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第二十三章 GO WEST 大阪万博 その六

  「つまり、紫紋(しもん)先輩は憲法9条に武力は持たないと書いているから、実際に軍隊に匹敵する武力を持っていても、それは武力ではないと言うんですか?」とマクガイアが紫紋先輩の議論にのって言う。


「僕が思ってるんとちゃいますよ。日本国政府の言い分です」と紫紋先輩。


「ますます分かりません。憲法を守らせられるのが政府です。

 憲法とは国民から政治家や官僚が勝手しないように定めた法律のはずです。

 それを政府の言い分で事実無根にして言い訳がない」とマクガイア。


「そのとおりですわ」と紫紋先輩は言って、混乱するマクガイアを楽しそうに見ている。


「憲法解釈って言われています。マクガイアさん。憲法の解釈で自衛隊を持つことは違憲ではないと」と仁がマクガイアに説明する。


「憲法を解釈する?誰れが?」とマクガイアが目を開いて尋ねる。


「政治家が」と仁が答える。


「いや、それはおかしい。解釈によって憲法に書かれた条文の意味が180度変わるなんてことがあってはならないし、その解釈が憲法を守るよう命じられている立場の政治家に委ねられるなんてことがあっていいはずがない」とマクガイア。


「そのとおりです」と仁が言う。


 しばしの沈黙の後、紫紋先輩が引き受ける形で議論が再開する。


「マクガイアさん、まず、聞いてもらえますか。

 日本の憲法制定に向けた動きは明治時代の初期に民間から沸き起こりました。

 結果、どうなったか、ここが大事なんですけど、天皇から賜る形で大日本帝国憲法が制定されたんです。

 国民の側から天皇や政府に要求するのではなくね。

 始末が悪いことに、国民は憲法がでけたぁと、それを喜んだんです。

 で、憲法というものは国民から政府へ託されるものではなく、政府から国民に託されるものであるという原型ができてしもた」マクガイアはとても興味深そうに聞いている。


「で、第二次世界大戦で完膚なきまでの敗戦の後、アメリカ主導で現在の憲法が作られることになった。

 これをまた国民が民主的な憲法がでけたぁと喜んだんです」と紫紋先輩。


「今でも、憲法は政府が、政治家や官僚が守るべき法律であると考える人より、憲法は国民が守るものであると考える人のほうが多いんちゃうかと思いますわ」


「で、その憲法の内容ですわ。

 当時のアメリカの理想、リベラルな思想を盛り込んだ新生日本国憲法は進んだ所もありました。

 それによって日本国民に利をもたらすことも多かったんですが、問題は憲法9条です」と紫紋先輩。


「日本は第二次世界大戦で世界を敵に回しました。

 アジアで行った様々な非人道的行為、自国民に対する非人道的政策、もう加害者にも被害者にもなりたくないと強く思ってたんでしょうね。

 そこに、憲法9条のような理想が掲げられました。

 皆が飛びついた。でも現実は甘くない。

 で、なんとかそこを認めながらなんとか理想と現実の折り合いを見つけていこうとあがいた結果が憲法解釈という方法やったんやないかなと思うんですわ」と紫紋先輩。


 仁は紫紋先輩が「知らんけど」と言うのではと思ったが、紫紋先輩は言わなかった。


「理想と現実が対立しているという課題は、解決されていません」とマクガイアが断言する。


「認めます」と紫紋先輩。


「そもそも、理想とはなんですか?」とマクガイア。

「非武装中立です」と仁。


「武装中立ではなくて?」とマクガイア。

「違います。非武装中立です」と仁。


「非武装中立なんてありえない!」とマクガイア。

「どうして、ありえないんですか?」と仁が尋ねる。


「考えてもみてください。

 中立というのは対立するどちらの国にも味方しないということです。

 味方するとはどういうことか、戦闘に参加するということだけではありません。

 自国の領内を通過させることも含まれます。

 A国がB国を攻めるために、C国領内を通ったとして、C国がA国を攻撃しなかった場合、C国はA国の味方ということになります。

 つまり、C国は自国の中立をA国、B国に納得させるためには、A国、B国ともにC国領内に立ち入ったら直ちに攻撃するということを信じさせる必要があります。

 そのために、中立には絶対に軍事力が必要になります」とマクガイアが言う。


「なるほど・・・非武装中立の国ってないんですかね?今まで」と仁。


「オルデランくらいしか知らんわ」と紫紋先輩が言う。

 

 パッとマクガイアの顔が明るくなる。


「オルデラン?聞いたことないな。どこの国ですか?」と仁が言う。


「惑星オルデラン・・・スターウォーズに出てくるレイア姫の故郷である惑星です」とマクガイアが答える。


「なんだフィクションじゃないですか」と言って仁は、議論好きの紫紋先輩が話を逸らしたことを不思議に思った。


「その星どうなったと思う?」と紫紋先輩。


「どうなったんですか?」と仁。

「スターデストロイヤーのレイザービームで()端微塵(ぱみじん)や」と紫紋先輩。


「”やめて、オルデランは平和の国よ”というレイア姫の目の前で」とマクガイアが補足する。


「マクガイアさんは、リアルタイムで観はったんですか?スターウォーズ」と紫紋先輩。


「ええ、子供の頃に、父に連れて行ってもらいました。わたしが始めて観た映画です」

「うわ〜、めっちゃ羨ましいですわ」


「でも、マクガイアさんが憲法9条にここまで食いついてくるとは思いませんでしたよ。元軍人だから気になったんですか?」と仁。


「いえ、そうではありません。

 日本に来る前に、イエズス会総長に言われたんです。

 日本人は固い言葉を好まない。

 固い言葉をほころばせて、いろいろくっつけてしまうと。

 それは宗教に限ったことではなく、法律もなんでしょうか?」とマクガイア。


「言うてはること、なんとなくわかりますわ」と紫紋先輩。


「それより、マクガイアさんに、ひとつ確認したいんですけどいいですか?」と紫紋先輩。


「なんですか?」とマクガイア。


「レイア姫って、欧米の基準で美人なんですか?」


 なんだそれと呆れる仁をよそに、とても深妙な顔でマクガイアは言った。


「微妙です」

 マクガイアの表情と()が絶妙で紫紋先輩と仁は思わず吹き出した。


 3人は声を落として、深夜まで語り合った。

 仁が押し入れから客用の布団と毛布を取り出し、座布団を枕に3人で床で寝た

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