表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です【コミカライズ】  作者: 灰銀猫
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/214

反乱

「ギルバート様、身柄をお預かりさせて頂きますよ」


 屋敷に押し入ってきたのは、ダウンズ男爵が率いるヘーゼルダイン辺境騎士団の騎士たちだった。騎士の数は五十人はいるかしら……以前から入念に準備していたらしく、あっという間に屋敷を包囲して私たちを拘束していった。この日の屋敷の警備を彼らの一派で固めていたらしく、少人数でもあっという間にこの屋敷は彼らに占領されて私達は大広間へと集められた。


「ダウンズ男爵、一体どういうつもりだね」

「このヘーゼルダインを返して頂きに来たのですよ、ギルバート様」


 おじ様の前に歩み出た男爵を、おじ様は苦々しい表情で出迎えた。


「返す?」

「そうです。ギルバート様もご存じでしょう?我らの土地が二国の間でいい様に利用され続けてきた歴史を。我々は国の道具ではない。国の都合に振り回されるなど、もうまっぴらだ」


 独立派の急先鋒とも言われていたダウンズ男爵は、ラリー様の不在を狙って独立のため挙兵した。もしかしたらラリー様の出兵も彼らの計画のうちだったのかもしれない。確かに辺境の村は隣国が攻めてきたというにはあまりにも雑だったから。


「それで、ラリーの留守中に簒奪しようというのか?」

「簒奪?いいえ、そんな事は致しませんよ。私にはそんな器はございません」

「ほう?では、誰がこの地の領主になると?」

「領主ではなく、新たな導き手ですよ。それは、伝説の聖女様です」

「伝説の聖女?」


 意外な言葉に私は男爵が本気で言っているのかと疑ってしまった。伝説などを信じるような人物には思えなかったからだ。それに伝説の聖女とは以前男爵が言っていた、遥か昔、この地で人々を癒したというあの話かしら?


「ギルバート様もご存じでしょう?かつて国同士の争いで傷ついた人々を癒し、守ったという。あの伝説の聖女様の再来がいらっしゃったのです」

「再来じゃと?」

「ええ、癒しの力を持ち、類まれなお美しさを持つ、この御方です」


 芝居がかったダウンズ男爵の紹介の後に現れたのは、メアリー様だった。いつもはデイドレスに聖女の白いローブ姿だけど、今は落ち着いた深い青色の上質なドレスに白いローブを羽織っていて、確かにその姿は神々しく見えたわ。見た目以外に伝説の聖女に相応しいところはなかったけれど。


「メアリー嬢か……」

「ええ、我ら領民の傷を癒して下さる慈悲深きメアリー様こそ、このヘーゼルダインが必要としている御方。メアリー様の導きの下、我らは新しい秩序を築いていくのです」

「ギルバート様、どうぞ私たちの旗にお下りなさいませ。私たちを支持して下さるのであれば、悪いようには致しませんわ」

「メアリー様もこのように仰って下さっている。ギルバート様、どうか我らの崇高なる計画に賛同されよ」


 彼らは勝利を確信しているようで、表情も声も自信に溢れていた。


「……何をするつもりじゃ」

「この地に、聖女様を頂点とした聖王国を作るのです」


 ダウンズ男爵が堂々とそう宣言した。その表情には恍惚感が満ちていた。


「ヘーゼルダインと隣国の我らの地を統合して聖女様の聖なるお力でこの地を収め、長年に渡る不毛な戦いに終止符を打つのです。これからは両国の身勝手な都合に振り回されることなく、聖女様のお力をもってこの地を平和で豊かな土地にするのです」


 はるか昔、まだこの地が小国だった頃。この地で傷ついた人々を癒して回った聖女がいて、その聖女はこの地を救う救世主として崇められていた。赤く光る紫蛍石を手にした彼女は、敵味方関係なく人々を癒したという。


 そんな伝説を体現するのがメアリー様で、聖女を中心とした聖なる国を作ろうというのが彼らの主張だった。メアリー様の力が衰えた後は、聖女の力を持つ娘が新たな聖女となって国を導くという。聖女の力を持つのは貴族とは限らないし、世襲でなければ貴族などの特権階級がのさばる事もない。皆が平等に暮らせると男爵は主張した。


「……随分と夢物語じゃな。だが、両国は黙っていまい。国が攻めてきたらどうする?」

「王都からの軍など取るに足りません。こちらには地の利があり、聖女様の加護がある。騎士が傷ついても聖女様がお癒し下されば無限に戦えましょう」


 確かにそれは大きな力になるわね。怪我をしてもすぐに癒してしまえば騎士の数を保てるから。


「じゃが、両国から挟み撃ちにされたらどうする?普段は喧嘩していても、新しい国を潰す為なら手を組む可能性もあろう」

「それに関しても問題ありません。隣国の同士の話では今の領主はぼんくらで表に出てこない王子だとか。そのような者相手に負ける筈がございません」


 胸を張ってそう答える男爵に、おじ様やロバートは呆れた視線を向けた。それもそうよね。あまりにも見通しが甘すぎるし、具体性に欠けるわ。隣国の領主のレアード王子はぼんくらどころかかなりの切れ者に見える。少なくとも男爵達よりは知略に長けていそうよね。


「……話にならんな。計画が甘すぎて直ぐにでも破綻しそうだ。一つ教えてやろう。隣国の領主はぼんくらなどではない。それに、ここにはラリーがいる。彼が相手ではそなたらに勝ち目はないと思うが?」


 そう、レアード王子の能力は未知数だが、ここには鬼神とも讃えられるラリー様がいらっしゃる。いくらメアリー様がいらっしゃったとしても、ラリー様が負けるとは思えなかった。


「ご心配には及びませんよ、ギルバート殿。ローレンス様に我らを退ける力など、もう残ってはいらっしゃらないでしょうからな」


 おじ様の言葉に応えたのは、ハロルド様だった。その表情から、何か嫌な予感がした。


「それは……どういう……」

「ローレンス様には、暫く表舞台から去って頂きます」

「なんじゃと?」


 おじ様が声を荒げたけれど、私も叫びそうになったわ。一体どういうこと?


「最近、随分お疲れのご様子でしたので、少し手を加えただけです。そろそろ馬に乗るのも厳しい状況かと。体調が悪いのを押して先陣に立つのは立派なお心構えですが、時と場合によりますな」


 男爵の言葉に、私は心臓を冷たい手で掴まれた感覚を覚えた。もしかしてそれは……男爵だけでなく、メアリー様やハロルド様の勝ち誇ったような表情に、絶望がつま先からせり上がってくるのを感じた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