54. 千年に一人の男
会場中に大ブーイングを巻き起こした中堅戦の後……。
副将戦に移る前に、前もって用意していた消臭剤やアイテムを使用して、係員がフィールド内を消臭している時間の事だった。
騎士学園学園長アラム・デラホーヤのいる特別観覧席に、扉をノックする音が響いた。
「どうぞ」
アラムが訪問者に返事をすると、特別観覧席の扉が開かれ、騎士学園側の対抗戦監督教員が入室した。
そして、監督教員は少し慌しい様子でアラムの側まで寄ると、
「学園長……!」
と、切迫した面持ちでアラムに声を掛けた。
「どうした」
監督教員からある事を伝えられたアラムは、大きく目を見開いた。
その知らせは、学園対抗戦が始まってから、───いや、始まるずっと前からアラムが待ち侘びていた知らせだった。
「"クリフ・ワイルダー"が、──到着しました」
◆
係員がシーサケット・ロドリゲスの釈明を読み上げ、それによって会場中に大ブーイングを巻き起こった後、フィールド内の消臭作業は15分以上続いた。
そして、消臭作業が終わる頃にはすっかりシーサケットに対するブーイングのほとぼりも冷め、生徒達は「それはそれとして、」と、学園対抗戦の副将戦に意識を向けていた。
──そんな中、次に流れたアナウンスによって会場内の空気はがらりと変わった。
「フィールド内の消臭作業を終え、副将戦の準備に入っていたところですが、ここで、騎士学園の代表選手の交代をお知らせします」
突然の代表選手交代の知らせに、会場内は微かにざわついた。
「騎士学園の大将を務める予定だったライアン=デュノー選手に代わり、──"クリフ・ワイルダー"選手が騎士学園の大将となります」
「「「………ッ!!!」」」
そのアナウンスが響いた直後、会場内には大きなどよめきが走った。
「え……、クリフ……ワイルダー……?」
「嘘、だろ……?」
魔術学園の生徒達は、絶望にも近い表情を浮かべる。
「尚、それに伴い、ライアン選手は副将に代わり、副将を務める予定だったアントニオ・マクドネル選手は欠場となります」
──という、続くアナウンスなど聞いてはいないように、一つ前のアナウンスによる衝撃が会場全体を動揺の渦に飲み込んでいた。
そして、一瞬の困惑があったものの、騎士学園の生徒達は次第に喜びや喝采の声を上げた。
「う、うおおおおお!!ワイルダー先輩が出場だー!!」
「まだ諦めるには早い!!ワイルダー先輩が出場するなら勝てるぞ!!」
「よっしゃああああ!!」
可能性は低いと思われていた"騎士学園最強の男"の出場決定によって、既に二敗という崖っぷちの状況であるにも関わらず、自分達の勝利を確信したように沸き立つ騎士学園の生徒達。
そんな騎士学園の生徒達とは対照的に、
「そんな……」
「折角二勝を上げて、今年こそはって思ってたのに……」
「大体、あの男を出場させるなんて反則だろ……」
と、魔術学園の生徒達は悲観的な表情を浮かべていた。
それもその筈、魔術学園の生徒達は"クリフ・ワイルダー"のその異常な強さ、そして武勇伝の数々を良く知っているからだ。
騎士学園にアルフォンス=フリードの名が轟いている事と同じように、魔術学園にもまた、"クリフ・ワイルダー"の名は広く轟いている。
千年間誰一人として両断する事の出来なかったと言われる巨大な岩石を、いとも容易く両断した事から"千年に一人の男"の二つ名を持つクリフ・ワイルダー。
二年前、そんな彼の所属するクラスが地下迷宮で実地訓練を行った際に起きた、「"S級モンスター"の大群にクラス全員が襲われる」というアクシンデントを、彼が一人で解決したという武勇伝はあまりに有名である。
──モンスターの危険度は、「同じランクの剣士や魔術師などの戦闘職が何人いたら倒せるか」を指標に決定される。
例えば、B級の戦闘職が3人以上いなければ倒せないようなモンスターにはB級の危険度が、A級の戦闘職が5人以上いなければ倒せないようなモンスターにはA級の危険度が設定される。
そして、ユフィアやアルフォンスのようなS級の戦闘職の人間が10人以上いなければ倒せないような非常に強力なモンスターに対しては、危険度"S"が設定されている。
