婚約破棄の理由? それは・・・坊やだからさっ!!
貴族学園の長期休暇の前には、実家のある領地へ帰ったりして、しばらく会えなくなる生徒達のために全学年合同の交流会のパーティーが行われます。
少々と言いますか、以前から嫌な予感はしておりました。
わたくしは、王太子殿下の婚約者なのですが……わたくし達の一つ下の学年に、元平民の貴族令嬢が転入して来てから、殿下やその側近の方々はその令嬢を物珍しく思ったようでした。
その物珍しさから興味を惹かれたのでしょう……やがて、巷で流行っている恋愛小説ような展開が始まってしまったのです。
殿下や高位貴族に取り囲まれて……意地の悪い言い方をすれば、殿下方を侍らせているように見える、と。件の令嬢は、他の生徒からそう捉えられてしまったようです。それから、令嬢への嫌がらせが始まり……殿下方は、令嬢を守るのだと息巻いて、益々令嬢を特別扱いする。事態は段々と悪化の一途を辿りました。
わたくしは、件の令嬢の世話は同学年の令嬢にお任せして適切な距離を取るべきだと苦言を呈したのですが……殿下方からは、令嬢を害そうとする者として疑われ、毒虫でも見るような目を向けられてしまいました。
苦言を呈することが、害することになるのでしょうか? 未婚女性と適切な距離を取るのは当然のことではないでしょうか? 本当に彼女の評判や名誉を害しているのは、一体誰なのでしょうか? 殿下方は、将来的に彼女のことをどうするおつもりなのでしょうか?
殿下は、こんなに視野の狭い方だったでしょうか?
彼女を見詰める瞳に、特別な熱を感じるのは気のせいでしょうか? 彼女を呼ぶ声に、彼女のことを語る声に甘さを感じるのは気のせいでしょうか?
そして、そう感じてしまうのは……殿下の仰った通り、わたくしの醜い嫉妬心なのでしょうか? 殿下は、わたくしと彼女を比べて溜め息を吐いたのに? わたくしに、彼女の朗らかさを見習えと仰ったのに? なるべく明るく声をお掛けしたら、媚びを売ってなにを企んでいる! と、疑われたのに?
わたくしは、どうすればよかったのでしょうか?
そんな風な日々が続いて――――
パーティー当日。殿下からは、パーティーをどうするかという話は一切ありませんでした。学園で行われる交流会なので、別に制服で参加しても構わないのですが……
在学中に婚約者がいる者同士は、お互いに婚約者とパートナーを組むのは暗黙の掟。まあ、一部自由恋愛を推奨して実践している方々もおりますが……そういう方々だとて、パートナーに一言断るくらいはするのが礼儀というもの。
けれど、殿下からの連絡は一切ありませんでした。わたくしからの連絡も全て無視です。
仕方なく、わたくしは交流会に一人で参加することにしたのです。
交流会が始まると王太子殿下は大声でわたくしを名指し、
「貴様は、下位貴族の養子になったばかりの彼女を元平民だからと見下し、理不尽に虐げた! そんな心根の卑しく傲慢な者は未来の王太子妃に相応しくない! よって、貴様との婚約を破棄する!」
豪奢なドレスに着飾られた、元平民の令嬢の肩を抱きながら叫びました。
そう、まるで、巷で流行っているような恋愛小説の一幕のように――――
わたくしは、ショックを受けて……
「なぜ、このようなことをなさるのですか? 殿下……」
自分でも驚く程に弱々しい声で訊ねていました。
政略で決められた婚約ではあっても、殿下とは切磋琢磨して来たと思っておりました。この方を、生涯お支えして行くのだと思っておりました。信頼が、あったのだと思っておりました。
でも、それは……わたくしの思い違いだったのでしょうか? わたくしは、実は昔から殿下に疎まれていたのでしょうか? だから、殿下はこのようなことを仕出かしたのでしょうか?
そんな風に、真っ白になった頭の中でぐるぐるごちゃごちゃと考えていたときでした。
「なぜ、婚約を破棄されたか、と? 知りたいなら、教えてやろう」
会場に、どこか艶を感じるハスキーな低い声が響き渡りました。途端に、ザッと会場の人達が移動して左右に人垣ができました。
「こ、この声はっ!?」
殿下の驚きの声が上がり、
「婚約破棄の理由? それは・・・坊やだからさっ!!」
艶やかながらも力強く覇気のあるハスキーな声が、会場中に響き渡りました。坊やだからさっ!! ……坊やだからさっ! ……坊やだからさっ……
なぜか、エコーが掛かったように何度も木霊しています。瞬間、どこからかブホッ!?!? と、盛大に噴き出すような音が聞こえ、その音を皮切りに、ブハッ!? ボフっ!? プフっ!? と、奇声を発してぷるぷると俯いて震えている方が多数発生しました。
「っ!?」
わ、わたくしも……ど、どうにか奇声を抑え込みました、が……こ、これはっ!?
