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第二十八章 たまたま その一

 宇津奈(うつな)議員とバチカン特使との対談が終了した後、マクガイアと鈴は伊丹空港へと向かった。日本におけるキリスト教の聖地長崎を訪れるためだ。


 初めての飛行機に興奮を抑えきれない鈴は、滑走路に並ぶ飛行機をガラスに額を押し当てて見ている。


 マクガイアは鈴のために、土産物屋で飛行機の塗り絵と、12色の色鉛筆を買ってやった。


 鈴の手を引いて、マクガイアは搭乗手続きを済ませる。


 平日の空港で、外国人が、幼い女の子の手を引いているにも関わらず、彼らを(いぶか)しく思う者はなく、むしろ微笑ましいといった目線を向けてくる。


 マクガイアは、鈴にシスターの服を着せ、大丈夫だとサムズアップしてみせた、ドヤ顔のユリアを思い出す。


「鈴、ここだね、ほら窓際の席を譲ってあげよう」マクガイアが声をかけると鈴はさっと席に着き、窓の外を覗いて振り向くとマクガイアに微笑みかけた。


 マクガイアは3人がけの真ん中の席に着いた。フライトは少し遅れているようだった。


 しばらくして、CAに先導された乗客がマクガイアの横にやってきた。

 仕立ての良いスーツに身を包んだ紳士がCAに丁寧に礼と謝罪を述べている。


 荒い息遣いを整えてから、キャビネットに手を伸ばそうとする時、マクガイアと目が合い、あっという表情を見せる。「マクガイア神父!えっ奇遇ですね。また、お会いできるとは思いませんでした」と握手を求めてきた。


 紳士が誰であったかと記憶を探っていると「降穂(ふるほ)です。マクガイア神父が来日される飛行機で、シンガポールから隣の席で同乗しておりました」マクガイアは思い出した。


「ああ、あの時の・・・降穂さん」と笑顔で握手に応える。


 マクガイアの脇から鈴がひょこっと顔を出す。

「マクガイアさん、お会いする時はいつも可愛い方と一緒なんですね」と降穂が言う。


「えっ、あ、鈴です。鈴、こちらは降穂さん、わたしとユリアの知り合いだよ」とマクガイアが挨拶するように促すと身を縮めてマクガイアの影に隠れてしまった。


 マクガイアが降穂に、すまないという表情をみせると「お気になさらず」と笑顔を返した。


「今回も、女の子のお見送りですか?」と鈴の方を指さした。


「いえ、いえ、彼女は教会の施設で面倒を見ている子で、わたしの仕事に同伴しているんです。施設の人間が言うには、修学旅行?だそうです」


「なるほど、長崎は見るべきものがたくさんありますからね。浦上天主堂には、もちろん行かれますよね」

「ええ、このフライトの唯一の目的地です」


「唯一?それはもったいない。教会だけでも見るべきものがたくさんあります。神ノ島教会、黒崎教会など、なんといっても長崎は日本キリスト教の聖地ですし、浦上天主堂だけではもったいないですよ」


「そうですか、時間があれば良かったんですけど、今回は浦上天主堂で礼拝をしてとんぼ返りになりそうです」


「そうですか、それは残念ですね」降穂は本当に残念そうに言った。


「マクガイアさんは日本に来てから大活躍ですね。SNSフォローしてるんですよ。万博に行かれたんですよね。どうでした、わたしはまだ行けてなくて」と降穂。


「ああ、万博でしたら・・・山形パビリオン!あそこは絶対に外せませんよ。深い発見があると請け負います」とマクガイア。


「山形パビリオン?それは初耳です。今朝の新聞でパビリオンの特集があって目を通したのですが、あったかな山形パビリオン・・・」


「いや本当に地味な展示なんです。隠れた名所です。説明しても良いのですが、それでは降穂さんの感動を奪ってしまう。いいですか、この後も山形パビリオンについて調べたりせず、行ってみてください」


「いや、あなたがそれほど言うのですから、是非、足を運ぶことにしましょう」と言って、ふと思いついたように「そういえば、万博にバチカンの使者が招待されてましたよね。お会いになりました?」と降穂。


「ええ、会いました。日本の有力者、政治家ですね。彼からイエズス会の日本教区長、つまりわたしのボスの元にバチカンの特使との仲介の依頼がありまして、わたしが立ち会うことになりました。先ほど仕事と言ったのはそういう理由なんです」


「そんな重要なお仕事を、すごいな、驚きました」と目を見開いてマクガイアを見つめる。


「いえいえ」とつまらなそうにマクガイアは首を振る。


「でも、おかしいですね。バチカン特使との面談なら外交ルートがあるのに。なぜ、マクガイアさんが仲介役に?」と我孫子。


「その辺の事情は私にはわかりません」とマクガイアは濁した。降穂は、そうですか、とあっさり引いた。


「そういえば、教会の再建の方はいかがですか。ニュースで知って驚きました。東京のイエズス会の教会というのは、マクガイアさんの教会ですよね。再建は進んでますか?」


「仮で、プレハブの教会が建ちましたが・・・本格的な再建となると進んでいませんね。何しろ、放火が疑われていますので、捜査やら何やらで、具体的に動くことができません」とマクガイアは続けて言う。


「しっかり腰を据えて再建すべきという声もあって、取り敢えずの間はプレハブ教会でしのぐことになりました」


「大変ですね。それでも、その方がいいでしょうね。イエズス会の本部である教会ですから。時間をかけて立派なものを再建された方がいいですよ」と降穂がマクガイアを励ました。

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