絶体絶命
「エリオット殿下、お嬢様にお触れにならないで下さい」
そう言って崩れ落ちた私を支えてソファに座り直してくれたのはユーニスだった。いつも笑顔の彼女も、今は剣呑な目でエリオット様を警戒してその動きを目で追っていた。
「ふん、侍女風情が生意気な!さっさと下がれ!」
「…お断りします」
「何だと?!」
「私の主は王妃様であり、アレクシア様です。王妃様からは、アレクシア様を害する者は例え殿下でも退けるようにと命じられております」
「な…っ!」
さすがは元騎士だっただけあって、ユーニスはエリオット様を前にしても一歩も引かなかった。エリオット様もまさか王妃様から自分も排除するようにと言われていたとは思わなかったらしく、目を見開いて驚きの表情を浮かべていた。
王妃様は聖女の力を王家に取り込みたいと願う陛下のお気持ちを実の息子よりも優先されたのでしょうね。王家が聖女の力を取り込む事の有益さは確かに大きいわ。何代も前からずっと狙っていたこのチャンスを逃したくなかったと。そのためには替えがいる息子たちより私を優先したのだ。
「…っ、母上まで!俺を見捨てられたのか!」
驚きから冷めたエリオット様の表情に、今までに見た事もない程の怒りと憎しみが浮かび、秀麗な顔が歪に歪んだ。
「衛兵!」
エリオット様がそう叫ぶと、ドアから騎士が三人入ってきた。どうやらすぐ外に控えていたらしい。
「この侍女を捉えろ。私を害しようとした重罪人だ!」
「はっ!」
「な…!」
あっという間に騎士たちが私達を取り囲んだ。ユーニスもさすがにこの状況は想定していなかったのか、驚きの表情を浮かべていた。
「ふん!いくら母上の命令であっても、俺を害しようとする者は王家の敵だ」
「…くっ!」
「やめて下さい、殿下! 王命に背いているのは殿下の方です。陛下の勅命を……破るおつもりですか?」
ユーニスが捕らえられそうになって、私は痺れ始めた身体を必死に鼓舞して声を上げた。騎士は王族を守るのが使命だから殿下が命じれば動かざるを得ない。ユーニスの無実は王妃様に訴えれば晴れるけれど、それでも今、ユーニスに出ていかれては困るわ。一度はエリオット様と結婚するしかないと諦めていたが、今の私はラリー様の婚約者なのよ。今更エリオット様と縁を戻すなど絶対にお断りだわ。
「その侍女はセネット侯爵令嬢に毒を盛った。王族の客人に対しての傷害の容疑もある!」
「な…!」
「嘘です…私に痺れ薬、を盛ったのは、殿下、ではありませんか……!」
必死にそう私が呼びかけ、ユーニスも最後まで私を守ろうとしてくれたけれど……三人の騎士の前に私達は無力だった。あっという間にユーニスは拘束されて部屋から連れ出されてしまった。
「ああ、待たせたな、アレクシア。心配は要らない。お前は俺に身を任せておけばいい。そうすれば……お前だってもう叔父上に嫁げないだろう?叔父上も父上や母上も、外聞を憚って俺との結婚は反対しない筈だ」
「……お断り、します……」
「ふん。強情だな。だが、叔父上は宰相共に捕まっていたし、母上も今日は予定が詰まっている。誰も俺たちの邪魔しに来ない」
そう言いながらエリオット様は、身体に力の入らない私の身体に手を伸ばしてきた。嫌だ、気持ち悪いと思うのに、身体がいう事を聞かない……抱き上げられて私が連れていかれたのは客間の奥にある寝室だった。そこには天蓋付きのベッドがあり、私はそこに横たえられた。
「さぁ、少し早いが初夜といこうか」
覆いかぶさってくるエリオット様から逃れようとしたけれど、身体の痺れは益々強くなっていった。治癒魔法か結界魔法を使おうとしたけれど思うように身体に力が入らず力が籠められない。私は成す術もなく、絶望を噛みしめるしかなかった。




