ける。
「いや、夕美としゃべってる時とか私が来ると絶対にすぐ逃げちゃうしね。作業中とかが多かったから気のせいかなと思わなくもなかったんだけど、表情とか固かったし。だから、今、誘われた時も不思議だったんだよね」
ば、バレてたーー!!
まあ、あんだけ逃げたりしてたしね。つーか、それなのにこんな風に言うって失礼だったかな? と言うか、そもそもなんで苦手だったんだっけ? 一番最初にちょっと苦手って思ったのは…
「…篠山君とすごく仲が良かったのが気になったから?」
思わず声に出た言葉に、固まった。
い、いや、篠山君、ものすごく色々やってる人だし、気付いたら気になって当たり前って言うか。一応ヒロインだから、攻略対象者の仲が良いイレギュラーなんて気になったのが始まりだし。変じゃないって言うか、何でもないことだよね!
何故か頭がパンクしそうになって、慌てて考えてたことを頭から追い出すとキラキラした染谷さんと目があった。
「あー、そういうこと!!」
「あ、あの、染谷さん…」
「やだ、凛でいいよ! そっか、そっか。いや、本当に良いやつだもんね。あ、安心してね。私のタイプはお姉さんみたいにちょっとパッと見怖そうなんだけど実は優しくって、ツンデレっぽい人だから!」
「は、はい?」
何故か納得したように、何度も何度も頷く染谷さんにちょっとどうしたら良いかわからない。
アワアワしている私を見て、染谷さんは軽く吹き出した。
「ね、桃って呼んでいい?」
「あ、うん!」
「これから、よろしくね!」
そう言って、私の手を握った染谷さんに、仲良くなれたような感じがして、思わず顔が緩む。
「うん。こっちこそよろしくね、り、凛ちゃん」
すると、目をキラキラさせて、抱きついてきた。
「うぇ!?」
「やだ、もう! 可愛い!」
ど、どうしよう、テンションについていけない。
また、アワアワしていると、凛ちゃんはちょっと申し訳無さそうに、放してくれた。
「ごめんね。嬉しくって、つい」
「あ、ううん。えっと、嬉しいのは私の方じゃないかな。友達になってって言ったの私だし」
「やだな、すっごく嬉しいよ。周りを気にしないって思ってても、誰かに受け入れてもらうのってすごくすごく嬉しいんだから!」
そう言って、凛ちゃんは本当に嬉しそうに笑った。
そうやって笑いあった後、顔を上げた凛ちゃんの顔が固まった。
「うわ、ヤバい。もう、こんな時間」
振り返って、凛ちゃんの視線の先を見て私も固まる。
ちょっとお話するだけと思ってたけど、思った以上に時間が経っていた。
ヤバい、準備終盤で色々やることあるから、クラスの子に怒られる。
「ごめんね、ちょっと風紀の仕事あるから行くね!」
「うん。引き止めちゃってごめんね」
「いや、いーの、いーの。桃と仲良くなれて嬉しかったし。じゃ、頑張ってね!」
そう言って、楽しそうに手を振った凛ちゃんに大きく頷く。
「うん、頑張る! ありがとうね!」
取り敢えず、私らしくやれることを探して頑張ってみよう。
そう決心して、目的地だった倉庫に走って行った。




