第二十一章 同伴登校とつながるスマホ その二
一時間目の、終了のチャイムがなって、休憩となった。
マチコ先生はマクガイアに声を掛けた「マクガイア神父さん、非常に感銘を受けました。素晴らしい授業でした」
「ありがとうございます。マチコ先生。わたしのことはマクガイアと呼んでください」
「マクガイアさんは凄いです。生徒たちが、あんなに活き活きするなんて」
「本当は私が力になってあげたかったんですけど」とマチコ先生は小さな溜息のあと続けて言った。
「自分にはそんな力はないし、なにかしても生徒達に嫌がられるんじゃないかと思って何もできずにいたんです」と悔いているかのように言う。
「それなのに、マクガイアさんは来て直ぐにやってのけました。すばらしい」
「マチコ先生。午前中は4時間あると聞いています。そうですよね」とマクガイア。
「ええ、4時間です」とマチ子先生。
「次の時間もわたしがやりましょう。3時間目からはマチコ先生がやりたいこと、やりたかったことをやってみてください」とマクガイア。
「えっ、無理です、無理です」とマチコ先生は驚いたように言う。
「大丈夫です。マチコ先生。わたしが授業している間に、何をするか考えていてください」と言ってマクガイアは笑顔で念を押した。
マクガイアの次の授業も道案内の授業だったが、保健室から職員室まで、また自分の教室までと建物内での道案内とシュチュエーションを変えて行われた。
「みなさん、とても上手になりましたね」とマクガイアは生徒たちに声をかけ授業を締めに入る。
「皆さん、覚えておいてください。困っている外国人に声を掛けずに、やり過ごすこともできます。やり過ごしたとしても誰も皆さんを責めることはないでしょう」とマクガイア。
「声を掛けて、話すことができずに恥ずかしい思いをしたくないと思うかもしれません」とマクガイアが生徒を見渡す。
「話さないことで、声を掛けないことで恥ずかしい思いをしなくてすむ。小さな自分を守ることができるかもしれない」とマクガイア。
「でも、人を助けるためには言葉が必要なんです」とマクガイアが言うと、保健室の生徒たちは頷いた。
「今日は英語の授業でしたが、日本語でも同じです」とマクガイアが言う。
「みなさんの内にある正しい思いを、言葉にできるよう訓練してください」と言うマクガイアの言葉は、英会話を超えていく。見て見ぬふりするなとマクガイアは語りかける。
「情は人の為ならず。最近、私が覚えた日本のことわざです。みなさんも知ってますよね」とマクガイアが問いかけると、生徒たちは頷いた。
「人を助けることが、自分を助けることだということですね」と問いかけるマクガイアに頷く生徒達。
「黙っていることで自分を守ることができるかもしれない。でも、それはつまらない自分です。人を助けるためには言葉が必要です。回り回って救われる自分は、とても素敵な自分のはずです」とマクガイアは言って皆に笑いかけた。
「これで、わたしの授業は終わります」とマクガイアが言う。
「あのぉ、ひとつ質問してもいいですか?」と柏木後輩が手を挙げる。
「ええ、どうぞ」とマクガイア。
「マクガイア先生が、あっ、先生って言っちゃった」と柏木後輩は顔を赤くする。
「授業受けたんだから、先生でよくね?」と浜崎マリアがフォローする。
その声に、柏木後輩はうんと頷いて「マクガイア先生が、日本語を勉強して一番苦手だったこと、一番驚いたことを教えてください」と言う。
「2つ聞いたね」と浜崎マリアのツッコミに、う〜っと項垂れる柏木後輩。
「構いません。実は一番苦手だったことと、一番驚いたことは、ほぼ一緒なんですよ」とマクガイア。
「日本特有の数詞。これには手こずりました。本は一冊、魚は一匹、牛は一頭、物によって数え方が違う。数詞というのは日本語だけでなく、中国語や韓国語にも数詞はあるのでアジアの言語に共通する難しさと言えます」それを聞いて生徒たちはへ〜っと反応する。
「で、その数詞を学ぶ中で、驚愕したんです。今わたしは、全く違う言語を学んでいるのではなく、全く違う世界に触れているのだと驚いたんです!」とマクガイアが目を見開いて生徒に迫る。生徒達は圧に押されて仰け反った。
「なぜだかわかりますか?」とマクガイアが生徒を見渡す。首を横に振る生徒たち。
「日本って八百万の神って言いますよね。つまり、神様がたくさんいるんです」生徒たちは頷いて聞いている。
「そして、日本語には神様を数える数詞が存在していたんです!」と大発見とでもいうようにマクガイアは言った。
「キリスト教徒であるわたしにとっては神は唯一の存在ですから、神を数えるなんてことはありえないんです。その数詞が日本には存在したんです!」わかりますかとマクガイア。
「え〜とっ、神様を数える数詞って何?一人二人じゃないの?」と浜崎マリア。
「違いますね。ユリアわかりますか?」とマクガイアはユリアに問いかける。
「たしかぁ、柱だったかな?ハシラなのかチュウと読むのかは自信ないんでけど」とユリアが言う。
「そうです。柱です。ハシラでもチュウでも構いません。読みがどちらでもよいというのがまた凄いんですけど、これがわたしが日本語を学んで一番驚いたことでしたね」と言ってマクガイアは、両手を胸の前で結んで皆を見た。生徒たちの反応はいまいちだった。
ちょうどチャイムがなって、ではおわりましょうかとマチコ先生が言い、ありがとうございましたとマクガイアに頭を下げる。
すると浜崎マリアがおどけた調子で「起立!」と声を掛けた。
生徒立ちがクスクス笑いながら立ち上がる。
「気をつけ!」「礼!」と浜崎マリアが号令をかけると、生徒たちがお辞儀をした。
その姿にマクガイアは感動していた。
休み時間にマクガイアは「準備はできましたか」とマチコ先生に尋ねた。
マチコ先生は頷く。
マクガイアは「3時間目はマチコ先生の授業です」と生徒たちに声をかける。
おおっと生徒たちから声が上がった。
3時間目が始まった。マチコ先生の授業だ。
「えーっと、普段は、教室で皆に保健の授業をしていますが、今日は少し違った内容のものをやってみたいと思います」とマチコ先生。
「ちょっとエッチーやつ?」と浜崎マリアが言う。生徒たちがクスクス笑う。
「違います!」とマチコ先生。
「わたし達は、同じ保健室にいながら、お互いにあまり話したことがありませんよね?」とマチコ先生が皆に語り始める。
「そこで、この時間は皆さんに、自分が好きなものをプレゼンしてもらいたいと思います。発表者は、好きなものを赤裸々に語ってください。どう思われるかとか、考えなくていいです。
発表者が赤裸々に語れるように、聞き手の人たちにお願いがあります。
発表者の好きなものを否定しないこと、自分の好きになれるところはないかを探すこと、お互いの世界を共有して、自分自身を少し広げるような、ちょっと大きくなれような時間を持てればといいなと思います。
いいですね。それでは、プレゼン内容を考える時間を20分とります。
そのあと、プレゼンをはじめましょう」と言う掛け声でマチコ先生の授業が始まった。




