いざ、夜会へ
あっという間に夜会当日を迎えた。王宮の催しに出るのはあの婚約破棄された夜会以来だから三月ぶり。どうしてもあの時の記憶が蘇って気が重くなるわ。
そんな沈みそうになる気持ちを慰めてくれたのはヘイローズが用意してくれた衣装だった。今回はラリー様の瞳の色の青を基調とした衣装で、私は濃青を基調にしたすっきりしたデザインのドレス。金と紫を指し色に使い、生地も上等でとても品よく仕上がっているわ。どちからと言えば大人っぽい顔立ちの私に可愛らしいドレスは似合わないから嬉しい。
髪はサイドを結い上げて後ろで結び、青の髪飾りを添える。後ろの髪はそのまま下ろしてすっきりと仕上げた。宝飾品もドレスに合わせたシンプルなもの。装飾が細かくてとても素敵だわ。
一方のラリー様は私の髪色の青銀をベースに、青と金と紫を刺し色にしたもので、2人が並ぶとお揃いとわかるデザインだった。ヘイローズのセンスの良さが現れているわ。
それにしても……不敬かもしれないけれど正装に身を包んだラリー様はエリオット様の何倍も素敵だわ。鍛えられた身体に年を重ねて増した威厳や色気はエリオット様にはないものだもの。お顔も傷がなく麗しいままだから夜会に出たら女性達が群がってくるわよね……そうなったらまた色々面倒事が増えそうな気がする……そんな未来が容易に思い浮かんで思わずため息が出た。
「まぁ、アレクシア様、こんな日にため息だなんて」
ユーニスが訝し気に私を見ていた。実父のトイ伯爵に会いたくないからと今日は留守番を選んだ彼女は私の準備に余念がない。
「だって……また色々言われるのだろうと思う気が重くて……」
「まぁ、言いたい人には言わせておけばいいのですよ」
「そうなんだけど……」
わかってはいるけれど、長年の習慣はそう簡単には変えられないわ。周りの人たちの認識も。
「もう! 自信をお持ちください! アレクシア様はもう地味にする必要はないのです。今日は目一杯着飾らせて頂きましたわ」
「そうだよ、シア。もっと自信を持って」
笑顔で励まして下さったのはラリー様だったけれど……いえいえ、ラリー様に群がる女狐たちが心配なのですが……エリオット様の時は若い令嬢だったけれど、ラリー様だと既婚の夫人たちも参戦してきそうよね。そっちの方がずっと手強そうなのだけど……
「シアはとても可愛いよ」
「そ、そうでしょうか……」
「ああ。屋敷に来た頃は痩せて疲れた表情だったけれど、今は頬もふっくらとしてバラ色でとても愛らしいし、表情だって別人のように生き生きしている。あなたは陛下がお認めになった正式な婚約者で、領地にとってもかけがえのない人だ。もっと自信をお持ちなさい」
言われた言葉のないように恥ずかしさがこみあげてきた。頬が赤くなっていないかしら……もしかしてラリー様、無自覚な女性たらしだったんじゃ……かえって不安が増してしまったのだけど。
「辺境伯様の仰る通りです。あのボンクラ王子のせいでご自身を卑下されるようになってしまわれましたが、アレクシア様はメイベル様にだって負けないくらいにお可愛らしいですわ!」
「……ユーニス。さすがに言い過ぎだわ……」
いくらなんでも王族にボンクラは……いえ、その通りだとは思うけど。それにメイベルの愛らしさにはさすがに敵わないわ。
「そうそう、ユーニスの言う通りだ。シアは可愛いのだからもっと自信を持つべきだ」
「ラ、ラリー様まで……」
もう、恥ずかしいわ。二人とも褒め過ぎよ……慣れていないから居たたまれないわ。
「そろそろお時間です」
「ああ、もうそんな時間か」
イザードが声をかけてきたので、ラリー様のエスコートで馬車に向かった。こんな風にエスコートしてもらうのも久しぶりだけど、嫌々やっているのを隠しもしないエリオット様とでは雲泥の差ね。背が高くて安定感があるし、私の歩調に合わせてくださるから凄く歩きやすいわ。
「シア、会場では決して私から離れないで。シアの側を離れる場合は姉上に側にいてもらうから」
「ナタリア様が?」
「姉上に夜会の話をしたら気にされてね。エリオットのことがあるし、セネット家のシアへの仕打ちもご存じだったから」
そうね、王都にいた頃もナタリア様には随分と気遣っていただいたわ。エリオット様にも何度か釘を刺してくださったし。それでもエリオット様の態度は変わらなかったけれど。
「あいつが何か言ってきても私が止めるから。だが、さすがに私一人では心許ないからね」
ナタリア様のお気持ちが嬉しいわ。それにしても陛下はどういうおつもりなのかしら? まさかエリオット様が陛下の名を騙って招待状を? いえ、それはないわね。
「今夜はシアの安全を第一に考えているから」
「あ、ありがとうございます……」
ナタリア様にまでお気を使わせてしまったなんて申し訳ないわ。でも、今回はどうして呼ばれたのかがわからないから不安が募る。ラリー様にもナタリア様にも申し訳ないけれど、今回はご厚意に甘えておこう。




