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第十三章 田中最高導師 その三

萩尾(はぎお)伝師、リストを持ってきなさい」と後ろで控えている萩尾伝師に声を掛ける。

「そう来なくちゃ。田中ちゃん」とルシファーが満足げに言う。


 萩尾伝師が奥からSDカードを持って戻ってくると、それを(うやうや)しく田中最高導師に手渡した。


 田中最高導師は受け取ったそれをルシファーの前に差し出した。


 ルシファーの手が伸びる。田中最高導師は、ふと思い返しソファーの背にもたれかかる。

 ルシファーの長い指が宙をさまよった。


「ふざけてんのか、田中ちゃん・・」とドスを効かせた声でルシファーが言う。

 部屋に詰めている護衛の信者たちが気色(けしき)ばむ。


 田中最高導師のもとに駆け寄ろうとする護衛の信者を、田中最高導師は手で制した。

 そして、ゆっくりと言った。


「ルシファーさん、なにかありましたか?」

 考えてみればおかしいのだ。先に十分なリストを渡しているはずで、間隔をあけずにリストをせびりにくるなど、通常ならありえない。


 ルシファーは、護衛の信者を()め回してから言った。

「あんたにゃ関係ねぇだろ?」


 田中最高導師は静かにルシファーを見て言った。

「関係ないはないでしょう。ルシファーさん、わたし達は一蓮托生(いちれんたくしょう)でしたよね」形勢を逆転させて言う。


 ルシファーは大仰に両手を広げてソファーの背に腕を回して、あーっと面倒くさそうに叫んでから言った。


「鋭くなっじゃねぇか、田中ちゃん。それに、最近、(はく)ってもんが付いてきてんじゃねぇか?」と間を取るような言葉を投げてきた。


「そうかもしれません、なにせ大きくなった教会を束ねていかなきゃならないもんで」と田中最高導師が返す。


「で、何があったのか話してもらえますよね?」と田中最高導師が言う。


「そうだな、一蓮托生(いちれんたくしょう)だもんな。忘れんなよ、俺達は一蓮托生(いちれんたくしょう)だ」とルシファー念を押す。


 頷く田中最高導師。


「おたくが大きくなったように、うちもそれなりに手広くやらしてもらってるんだが・・・ヤバ(すじ)を引いちまったんだよ」と言って、顔を(そむ)けて唾を吐いた。


 護衛の信者のうちの一人が静かに、歩み寄り、ルシファーを睨みながら僧服からハンカチを取り出して、床を拭いた。


「ヤバイ(すじ)を引いた?」と田中最高導師が問い返す。


「ああ、仕入れたリストに反社の顧客台帳が混じってやがった」とつまらなそうにルシファーが言う。

 田中最高導師の瞳にルシファーを(さげ)むような色が浮かんだ。ありえないミスだ。


 すいませんと謝って、リストを返したところで、ヤクザが許してくれるわけがない。


 そう考えるのは、田中最高導師だけではない。当の本人のルシファーにもわかっている。だから、ルシファーは動いた。


 ルシファーは生業(なりわい)である詐欺、強盗を行うためにターゲットとなるリストの仕入先を3つほど抱えている。


 そのうちの一つ、いつもはデータで納品されるリストに古びた紙ファイルが混じっている。おかしいと思い手にとって、すぐに気付いた。


 これは、ノミ屋のリストだ。

 怒りに駆られて仕入先の男のもとに怒鳴り込むと、リスト屋は額に穴が開いていた。すでに相手は報復に動いている。


 ルシファーは台帳にある顧客の住所から、仕切っている組を割り出した。


 坂東組だ。湿気(しけ)た組で安堵する。考えるのが面倒くさくなる。


 ルシファーはやっちまうかと思う。

 で、メンバーの一人に封筒を渡して言った。

「これを坂東組の事務所の郵便受けに入れてこい」


 封筒には台帳を破ったページと、全部返して欲しければ川崎埠頭に◯月◯日◯時に500万持って来いと、いかにも小悪党が欲しがる金額で強請(ゆす)った。


 組長である安原義人(やすはらよしひと)一人で来い、他の組員の姿があれば、即、敵対行為とみなす。


 そうなれば高い代償を払うことになるだろうと念を押した。

 もちろん、一人で来ようが、何人で来ようが襲うつもりでいた。

 これは自分たちの襲撃を正当化するためのフリに過ぎない。


 当日、組長である安原義人が本当に一人でやって来た。


 闇サイトで雇った人間を接触させブツの受け渡しを指示した。

 まず、用意した500万をA地点で落とさせ、A地点には次を指示するメモを置くといった形で相手を移動させつつ、自分たちの居場所を気取(けど)られないよう計画した。


 坂東組が狙いを定めるならば、500万を落とした地点か、台帳を取り戻す地点のはずだ。

 この両方を手玉に取るのがルシファーの計画だった。

 500万には手を出さない、端金だ。

 で、台帳も渡さない。


 台帳は後日、差出人不明で郵便で届ける。

 さて、500万を奪われることなく、台帳を取り戻したとしてヤクザのメンツは保たれたことになるのだろうか。ならないだろうとルシファーは思う。


 逆に怒りを()きつけることになるだろう。何がなんでもルシファーに落とし前をつけに来るはずだ。

 果たして、ヤクザは自分を突き止めることができるだろうか、そして自分をどう追い詰めるのだろうか、ヒリヒリとした破滅の予感にルシファーは固く勃起していた。


 ハニーを抱き寄せ、後ろから犯した。

 ハニーに腰を打ち付けながら、ハニーの睾丸を強く握る。

 ハニーが泡を吹いて気絶するのと同時に、ルシファーは激しく射精した。

 射精後の静寂に浸っていると手下がやって来て言った。


「安原を()りました」

 安原義人は、無駄足に終わったことを知り、やさぐれだった。

 部下に当たりちらして、遠ざけて、一人で街を彷徨(さまよ)った。


 そこをルシファーが仕込んだ素人に刺されたのだ。


「どう落とし前をつけるんですか?」と田中最高導師が(あき)れた口調で尋ねてくる。

「それは問題ねえ」とルシファー。

「もう終わらせたよ」と不気味な笑みを浮かべて言った。

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