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婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です【コミカライズ】  作者: 灰銀猫
第三章

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騎士の治療

 婚姻式が延期になって準備という大仕事がなくなってしまった私は、空いた時間を騎士の治療にあてることにした。出来れば孤児院や貧民院に行きたかったのだけれど、まだまだ騎士の数が足りないから騎士の治療を優先して欲しいとラリー様やギルおじ様に頼まれたのもある。


 使用人たちから聞いた話では、メアリー様は神殿での治療に固執されているようで、自力で動けない重い怪我人や神殿以外での治療に難色を示されたらしい。一方で最近は貴族や裕福な商人の屋敷にも頻繁に行っているとか。基本的に自分がやりたい事しかしていないと使用人たちが言っていた。




 騎士の治療を始めて十日ほど過ぎた頃、慰問から戻ったところで声をかけられた。


「セネット侯爵令嬢。形だけの慰問などせず、お屋敷で大人しくされていてはいかがですかな?今は一人でも人が多く必要なのです。騎士の慰問にわざわざローレンス様の側近であるロバート殿を連れて回られるなど迷惑ですぞ」


 玄関ホールで私に声をかけたのは、騎士団の中隊長を務めるダウンズ男爵だった。ヘーゼルダインの中でも独立を望む一派の筆頭で、噂では隣国の支援を受けて独立したいと考えているとも言われている。そのためか、王族のラリー様を快く思っていないとも。王命で婚約者となった私も気に入らないようで、いつも険しい視線を向けていた。


「慰問と申しましても……治療も行っておりますけれど?」

「それが形だけだというのだ。あなた様は神殿で聖女と認められていないというではないか。少しばかり力が使えるからと言って聖女だったメアリー様には遠く及ばない。そんなあなた様の護衛のために人を割く余裕はないのですぞ」

「……」


 彼の言い方にユーニス達が抗議の声を上げようとしたけれど私はそれを目で制した。今ここで騒ぎになったり、彼らとの関係が悪くなったりするのは好ましくないと思ったからだ。


「それに比べてメアリー様は素晴らしいお方だ。私も治療を受けたが、あんなに酷かった痛みが半減した」

「半減?」

「はぁ……世間知らずもいいところですな、完全など無理でしょう。聖女の力は広く浅く、多くの者に注がれるべきであると、メアリー様もそう仰っている。メアリー様は今や市民の間では女神様と大変な人気だ。まぁ、あのお美しさは正に聖女に相応しくいらっしゃる。もしかしたらあのお方こそ、辺境の聖女様かもしれん」

「辺境の聖女?」


 初めて聞いたわ。この地にも聖女がいるというの?


「はるか昔、この地で人々を癒したと言われるお方ですよ。赤く輝く紫蛍石を手に、数多の人々の傷を一度に治したとも伝わる」

「そんな伝説が……」

「わかったら大人しくしていてくだされ。やれやれ……王都のお姫様は慈善ごっこが好きで困ったものじゃわい」


 言いたいことだけ言って、ダウンズ男爵は去っていった。


「全く、失礼にも程がありますわ!」


 案の定ユーニスが怒りを露にして、男爵が去った方角を睨みつけていた。


「でも……言っている事は完全に間違いという訳ではないわ」

「それでも、騎士の治療はローレンス様やギルバート様からも……」


 ユーニスが言葉を遮ったのは誰かが玄関から入ってきたからだった。扉の方に視線を向けると入ってきたのはメアリー様の一行だった。どうやらあちらも治療から戻って来たらしい。ハロルド様やレックスもいて、今日もメアリー様はデイドレスにローブ姿で美しく、彼女の周りの騎士たちは憧憬のまなざしを向けていた。一方の私は、汚れてもいいような動きやすいワンピース姿だったせいか、誰も私に気付かずに屋敷の奥へと消えていった。


 家令たちからの話でも、ダウンズ男爵が言う通り街ではメアリー様の人気が急上昇しているのだという。確かに聖女のお力があってしかもあのお美しさなら領民が称賛しても仕方ないわね。私はやり切れぬ思いを抱えたまま、自室へ向かった。今日も三十人程の治療をしたけれど……私の力は役に立てていないのかしら……不安が急速に膨らんでいく。


 無性にラリー様と話がしたくなって、私はロバートにラリー様の予定を聞いてみた。今は執務室にいる筈だから会いに行かれては?と言われたために足を運ぶと、ドアの前に控えていた護衛二人が私を見てギョッとしたような表情を浮かべた。


「嫌ですわ、ラリー様ったら!」

(……え?)


 護衛の表情を訝しく思いながらも目通りをお願いしようとした私の耳に聞こえたのは、メアリー様の楽し気な声だった。この時間はまだ執務中だと聞いていたけれど、ご一緒だったの?その後も続く楽し気なメアリー様の声にショックを隠し切れなかった。ドアの前にいた護衛も気まずそうな表情を浮かべていたため、居たたまれなくなった私は護衛にまた日を改めるとだけ告げるとその場を後にした。


 ラリー様は終わった事だと仰っていたし、おじ様もラリー様は吹っ切れたと仰っていたとはいえ、私はお二人が恋人同士だった事がどうしても気にかかって仕方なかった。メアリー様の様子をみているととても終わった事のようには見えないもの。付き合いの長さからの気安さというには、その態度は砕けすぎているように見えた。


 使用人たちの話ではメアリー様はよくラリー様の元を訪れているようで、ラリー様もどうしてもという時以外はお相手をされているという。その時間はきっと私よりも長いのでしょうね。積極的に会いに行かれればいいのですよ、とレックスやロバートは言ってくれるけど、お忙しいのに仕事の邪魔をしてはと思うとどうしても足が向かなかった。


 …いえ、違うわ。メアリー様と鉢合わせるのが怖くて、親しそうな様子を見るのが怖くて、近づけないだけ……そう思い至るのに、大した時間はかからなかった。




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