天敵との遭遇
王宮の大ホールは久しぶりで、入った途端に鳥肌が立つのを感じた。最後にここに来たのは婚約破棄されたあの夜会の時……どうしてもその時の事を思い出してしまう。
招待されている貴族も、あの時あの場にいた人が多いだろうし、社交界では私は傷物令嬢扱いだ。自分がどう思われているかを考えると、胃が痛くなりそうだった。
「大丈夫ですよ、シア。可愛い顔を上げて」
「は、はい……」
「胸を張って。今日のあなたはこの会場の誰よりも愛らしいよ」
「……はい、ありがとうございます」
愛らしいだなんて連呼しないで欲しい。自分の容姿は自分でもよくわかっているから。でも、そう言ってくださるラリー様の優しさが心強かった。
その一方でそのラリー様が私は心配だった。だって、ラリー様は顔に大きな傷があって醜くなり、その反動で性格まで粗野で冷酷になったと噂されていたのだ。
でも実際は秀麗なお顔はそのままで、王都でもこんなに麗しい殿方はそうそういらっしゃらないわ。しかも性格も昔と変わらず穏やかでとてもお優しいのだ。
貴族のご婦人達がハイエナのように群がってくる様が安易に想像出来た。未婚の令嬢もそうだけど、ラリー様のお年なら結婚している方でもすり寄ってきそうよね。この国では跡取りの子さえなせば貴族の浮気は大目に見られているから。妻としての義務を果たし、財力や影響力がある貴婦人が若い騎士や文官などのパトロンになるのは珍しくないから。
「ヘーゼルダイン辺境伯ローレンス様及び、婚約者のセネット侯爵令嬢アレクシア様のご入場です!」
騎士が順番に入場者の名を挙げる。順番は爵位を基準にしていて、身分の低い者から始まり、最後は王族で終わる。辺境伯は侯爵と同等な上ラリー様は王弟でいらっしゃるから、入場は後の方だった。既に多くの貴族が入場していたため、先に入場している方たちが私たちの姿を見て驚きの声を上げた。
「……え……あれが……辺境伯様……?」
「うそ……っ! 辺境伯様にはお顔に傷があったのではなくて?」
「噂と全然違うじゃない!」
「アレクシア様だって?」
「ええ!? あれがあの地味令嬢?」
場にいた貴族たちの騒めきは、その日のどの招待客よりも大きかったと思うけれど、それも仕方ないわよね。大々的に王子に婚約破棄をされて辺境に追いやられた私と、噂では醜く冷酷非情になったと噂されていたラリー様なのだから。なのに実際のラリー様はこんなにお麗しくて凛々しいのよ。さすが王家の生まれだけあって堂々とした威厳ある態度は一国の王と言っても過言じゃない。隣に立つのが私で何だか申し訳ないわ……
「シア、大丈夫ですよ、胸を張って」
「は、はい……」
久しぶりに注目されて、私の心臓は飛び出しそうだったけれど、そこにすかさずラリー様が笑顔でそう仰ってくださったおかげですっと楽になったわ。だけど……今度は黄色い悲鳴が会場内に響き渡った。だけど……その笑顔は反則だわ……嫌だわ、私はギルおじ様一筋の筈なのに……
「見つけたぞ、アレクシア」
「お姉様、いらしていたのですね」
陛下たちの入場を待つ間、ラリー様と共に招待客からの挨拶を受けていたところに、聞きたくない声が入り込んできた。視線を向けなくてもわかるわ、エリオット様とメイベルだ。
「……ごきげんよう、エリオット様。お久しぶりね、メイベル」
会いたくはなかったけれど会ってしまったのなら仕方がないわ。というかエリオット様、王族なのにこんなところにいていいのかしら? もう直ぐ入場なのに。
義務感満載で振り向くと、そこには驚きの表情を浮かべた二人がいた。何かしら? ああ、ラリー様の麗しいお顔に驚いているのね。
「え……? アレク、シア?」
「お、お姉様!?」
てっきりラリー様に驚いているのかと思っていたけれど……二人の視線は私に向けられているわ。何かしら? そんなに変な格好はしていなかったはずだけど……
「お、お、前……その姿は……?」
「お姉様……ちょ……ちょっとやり過ぎじゃない? そ、それに……その方は……」
「……何か?」
一体なんなのかしら? 言いたい事があるならはっきり言えばいいのに。エリオット様は顔を赤くして狼狽えているし、メイベルもいつもの可憐な作り顔が消えて素に戻っているわよ。
「何なんだ、その恰好は?」
「格好と申されても……ドレスコードは守っておりますが?」
王妃様が選ばれたマナーの先生方から厳しく鍛えられたからドレスコードは把握しているし、その辺りはラリー様だって抜かりがないわ。そんな風に指を指される謂れはないわ。エリオット様ったら、一体何が言いたいのかしら。
一方のメイベルはラリー様に見とれて頬を染めているけれど……エリオット様の前でその態度はさすがにマズいんじゃないかしら?




