陛下達との再会
呆然とした家族を残して私たちはその場を離れた。
「ラリー様、両親と妹が申し訳ございませんでした」
人気の少ない壁際に移動してラリー様に謝った。さすがに家族の態度には呆れしかなかったけれど、血の繋がった両親であり妹だから。まさか陛下が出席される夜会であんな無礼な真似をするとは思わなかったけれど。メイベルがエリオット様の婚約者に内定したことで一層調子に乗ってしまったのかもしれないわ……父は役職にも就かず、我が家は過去の栄光だけが頼りのしがない一侯爵家でしかないのに……
「シアが謝る事はありませんよ。あなただってあの家では嫌な思いをしてきたんだ。かれらのことであなたが私に謝る必要はない。悪いのは両親であり、それが理解出来ない妹だ」
「あ、りがとう……ございます」
まさかそんな風に言っていただけるとは思わず、咄嗟にどう答えていいのかわからなかった。何時だってメイベルが優先で引き立て役だったし、あの子に婚約者や恋人を奪われた令嬢たちが責めるのは何故か私だったから。こんな風にメイベルより私を尊重してくれたのは、国王陛下ご夫妻と数少ない親しい友人たち、そして祖母と仲がよかった方くらいなのだ。
「噂には聞いていたが、思っていた以上にマナーが身についていないようだね。あれでは王子妃は無理だろう。半年以内に王子妃教育を終えないと、エリオットは臣籍降下だそうだ」
「え? そうなのですか?」
「ああ、王都からの情報にそんな話があった。あと三月しかないが殆ど進んでいないらしい。あれでは無理だろうと」
「そうだったんですか……」
それは知らなかったけれど、王妃様ならそう仰るわよね。あのお厳しい王妃様が簡単にメイベルを許すとは思えないもの。これはもう、最初から王族から追放する気でやっていらっしゃるのかもしれない…
「さ、彼らのことは放っておいて、陛下のところに向かおう」
ラリー様に促されて陛下と王妃様の元にご挨拶に向かった。
王族の席に伺うと、国王ご夫妻と王太子殿下ご夫妻、エリオット様とグレン様がいらっしゃった。エリオット様がここにいらっしゃったのは意外だけど、よくよく考えればメイベルは正式な婚約者じゃないから、私の時と違ってここにはいられないのよね。でも、あのエリオット様がメイベルと離れているとは意外だけど。
「おお、久しぶりだな、ラリー。アレクシア嬢も息災で何よりだ」
「お久しぶりでございます、両陛下にはお変わりなく…」
「ああ、堅苦しい挨拶は不要じゃ、ラリー。そなたのお陰でヘーゼルダインと隣国の小競り合いも治まっておる。礼を言うぞ」
「勿体ないお言葉でございます。これも養父であるギルバート殿のこれまでの努力あっての事でございます」
今はラリー様お一人で当主の仕事をされているのに、ギルおじ様の事を陛下に奏上なさったのには驚いたわ。でも、こういうところがさすがというか人格者だと思う。あのお二人は実の父子ではないのに、心映えなどはとてもよく似ていらっしゃるのよね。
「アレクシアもお久しぶりですね」
久しぶりにかけられた王妃様の声には以前の柔らかさがあった。
「はい、ご無沙汰しておりました。王妃様には数々のご配慮を賜り、誠にありがとう存じます」
「そんなに畏まらなくてもいいのよ。あなたの事は娘のように思っていたのだもの」
「ありがとうございます」
お会いするのは久しぶりだったけれど、お二人とも以前と変わらず優しいお声をかけて頂いてホッとした。ラリー様が定期的に私の様子をお二人にご報告されていた事もこの時に初めて知った。お二人は私が辺境伯領に馴染むか心配して下さっていたらしく、上手くやっているとお聞きになって大変喜んで下さった。
「仲良くやっておる様じゃの」
「はい。アレクシア嬢は博識で、領地についても色々アイデアを出してくれるので助かっています」
「そうか。それは頼もしい。まだまだ問題が多く残る地ではあるが、これからもよろしく頼む」
「はい。今後とも誠心誠意務めを果たす所存です」
「うむ、期待しておるぞ。じゃが…仕事の話ばかりで終わってはおらぬだろうな?」
急に陛下の口調が変わって、後半は周りに聞こえないくらいの大きさに変わった。
「それは…」
「そなたもいい歳なのじゃ。そろそろわしも姪か甥の顔が見たいんじゃがな」
「…何だか孫の顔を見たがる年寄りのようですよ、兄上…」
これまで畏まっていたラリー様だったけど、陛下に合わせて格好を崩してしまわれた。もしかすると、これが本来のお二人の姿なのかしら。
「まぁ、そう仰らず。陛下は大切なローレンス様がいつまでも独り身でいらっしゃるのを、ずっと気に病まれているのですよ」
「王妃様まで…」
お二人は仲がよいようで、ラリー様が未だに結婚されないのを気に病んでいらっしゃったらしい。私と仲良くやっているとお聞きになって大変喜んで下さった。エリオット様に婚約破棄されたけれど、両陛下にこんな風に思っていただけたなんて、有難くて恐れ多かったけれど…とても嬉しかった。
ラリー様との結婚式は領地でやるけど、結婚後は必ず王家の舞踏会に出るように、そこで他の貴族にお披露目をすると仰って頂いて恐縮するばかりだった。ラリー様は陛下の弟君だから、対外的にも王宮の夜会か舞踏会でお披露目する必要があるのだという。




