両親への糾弾
「シア、大丈夫だ」
今すぐここから消えたくなった私に、そう言って手を優しく握ってくれたのはラリー様だった。その手と声の温かさに目の奥がじんわりと熱くなる。
王族のラリー様を侮辱した上、私に下賜された王家からの支度金を寄こせと言ったこの恥知らずな家族を、私はどうして今まで庇い守ってきたのかしら……そして、これまでの私の努力はこの人たちには何一つ届いていなかった。虚しさと同時に言いようのないおかしさがこみ上げてきた。
「ふん! 何を言っている。メイベルがエリオット様の婚約者に選ばれるのは当然だろう」
父のあり得ない発言に周りからざわめきが上がった。
「でも、メイベルは王子妃教育を終わらせていませんわ」
「そんなもの、可愛いメイベルには不要だ。お前のような可愛げのない奴と違い、メイベルはこんなに可愛いのだからな」
「そうよ、気難しく小言ばかりのお前と違い、メイベルは愛らしくてそこにいるだけで周りを明るくするの。王子妃として、これほど相応しい子はいないわ」
父だけでなく母も参戦してきたけれど……可愛いだけで王子妃が務まる筈もないのに……この人たちの頭の中はどうなっているのかしら……こんなに道理がわからない人たちだったかしら?
「随分な言い草だな、セネット候」
周りの貴族たちが呆れかえっているのにも気付かず、自分たちに都合のいい持論を振りかざす家族をどうしようかと頭をフル稼働させた私の耳に届いたのは、ラリー様の呆れを含んだ声だった。
「王族であった私の元に嫁ぐ娘の支度金を、妹に使うから寄こせとは。しかも、エリオットの婚約者に王子妃教育が不要などと……その発言、王族への侮辱だと見なされるが?」
「その通りだ、セネット侯爵」
「な……! 何を……!」
静かにお怒りになったラリー様の言葉を副宰相様が肯定された。さすがに副宰相様のお顔はご存じだったようで父が狼狽えている。
「メイベル嬢がエリオット様の婚約者になるのは王子妃教育を終えた後。それも半年以内との期限付きだ。陛下からはそう伺っている」
「そ、それは……」
「それに、貴殿が先ほどから暴言を吐いている相手は王弟殿下であらせられたローレンス様でいらっしゃる。今でも準王族の資格をお持ちだし、辺境伯家の当主でもいらっしゃる。貴殿よりも立場は上だが、それを理解されているのか?」
副宰相様の言葉が増すほどに両親の顔色が青くなっていった。権威のある人の言葉しか聞き入れないのね。情けないわ……
「ほ、本物の……辺境、伯……?」
「な……で、でも、辺境伯、様は……お顔に……」
両親は驚き過ぎて真っ当な言葉も出ないようだった。メイベルのことで浮かれていたのでしょうけれど、これで少しは冷静になったかしら?
「先ほどシアがそう申したであろう? どういう訳か王都ではそんな噂が流れていたらしいが、この通りどこにも傷などないが?」
「な……!」
「そんなっ?」
嫌だわ、今になって狼狽えているけど、見るに堪えない醜態だわ。今までどうしてこの人たちに認めて貰いたいなどと思っていたのかしら……
「まぁ、仮に傷があっても、シアが消してくれただろうが」
「な、にを……」
「何だ? 貴殿らは親なのに知らないのか? シアが治癒魔法を使えるのを」
「は? ち、治癒、まほう……?」
ラリー様、その事をここで言ってしまっていいのですか? この事は陛下には内密にと言われていたのに……
「ち、治癒魔法だって……」
「そんな……それじゃ……」
「いや、でも青銀髪と紫の瞳だし……」
周りの貴族も驚きを隠せないようで囁き合っていたけれど、それもそうよね。治癒魔法の使い手はこの国では珍しいのだから。でもセネット家は建国以来、治癒魔法が使える女児が生まれるのは有名な話なのに。いえ、私の場合は陛下が口止めをされていたのだけど。
「な……そんな、馬鹿な……」
「全く、我が子の事なのに知らないとは……呆れるしかないな」
「ぅ……」
「アレクシア嬢がエリオットの婚約者に選ばれた理由の一つがこの力だ。もちろん、勉学やマナー、ダンスや語学などの成績が優秀だったこともあるがな」
特に声を荒げているわけでもないのに、ラリー様のお声は会場に朗々と響き渡った。壇上では陛下たちがこの騒ぎをご覧になっているけれど、特にお止めする様子はないわね。王妃様などは面白い余興を見ているかのように楽しげな表情を浮かべていらっしゃるし。
「アレクシア嬢の支度金は私が王家から直接受け取り管理している。これは国王夫妻のご意志だ。お前たちがアレクシア嬢に使わないと見越してそう指示なされた。文句があるのなら陛下に奏上するのだな」
「な……!」
ラリー様の宣言に父だけでなく周りの方々も息を止めた。
「私との婚姻が決まったアレクシア嬢に対し、貴殿は何をした? 我が領への移動の手配もせず、着の身着のままで送り出したそうではないか。それを知った王后陛下がわざわざ馬車と護衛をご用意下さったのをいいことに、その後私が送った手紙に返事も寄こさないとは……随分と舐められたものだな」
「……」
ラリー様の追及に、両親は顔を青くしてその場に立ち尽くした。




