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婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です【コミカライズ】  作者: 灰銀猫
第三章

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予想外の客人

 玄関ホールで出迎えを受けていた私達だったけれど、突然ラリー様の名を呼ぶ女性が現れて私たちの視線はそちらに向かった。そこにいたのは20代半ばと見られる、赤金髪と水色の瞳の美しい女性だった。楚々とした雰囲気の中に凛とした気品も感じるけれど、この様な場でいきなり声をかける不作法に私はぎょっとしてしまった。しかも当主を、婚約者の私がいる前で愛称で呼ぶなんて……心がざらっとした何かで触られるような感触に私は不安を感じた。


「……メアリー嬢」


 突然の呼びかけだったけれど、隣に立つラリー様を見上げるとあまり慌てた風ではなかった。もしかしてご存じだったのかしら……二人の様子から知り合いなのだろうと思うけれど、当主が帰還したばかりで押しかけてくることも嫌な感じがしたわ。


「お久しぶりですわ、ラリー様。ずっと……お会いしたかった……」


 両手を胸の前で組んで切なげにラリー様を見上げる様はとても美しくて絵になったけれど、その様子はただの知り合いには見えなかった。これだけを見ていると、まるで昔の恋人に再会したようにすらも見える。ただ、彼女がどこの誰かもわからない私は、事の成り行きを見守るしか出来なかった。


「久しぶりだな、メアリー嬢。義父上から話は聞いている。この地の負傷者を癒すために手を貸して下さるとの事、感謝する。客人として持て成そう。困った事があったら何なりと言って欲しい」

「まぁ……ラリー様、他人行儀ですのね。私の事は昔のようにメイと……」

「申し訳ないが、私は既に婚約者がいる身。しかもこの結婚は王命だ。けじめは付けて頂きたい」

「……そうでしたわね、分かりました」


 女性は親し気な態度を崩さなかったけれど、ラリー様は私に遠慮してか一線を引いた態度だった。確かに婚約者がいる男性を、家族以外が愛称で呼ぶのはマナー違反だわ。


「メアリー嬢、紹介しよう。アレクシア=セネット侯爵令嬢。私の婚約者だ」

「アレクシア=セネットです、はじめまして」


 ラリー様が先に私を相手の女性に紹介した事に、私は少しだけ安堵した。私を身内だと思って下さっている意味合いが強いからだ。私は失礼にならないように丁寧に礼をした。


「シア、こちらはメアリー=ノーマン伯爵令嬢だ。彼女は聖女の力をお持ちで、神殿で聖女として勤めていらしたのだよ」

「まぁ、そうでしたの」

「初めまして、アレクシア様。メアリー=ノーマンですわ」


 そう言って微笑まれると益々美しさが輝くようで、私は何だか負けた様な気がした。それにしても聖女様だったなんて意外だった。


「でも、聖女の力は今はもう、あまりありませんの。神殿で求められるだけの力がなくなったので、聖女を辞して領地に籠っていましたのよ」

「そうでしたか」

「ずっと母の看病をしていたのだけれど……その母も半年前に亡くなってしまって。気落ちしていたところ、こちらでは聖女の力で負傷した騎士たちの治療をしているとお聞きして、私も微力ではありますがまだ力があるためお力になれればと思って参ったのです」

「それは……ご協力、ありがとう存じます」


 どうやら私がやって来た事が他にも広がっていたらしい。でも、始めたのは三月程前だけど……そんなに早く話が広がるかしら……王都でこの話をしたのも一月ほど前よね。王都ならともかく、領地にまでこの話が届いていたなんて……私は噂の速さに私は驚くしかなかった。


 その後、メアリー様の弟君だというハロルド様と、メアリー様の侍女を紹介された。ハロルド様は王都の騎士団にいらしたそうで、姉君であるメアリー様がどうしてもヘーゼルダインに行くというので、心配して騎士を休職してついてきたのだという。赤金髪と水色の瞳は姉君によく似ていたけれど、何と言うか表情が冷たくて印象はよくなかった。


「ねぇ、ローレンス様、お茶の準備をしておりましたの。積もるお話もありますし、是非ご一緒してくださいな」


 ラリー様の腕に絡みつきそうな勢いで近づいてきたメアリー様に、私はぎょっとしてしまった。隣のラリー様も驚きの表情を浮かべている。長旅から帰って来たばかりの相手に、しかも家族でも婚約者でもない者が、相手の家でお茶に誘うなどマナー違反でしかないわ。いくら元聖女様でも客人だし、しかも婚約者のいる相手に、婚約者の前で誘うなんてあり得ない。赤みのある金髪もあってか、私はある人物の事を思い浮かべてしまったけれど、きっと私は悪くないわよね。


「メアリー嬢、お気持ちは嬉しいが帰って来たばかりでね。やらなければならない事が山済みなんだ。お気持ちだけ頂いておこう」


 さぁ、シア、と私の背に手を添えたラリー様は、私を促すとその場を離れた。メアリー様の戸惑った声が聞こえたけれど、私は振り返る事も出来ずにそのままラリー様の私室に案内された。


「すまなかった、シア」


 ソファでメイナードが入れたお茶を手に、ラリー様が謝ってきた。それはメアリー様の事かしら…


「義父上に手紙で知らされてはいたんだが……まさか本当だとは思わなくてね」


 そう言って苦笑したラリー様はメアリー様の事を教えてくれた。聖女の力があったため、神殿で聖女として働いていた事、ラリー様とは騎士団にいた頃に知り合った事、2年前に力が落ちて聖女を辞していた事などだ。


「それに、これは他から聞いて嫌な思いをさせるよりも私から話しておきたいと思ったのだが……実は私と彼女は一時期恋仲だったんだ」

「……」


 思いがけない告白に、私は手にしていたカップを落としそうになった。動揺を悟られないようにとゆっくりラリー様に視線を向けると、ラリー様は困ったような笑顔を浮かべていた。


「もう10年も前の話だし、5年前、ここに来る際に一緒に行かないかと誘ったんだが断られた。それからは会うどころか手紙のやり取りもないよ」

「そうですか」

「正直、どうして今更と思っているくらいなんだ。だから心配しないで欲しい」

「心配なんて……」

「そう?でもシアは周りに気を使い過ぎるからね。だが、彼女の協力の申し出は有難いから」

「私の事はご心配なく。むしろこの地に協力して頂けるなんて有難いですわ」


 ラリー様、今はメアリー様の事をどう思っていらっしゃるのかしら……そう思いながらもその事を聞く勇気を持ち合わせていなかった私は無難にそう答えるしか出来なかった。前向きになっていた筈の気持ちが急にしぼんでいくのを感じて、私は何事もなく結婚式が終わるのを祈った。



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