「なっ!? なにを言うっ!? 不敬だぞっ!?」
焦ったような、お顔を真っ赤にして叫ぶ殿下の姿がどこか滑稽に見えます。
「ふっ、一体、なにを以てして不敬と言うのかね? わたしは、見たままの感想を言ったに過ぎないのだが? 甥っ子よ。いや、坊や共よ」
プフっ!?!? という音と共に、ぷるぷる具合が悪そうに震える方が更に増えました。
「だ、誰が坊やですかっ!? 叔父上……」
真っ赤な顔で怒鳴りながら、バツの悪そうに坊やと呼ぶ人物……王弟殿下を見やる殿下。
「なぁに、保護者のいない場で婚約破棄を声高に叫ぶなどという恥ずかしい真似をしている連中がいると思えば、それが自分の甥っ子だったことに非常にがっかりしているだけだ。婚約破棄は、宣言すれば終わりではない。君は、兄上に話を通したのかね? わたしは、君と彼女の婚約が破棄されることについてなにも聞いていないのだが?」
王弟殿下はどこか愉しげに、口の端を上げて殿下方へ歩み寄ります。
「派閥への根回しは? 彼女の家への通達は? この後の始末はどう付けるのか、決めてあるのか? なにより、衆人環視の中で女性の名誉を傷付けて恥を搔かせようなどとは紳士の風上にも置けない暴挙だとは思わないのか?」
矢継ぎ早の質問に、殿下方は答えられません。
「書類申請もせずに、婚約破棄だけ声高に叫んだのかね? それは、書類を作成する能力が無い坊やだからさ! 根回しをする知恵も無いのは、短慮な坊やだからさ! 駄々を捏ね、叫べば周囲にどうにかしてもらえると思っているのは、甘やかされた坊やだからさ!」
坊や、という言葉が響く度。あちこちで具合が悪そうに俯く方が増えて行きます。
「……っ!?」
わ、わたくしも……扇子で顔を隠し、声や腹筋が震えるのを根性でどうにか抑えておりますが……も、もうそろそろ色々と限界になりそうですわよっ!?
「君には、書類を作成する能力が無い。そして、根回しをする知恵も無い。更には、自身の言動が周囲にどういう風に影響するかと予想することができないし、そんな無能な君を支えられるような者もいない。挙げ句、諫言を聞く耳を持たず、苦言を呈する者を受け入れる度量も無い。もう、十分だ。王太子の座は、君にはさぞや荷が重かったことだろう。自分からは言い難いであろうから、わたしの方から兄上へお伝えしておこう」
淡々と王弟殿下が告げ、
「ああ、そうだ。君と甥っ子との婚約は、アレの有責で破棄とする。わたしの権限でそうさせてもらう。長い期間、君には坊やのお守という負担を掛けてすまなかったね」
わたくしの腹筋に最後のトドメを刺して、
「では、これらは連行するのでパーティーを続けたまえ!」
殿下方を衛兵達に連行させて颯爽と会場を後にしたのです。
後に残ったのは、息も絶え絶えにぷるぷると震えながら爆笑する人々。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハっ!?!?」
わ、わたくしもうダメですわっ!? はしたなくも、大口を開けて、涙を流しながら大爆笑してしまいましたっ!!
王弟殿下が、王太子殿下(王太子が抜ける日も近そうですが)のことを坊や呼ばわりする度に……殿下のことをお慕いしていた気持ちがどんどん吹っ飛んで行きましたわ!
ああ、殿下はこんなにも無能だったのかと、目から鱗がぽろぽろ落ちました。もしかしたら、だからこそわたくしの王妃教育が少々厳しかったのかもしれませんわね。
わたくしの悔しかった気持ちが、殿下が無能で短慮で、周囲への気遣いができないダメ男だと王弟殿下に扱き下ろされて行くことで……爆笑したことで、なんだかスッキリしましたわ。
わたくしが悪くない、と。間違っていなかった、と。そう言外に、王弟殿下に認めて頂けたような心持ちになりましたもの。
しかし、これから王太子の座が空くのですね……王弟殿下が、王太子殿下となる予定でしょうか? ならば、勢力図が大きく変わることでしょう。
これ程の無能さを露呈させてしまった殿下を、これまで擁護し続けた陛下のお立場も……なんて、これはわたくしの考えることではありませんわね!
さあ、とりあえずはこの爆笑をどうにか止めて、家へ帰りませんと。
翌日……わたくしは、笑い過ぎて全身が筋肉痛になってしまいました。
お腹が、すっごく痛くて全身が怠いですわっ!! あと、声も若干枯れています。爆笑って、し過ぎるとこんなに大変なんですのね……
あと、フリーになったわたくしにお見合いの釣り書きが沢山届いているそうです。
皆様、お耳が早いこと。
でも、もうしばらくはのんびりと過ごしたいですわねぇ?
――おしまい――
読んでくださり、ありがとうございました。
なんで、衆人環視の中で婚約破棄を叫ぶ連中が居るん? と、考えていたところ……「坊やだからさ!」と、某彗星さんの声が頭で響いた。Σ(*゜Д゜*)
マジで間違ってないとめっちゃ納得。(*゜▽゜)*。_。)*゜▽゜)*。_。)ウンウン
そしたら、なんかこんな感じの話になりました。頭空っぽで書いたギャグというか、コメディなのに。王弟殿下のお声が書いてる奴の脳内ボイスでは某彗星さんなので、なぜか若干不穏さが漂うエンドになってしまいましたねー。この後どうなるかは不明。ꉂ(ˊᗜˋ*)
「坊やだからさ」のセリフが出るアニメ原典のファーストは見たことが無いので、多分使い方はめっちゃ違うと思いますが……一応、某彗星さんのイトコ? 親戚? が爆死したときの若干しっとりした場面のセリフだというのは知ってます。(*ノω・*)テヘ
おまけ。連行中の会話。
王太子「な、なぜ叔父上が学園にいらっしゃったのですか?」((((;゜Д゜)))
王弟「公務の一環だ。高位貴族や王族が在籍中の学園は、長期休暇の前にはしゃいだ愚か者共がやらかすことがあるのでな。この時期は、スケジュールの空いている成人済みの王族が秘密裏に待機し、なにかあれば速やかに場を収めることになっているのだよ」( ・`д・´)
「いやはや、近年はやらかす者がいなかったというのに。まさか、久々にやらかした者が現れたと思えば、王太子である君とはね……非常にがっかりしたよ」┐( ̄ヘ ̄)┌
王太子「ぅっ……すみません」(l|l =д=)
みたいな? 裏事情でした。
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