そんな、危険度Sの"S級モンスター"と呼ばれる超強力なモンスターの大群を、クリフ・ワイルダーはたった一人で殲滅したのだ。
故に、彼は現在"S級騎士学生"の称号を与えられているが、実力的には既にS級の範疇を大きく越えた"SS級"に値するのではないかとも言われている。
また、ワイルダーが学生ながら既に王国騎士団の大きな任務に参加している事も魔術学園では有名であり、そのようなプロとも呼べるワイルダーが学生同士の対抗戦に出場する事自体に反感を抱いている生徒も少なくない。
先鋒戦と次鋒戦を圧倒的な内容で立て続けに勝利した事によって勢い付いていたはずの魔術学園だったが、まさに規格外の"騎士学園最強の男"の出場が決まった事により、雲行きは大きく変わっていた……。
◆
───騎士学園の代表選手交代のアナウンスが場内に流れる、少し前。
その時間に魔術学園側の選手控え室にいたのは、既に試合を終えたアルフォンスとユフィア、大将戦を控える四年生のデイビス、魔術学園の監督教員、の4名。
中堅戦後の消臭処理を別室で施されているエリザと、副将戦の準備の為に準備ルームに移動しているセオ・サンタクルスは控え室から離れていた。
そんな4名が副将戦開始までの時間を過ごす選手控え室に、扉を二回ノックする音が響いた。
「? はい」
監督教員が返事をすると、ガチャリと扉が開かれた。
そして、その瞬間。
「────ッ!!!」
ブワッと、一瞬にして変化した室内の空気感に真っ先に気が付いたのは、室内の誰よりも危機察知能力に優れたアルフォンス=フリードだった。
──控え室に入ってきたのは、白を基調としたアルバレス騎士学園の制服に身を包んだ、2メートルはあろうかという体躯の男だった。
男の肉体は制服の上からでも分かるほどに筋肉が隆起し、制服の襟元からは太く逞しい首が覗いていた。
そして、男は色黒の肌と灰色の瞳を持ち、目元は影を作るほど彫りが深く、がっしりとした下顎のラインは見る人に頑強なイメージを与え、瞳と同じ灰色の髪の毛は、燃える炎のように逆立っていた。
特徴的なのは男の手の甲や首元、顳顬の上に異様な程に隆起した太い血管であり、それは殺気にも近いような、酷く不気味な気配を漂わせていた。
また、男の眉間や目元に深く刻まれた皺は、「老化の表れ」というよりも、刀剣で切り刻まれた傷のようにも見え、威厳に溢れる風格を醸し出していた。
男は騎士学園の制服に身を包んでいるものの、若い学生のようにはまるで見えず、数多の死地を潜り抜いた歴戦の強者のような風貌だった。
そのような人物が魔術学園側の選手控え室に入室した瞬間、室内は言いようの無いほどの威圧感に包まれ、
ざわっ……ッと、アルフォンスだけでなく、ユフィアとデイビスも背筋の冷える感覚を覚え、監督教員はビクッ!と体を大きく震わせた。
「(あの時と、同じ感覚だ……)」
鼓動が早まり、息が詰まり、身の毛がよだち、著しく冷静さが失われていくようなその感覚に、アルフォンスは覚えがあった。
それは、終焉の黒殲龍を前にした時と同様、「自分の身を、"命"を守る為に、目の前の相手から逃げろ」という生存本能からなる危険信号。
そう、つまり。
入室して来た目の前の人物は人間の身でありながら、アルフォンスの本能が"黒殲龍と同等の危険度"と認識する程の威圧感を放っていたのだ。
そして、魔術学園の代表メンバーらの前に現れた男は口を開いた。
「失礼します。──初めまして。アルバレス騎士学園三年、クリフ・ワイルダーと言います」
「ッ!!」
屈強な見た目通りの、ずっしりと響くような低い声で男は名乗った。
「(この人が……"騎士学園最強の男"……)」
本能が無意識に臨戦態勢を取ろうとするのを抑えながら、アルフォンスはワイルダーを注視した。
室内にいる人間から強い畏怖や警戒といった視線を向けられる中、ワイルダーはそれらを気にも留めていない様子で言葉を続けた。
「これからアナウンスが流れると思いますが、魔術学園代表の皆さんに、先に挨拶とお知らせをと思い、伺いました」
「あ、挨拶と、お知らせ、ですか……?」
10以上も年齢が離れているにも関わらず、恐ろしい程の威厳と威圧感を放つワイルダーに対して監督教員が怯えたような声で聞き返すと、ワイルダーはコクリと頷いた。
