王家からの招待状
婚約披露のパーティーの後で話し合った結果、私たちの結婚式は半年後に決まり、王家にもそのように報告を上げて承認された。既にウエディングやら会場、招待客の手配は済んで、あとは式を待つばかりだ。ウエディングドレスは、婚約披露パーティーでドレスを作ってくれたヘイローズが制作してくれたわ。
ラリー様との関係は……悪くはない、と思う。ギルおじ様に一日に一度は共にお茶をするようにと言われて、毎日同じ時間を過ごしている。最初はぎこちなかったけれど、今は気を張らずに会話が出来るようになったと思う。
でも恋人という感じではないわね。年も十六歳差で私の倍くらいのお年だから、恋人というよりも年の離れた兄といった感じ。貴族間では親子ほど年が離れた夫婦も珍しくないけど、ラリー様に恋愛感情を持てる日が来るのかしら、というのが正直な気持ちだった。
そして私の初恋の方であるギルおじ様はというと……
「二人の邪魔になってはいかんからな。そろそろ帰ることにする」
「そんな……おじ様……」
「シア、ラリーを頼んだぞ」
婚約披露パーティーの後、おじ様はそう仰ってご自身の別邸に帰ってしまわれた。おじ様なりの気遣いなのだとはわかっているのだけれど……改めてこの初恋は叶わないのだと思い知らされた。
それからは心のすき間を埋めるように騎士たちの治療を始めたのだけれど……どうやら私の力は思った以上に強かったらしい。
「治療って、一人ずつじゃダメなのかしら?」
「お嬢様?」
「いえ、これだけの人数がいると、一人一人では時間が足りないでしょう?」
神殿の聖女で特に強い力を持つ人は一度に複数人の治療をした、なんて記録もあるらしい。その話を聞いた私は試しに三人の治療をしてみたのだけど……
「…………」
「問題、なさそうね」
「…………その様、ですわね……」
三人とも治してしまったのよね。その日から試しに少しずつ人数を増やしてみたところ、最終的に三十人の治療が出来てしまった。
「お嬢様、体調は……」
「ちょっと疲れた感じはするけれど……大丈夫みたい、ね」
「そう、ですか……」
どうやら治療は複数人の治療が出来てしまった。それでもラリー様やユーニスが危険だからと、三人以上の治療はしないようにときつく言われてしまったわ。
また、未亡人対策の方も最初は教会との間がぎくしゃくしたけれど、少しずつ改善していけるくらいには進んでいた。個人の要望もあるし、仕事も雇う側の事情もあるから改善すべき点は山のようにある。他国ではどうしていたのか気になったけれど、さすがにそれを知る手立てはないから自分たちで頑張るしかなさそうだった。でも、これが成功すればこの領地は格段に豊かになると思えば苦にはならなかったわ。
ラリー様は交易をもっと盛んにしてこの地を一大交易都市にし、他国から攻められないくらいの力を付けたいと仰っていた。交易が盛んになれば隣国も潤うし、逆に戦争すれば損をすることになる。そうなればこの地での戦争が起きる可能性は限りなく減るのではないか、そうなれば領民が傷つく事もなくなるだろう…とお考えだった。
こんな感じで私はこの辺境伯領で、予想以上に充実した日々を送っていたのだけど…
「夜会、ですか?」
「ああ、陛下から招待状が送られてきてね」
苦笑しながら見せてくれたのは、王宮で開かれる夜会の招待状だった。婚約破棄から約四か月、婚約披露パーティーから二か月、私がヘーゼルダインに来て四カ月ほどが経っていた。
夜会が開かれるのは一月後。王都とこのヘーゼルダインは馬車で二週間かかるから往復するだけでも一月はかかる。結婚式はまだ先だから問題はないように思えるけれど、今は社交シーズンで、王都では夜会や舞踏会が開かれている頃ね。ラリー様は隣国との小競り合いを理由に滅多に王都には行かれないし、行っても夜会などに出ることもなさらない。隣国の件を陛下に報告し今後の対応をどうするか話し合うとすぐに戻ってしまう。
だからエリオット様の婚約者として夜会などには出ていても、ラリー様にお会いすることはなかったのよね。ラリー様は言い寄ってくる令嬢たちが苦手だったし、実際にここ数年は隣国との関係は緊迫していて余裕がなかったと仰った。私との結婚もエリオット様が思い付きで言い出したもので、そうでなければまだ独身でいらしたと思う。
「今までほとんど出ていなかったが、陛下はシアも一緒に、と」
「私と? まだ婚約中ですのに?」
「ああ。この手の招待は婚姻後にと思っていたんだが……」
「ええ、私もですわ」
ラリー様がその麗しいお顔に苦笑を浮かべながら仰ったけれど、私も同感だった。エリオット様の命令と陛下たちの思惑付きの勅命で結婚することになったけれど、夜会などの招待が来るのは婚姻してからだとばかり思っていたわ。結婚報告のために一度は王都に行かなきゃいけないんだろうな……くらいの認識だったし。王子から婚約破棄されているから噂のネタにされるのは目に見えているから、出来ればあまり近付きたくなかった。
「どうする? 行きたくないなら断ってもいいが……」
「でも……」
「こちらの事は心配しなくていい。隣国とは年内の停戦を約束しているし、これから冬に向かえば戦闘も難しくなる。今ここを離れても不都合はないだろう。それに……義父上もいらっしゃるから心配はない」
「……そうですか。では……」
あまり気が乗らないけれど陛下の招待なら無下になんか出来ないわ。それに行かない理由もなくて、王家主催の夜会に出るため私たちは王都に向かうことになった。




