エリオット様の罪
あれから五日後、私はラリー様と共に王宮に向かった。エリオット様たちへの取り調べが終わり、その処分が決まったらしい。
あの後、私は直ぐに回復してこれといった問題もなく過ごしていた。あの一件の後私も当事者として事情聴取を受けたけれど、今日はその報告があるという。あの騒動で私たちは帰郷を一週間後に延ばし、明後日には王都を発つ予定だから、その前にエリオット様の処分を下されるみたいね。
案内されたのは謁見の間だった。エリオット様のことだけなら陛下の執務室の隣にある大部屋かと思ったけれど、これは思った以上に人数が集まりそうね。
「エリオット様だけではなかったのですね……」
「ああ、彼一人では済まなかったんだ」
ラリー様のお話では、他にもこの件に関わった者がいたという。そのため今日まで時間がかったのだとも。確かにエリオット様お一人で痺れ薬を用意するなんて無理よね。彼の周りにはそんなことを頼めるような人はいなかったもの。
謁見の間に入ると、既に宰相や上位貴族の当主たちの顔が見えた。用意された席に着くと、直ぐに国王陛下ご夫妻と王太子殿下ご夫婦、第三王子のグレン様がお出ましになった。やはりというか、その中にエリオット様はいらっしゃらなかった。
「これよりエリオットらが起こした不祥事について沙汰を言い渡す」
国王陛下が重苦しい声でそう宣言されると、両脇を騎士に抱えられたエリオット様が入室した。どうやら後ろ手に縛られているみたいね。表情は暗く、目は剣呑さを隠そうともしない様子からも、彼がこの状況が不本意である事を現していた。
私に気が付くと射殺しそうな視線を向けてきて、私は思わずたじろいでしまった。先日は私と再婚約しようなどと言っていたのに。やはり彼は私など道具としてしか見てはいなかったのね。
「大丈夫だ、シア。もうあいつは何も出来ないから」
「……ありがとうございます、ラリー様」
エリオット様だけかと思ったら、それに続いて私の両親とメイベルも入室して来て私は驚きを隠せなかった。メイベルが絡んでいるとは思っていたけど両親もだなんて……それにこんな風に拘束されていることも意外だった。
彼らは私達に気が付くと忌々しい表情を向けてきた。エリオット様が私と婚約し直そうとしたせいかしら……私が自ら望んだわけでもないのに。彼らにとって私は邪魔な存在でしかないのね……諦めてはいたけど、長く側を離れていたせいかその事実を突きつけられると胸が痛んだ。
宰相様がまず、エリオット様の罪状について説明を始めた。彼の罪は三つあり、一つ目は王妃様の公文書にもなる便箋を盗み出した事、二つ目はラリー様の婚約者である私に狼藉を働いた事、そして三つ目は……驚いた事に王太子殿下に毒を盛ろうとしたことだった。
二つの罪は分かっていたけれど、まさか王太子殿下を害しようとしていたなんて思いもしなかったわ。お二人の仲は良いという訳ではないけれど悪いわけでもなかったから。元より面倒事は遠慮したいけれど特権は享受したいという甘ったれた性分だったから、王太子殿下をどうこうするなど考える人ではなかったはず。一体どうしてそんなことを……
また私の家族に対しては、痺れ薬をエリオット様に盛ろうとした事が上げられたけれど、俄かには信じられなかった。あの夜会の後で父はメイベルの王子妃教育が遅れていること、授業を抜け出して他家の子息とお茶を楽しんでいたことなどを王家に指摘され、厳重注意を受けていた。このままでは婚約者になれないと危機感を持った父は痺れ薬をメイベルに渡し、それでエリオット様との既成事実を作るように唆したとしたのだという。
だけど、この計画を聞かされたメイベルは、既にエリオット様から見放されて冷たくされていた。その為メイベルは、父の計画をエリオット様に話して婚約者の入れ替えを提案したのだという。その案にエリオット様が賛成して、二人は私を呼び出して既成事実を作ろうとしたのが真相だった。
更にエリオット様は自身が王族に残るため、王太子殿下にも痺れ薬を飲ませて体調不良にしようとしたらしい。そうすれば自分を王族に残さなければいけないとの声が上がるだろうと踏んだのだと。王太子殿下の侍女に栄養剤だと言って飲ませようとしたけれど、侍女が不審に思い侍女頭に相談したためこの件が発覚したという。
「何か申し開きはあるか、エリオット」
国王陛下の声が重苦しく、そこには言い表せないほどの苦渋が隠れていた。きっとこうなったことに陛下もお心を痛めていらっしゃるのでしょうね。陛下は苦言を呈しながらもエリオット様を案じていらっしゃったから。
「父上! 俺は何もしていない! 本当だ! 全ては俺に罪を着せようとした者の陰謀です!」
陛下に発言を許可されたエリオット様は、大声でそう叫んだ。そんなに大きな声を出さずとも聞こえるだろうに……と思うほどに。
「陰謀か……誰が、どんな目的でその様なことをしたと?」
「それは、お、叔父上であられるヘーゼルダイン辺境伯です!」
「な……っ」
「殿下?」
「何を……」
その場にいた多くの人がエリオット様の言葉に動揺して騒めいた。私もまさかラリー様の名がここで出るなんて予想していなかったわ。思わずラリー様に視線を向けるとラリー様は僅かに苦笑を浮かべていらっしゃった。でも、その様子から驚きは見当たらないわ。もしかするとエリオット様があんな事を言い出すのをご存じだったのかしら……
「ほう……ラリー、いや、ヘーゼルダイン辺境伯だと?」
「はい、そうです」
「動機は?」
陛下にそう尋ねられたエリオット様の表情がパッと明るくなった。
「ヘーゼルダイン辺境伯は王弟でありながら、国内でも一番キナ臭くトラブルが多い辺境伯領に追いやられたことを恨まれているからです。俺を唆して兄上を弑し、その後俺を兄上殺しとして糾弾して処刑し、いずれは王位を手にしようとされたのです!」