「騎士学園の代表メンバーは変更となり、私が大将を務める事になりました。突然の変更で申し訳ありませんが、宜しくお願い致します」
と、ワイルダーは軽く頭を下げた。
その些細な挙動の一つ一つに、ミシリ……と軋むような音が聞こえてきそうな程の、強靭な筋肉の蠢きを感じさせた。
「……ッッ!!」
そして、魔術学園側の各々が動揺を見せる中、ワイルダーからの知らせに最も激しい反応を見せたのが、大将戦を予定しているデイビス・ジャーホンクだった。
「それで……。──大将を務める方は、どなたでしょうか?」
と、ワイルダーは学生服の三人に視線を配らせた。
「あ、か、彼が、魔術学園の大将のデイビス・ジャーホンクです……」
ひどく言葉を詰まらせながら、監督教員がデイビスの方を手で示す。
すると、それを受けたワイルダーはデイビスの前まで歩み寄った。
そして、近寄ったワイルダーに怯えビクッ!と全身を強張らせたデイビスに対して、
「お互いに、ベストを尽くしましょう」
と、右手を差し出した。
「ぁ……っ、あ、あぁ……」
人ならざる者のような、おぞましい程の不気味さが感じられるワイルダーの灰色の瞳と視線がかち合うデイビス。
そんなデイビスは、喉に詰まった空気をどうにか絞り出す事によって酷く掠れた声でなんとかワイルダーに返事をした。
そして、デイビスは手の甲の上に大袈裟な程に血管を隆起させた、骨太で堅く逞しいワイルダーの大きな手を握り返す。
デイビスの右手はプルプルと震え、ガクガクと震える膝は細やかに振動させるようにズボンを揺らしていた。
「───それでは」
と、握手を終えたデイビスに小さく一礼すると、「失礼します」とワイルダーは選手控え室を退室した。
「………っ」
ガチャリ、と静かに控え室の扉が閉じられた直後、まるで酸素が減り、重力が増していたかのように重苦しくなっていた空気が、一気に軽くなったかのようにアルフォンスは感じた。
監督教員は額に浮かんだ冷や汗を拭いながら、安心したような表情でホッと息をついた。
そして、室内が一様に深い安堵感に包まれる中──、
「………ッ!!」
真っ先にその異変に気が付いたのは、やはりアルフォンスだった。
「だ、大丈夫ですか!?デイビスさん!!」
「!!」
アルフォンスが声を上げた直後に、ユフィアと監督教員もまた、その異変に気が付いた。
彼らの目に映ったのは、胸を強く押さえながらに床に蹲り、まるで締め上げられているかのように首筋や額に血管を浮かべながら、酷く苦しそうに呼吸を荒げるデイビス・ジャーホンクの姿だった。
「……!ひどい熱だ……」
アルフォンスが尋常じゃない程に発汗しているデイビスの肩に触れると、その体は驚くほどの高熱を帯びていた。
呼吸が乱れ酷い息苦しさを感じる中、デイビスの頭に浮かぶのは対抗戦の先鋒戦の事だった。
あの驚異的な耐久力を誇るタイソン・エストラーダでさえ、S級を相手には結界の効果があるにも関わらず気を失う程に打ちのめされた衝撃的な光景が、デイビスの脳内に流れる。
そして、先程デイビスが対面したクリフ・ワイルダーという男。
デイビスも勿論、"クリフ・ワイルダー"のその強さ、逸話の数々を知っている。
ワイルダーが噂に違わぬ"化物"である事は、ワイルダーを目の前で見たデイビスにはもはや疑う余地は無かった。
───「あの男は、間違いなくユフィア・クインズロードやアルフォンス=フリード以上の怪物である」と、デイビスは確信した。
そんな、実力的には"SS級"とも呼ばれるクリフ・ワイルダーと自分が戦えば、結界の効果など関係無く……、
─────確実に、殺される。
……デイビス・ジャーホンクの意識は、絶望的な恐怖心の中で途絶えた。
◆
『 副将戦
KNIGHT 第四学年Aクラス ライアン=デュノー
MAGICIAN 第四学年Aクラス セオ・サンタクルス 』
闘技場のフィールド内では、ついに両学園の第四学年序列一位同士の副将戦が幕を開け、開始早々から激しい攻防を繰り広げている。
そして、そんな両雄の激突を、両学園の学園長は二階の特別観覧席から熱く見守っていた。
───そんな特別観覧席に、再びノックの音が響いた。
騎士学園学園長の返事の後で、酷く慌てた様子で闘技場内の特別観覧席を訪れたのは、今度は魔術学園側の監督教員だった。
「学園長、大変です……!」
「どうした?」
額に大汗を浮かべながら切迫した様子で声を掛けてきた監督教員に、魔術学園の学園長は少し驚いた声で聞いた。
「そ、それが……」
切らした息を整えるように一呼吸置くと、監督教員は神妙な面持ちで事態を伝えた。
「大将戦を予定していたデイビス・ジャーホンクが……倒れました……」
「な、何だとっ!?」
目を見開き、大きく動揺した表情を見せる学園長。
「一体、どうしたと言うんだ!?」
「医務室に運んで診断して貰いましたが、恐らく、『ストレス性の魔流脈不全』だと……。現在は、ベッドの上で高熱と酷い息切れにうなされています……」
「そんな……、回復は!?大将戦には出られそうなのか!?」
切羽詰った様子の学園長に対して、監督教員は苦い顔を浮かべながら、首を横に振った。
「デイビス自身の魔流脈自体が著しく機能を低下させている為に回復魔術も効果なく……。それに、状況から考えて、恐らく強いストレスの原因はその"大将戦"自体にあるとほぼ断定されており、大将戦に向けた回復は困難だろうと……」
「な、なんと……」
「実行委員は『代理の選手を立てて構わない』との事で……。それで、クインズロードと交代するまで元々出場予定だった四年の生徒に出場をお願いしたのですが、『"クリフ・ワイルダー"とは絶対に戦いたくない』と、強く拒絶され……。現在、各学年のAクラスの担任が、観客席にいる他の成績上位の生徒に当たっています……」
「……なっ……」
「どうしてもデイビスの出場が無理ならば、他の生徒に出場させよ」と言うつもりだった学園長は、完全に言葉を失った。
「どうなるかは分かりませんが、一応、学園長にご報告をと……。それでは私も、めぼしい生徒にどうにか出場して貰えるよう説得して来ます……」
「あ、ああ……。頼んだ……」
と、力なく呟いた魔術学園の学園長。
もはや、彼には他に言葉が出せない様子だった……。
◆
「どうだった……?」
「駄目です……。三年は序列上位者にも、他の優秀な生徒にも断固出場を拒否されました……」
「二年もそうです……。大将戦は『あまりにも荷が重過ぎる』、と……」
「そうか……。四年も同じだ……。学園代表として出場するだけでも進路実現に有利になると説得しても、『負けが決まっている消化試合で、見世物みたいに無様に負けるのは絶対に嫌です』、とな……」
体調を崩したデイビスに代わる大将戦の出場選手を探していた各学年のAクラスの担任教師達は、選手控え室の前の通路に集まって、自分が請け持っている生徒達への説得の結果を互いに報告し合った。
そして、説得の結果は当然のように全員が惨敗。
結果を報告する教師達は切羽詰った、というより、もはやどん詰まりといった様子だった。
「くっ、クロフォード魔術学園の生徒ともあろう者らが、何と情けない……ッ」
「仕方ないですよ、相手が相手ですから……。正直、もし私が学生だったとしても、断ってたと思います……」
「それよりも──」と、教師の一人が重苦しい様子で切り出した。
「大将戦、どうしますか……?Bクラスの生徒にも当たりますか?」
その提案に対して、「いや……」と、対抗戦の監督教員も兼任する四年Aクラスの担任教師が否定的な反応を示した。
「もう……、無理だろう……。Aクラスの生徒でさえこの結果なんだから、出場してくれる学生なんてもう魔術学園にはいない筈だ……。それに、きっと副将戦の決着までそんなに時間はない。残念だが……」
「───大将戦は、諦めよう」と、男性教師が口にしようとした、その時だった。
「先生、こんな所で集まってどうしたんですか」
男性教師の言葉を遮るように現れたのは、別室で入念な消臭処理を終えて選手控え室に戻ろうとしていたエリザ・ローレッドだった。
二年Aクラスを担当する女性教師は、エリザに声を掛けた。
「あ、エリザさんっ。中堅戦、お疲れ様でした。惜しかったですけど、あれはエリザさんが勝ったと言っても良いと思いますっ!」
「中堅戦……?何の話ですか?私は中堅戦なんかには出場していませんが」
「あっ……」
真顔で言い放ったエリザに対して、女性教師は何かを察したような反応を見せた。
「それより、先生方が選手控え室前に集まって、何かアクシデントでもありました?」
と、改めて先程の質問を繰り返したエリザに対して、
「そ、それが……、実は……」
と、女性教員はエリザに事情を説明した。
「……と言う事で、今はもう、大将戦は行わないという方向で話していて……。代表として頑張ってくれたエリザさんや他の選手には申し訳ないですが……」
女性教師、そして他の教師達も一様に重く申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
しかし、そんな重い空気などまるで感じないような、とてもあっさりとした口調でエリザは言い放った。
「それなら私、一人だけうってつけの生徒を知ってますよ」
───と。
「えっ!?」
その言葉に、教師達は皆同じように驚いた顔を浮かべた。
「さ、さっきも言いましたけど、各学年のAクラスの生徒達にはもう声を掛けたんですよ?」
学園中の成績上位者にはもう声を掛けてあるのだから、エリザの言う人物は既に話を断っているのでは?と確認する女性教師に対して、エリザは返答した。
「ええ、分かってますよ。ですが、そいつはAクラスじゃありませんから、まだ声を掛けていない筈です」
「おぉっ」と、期待に膨らんだ教師陣の声が重なった。
「もしかして、Bクラスに実は代表クラスに匹敵する実力の生徒がいるのかいっ?」
と、対抗戦の監督教員は目を輝かせてエリザに聞いた。
しかし、次にエリザから放たれた言葉を聞いて、教員の期待に満ちた目は曇りを見せた。
「いえ、Bクラスではありません。何か知りませんけど、C級なんですよ、そいつ」
「!!」
そのエリザの言葉を聞いて、教員達は明らかに動揺した様子を見せた。
「し、C級!?いや、流石にC級の生徒を学園対抗戦に出場させる訳には……」
「い、いや、しかし、この際出場してくれるならば……。代表を選出せずに、大将戦を行わない事に比べたら……」
「それは……っ。そうかも知れませんが……」
そのように口々に言い合う教師達に対して、「あの、」と、エリザは言い合いを遮るように言った。
「C級だからって"弱い"事が前提で話してるみたいですけど、そいつは学園の代表でも不思議じゃないくらい、……いや、学園の代表じゃない事が不思議なくらいの実力がある事は、この私が保証しますよ」
「………っ!」
教師達からすればまるで信じられないような、冗談とも思えるような内容だったが、エリザの目と口調は真剣そのものだった。
「さっきも言ったように、そいつはC級です。でも、……悔しいですけど───、」
───かなり頭がおかしくて、うざいくらいにキザで、信じられないくらいに変態だけど、それでも、
「そいつ、私よりも強いですよ」
◆
魔術学園の第四学年序列一位であるセオ・サンタクルスと、騎士学園の第四学年序列一位のライアン=デュノー。
二人は、一年前の学園対抗戦でも中堅戦にて対戦していた。
当時、魔術によって作り出した3メートル程の大きさの一体の土泥人形といくつかの土属性魔術を使用してライアンと戦ったサンタクルスは、ライアンの防具の耐久値を殆ど削る事も出来ずに惨敗した。
しかし、一年越しのリベンジマッチにて、サンタクルスは5メートル程の巨大な土泥人形を三体も操り、それと同時に多彩な攻撃魔術を繰り出し、両手に縦長の盾とロングソードをそれぞれ構えるライアンと互角の戦いを繰り広げる程の成長を見せた。
二人の一進一退の激闘は20分間にも及び、お互いに殆どの防具の耐久値を失い、ほんの僅かな差で決着がついた。
試合後、二人は固い握手を結ぶと、最終学年の四年生である二人は卒業後はそれぞれ王国騎士団と王国魔術師団で国の為に尽くし、そして今度は共に並んで戦おう──と、お互いに誓った。
『 WINNER ライアン=デュノー 』
激闘の末に魔術学園代表のセオ・サンタクルスが敗れ、騎士学園代表のライアン=デュノーが副将戦で勝利した事によって、魔術学園と騎士学園はお互いに二勝二敗。
学園対抗戦の勝利の行方は、"大将戦"へと持ち込まれた。




