動き出した事業
モリスン男爵を治療してから騎士の治療を進めつつ、領内の孤児たちの問題に手を付けた。これは王都でも私がずっとやって来た慈善活動の一つだったのだけれど、隣国との戦闘が絶えない辺境伯領では孤児の問題は予想以上に深刻だった。
と言うのも、戦闘で亡くなった騎士たちの子どもの数が私の想像を大きく超えていたから。しかも子ども小さくて満足に働けない未亡人が多く、それがより一層貧困に拍車をかけていたのだ。
「ラリー様、騎士たちは治療して社会に復帰させるとして……亡くなった騎士の妻子はどうされています?」
「ん? 一応恩給を支給してはいるが……十分とは言い難いのが現状だな」
「そうですか……では……」
私はラリー様に一つの提案をした。それは未亡人に仕事を与え、その職場へ子連れで出勤させるというものだった。これは最近他国で始まった制度で、私も聞きかじりで詳しい事は知らないのだけど、最初にこの話を聞いた時には我が国でもぜひ取り入れたいと思っていたものだった。
聞いた話では、その制度は裁縫や料理、売り子など様々な仕事で行われているという。未亡人たちは子供達を連れて出勤し、子どもを預けてからそれぞれの職場に向かうらしい。
子供達は一つの場所に集められて、そこで文字の読み書きや簡単な計算、国のルールなどを教わるのだという。しかもお昼には、簡単なものとはいえ食事が与えられるのだ。
未亡人としては子供を預けられて読み書きを教わり、しかも食事もさせて貰えるとあって大層人気らしい。未だに平民は文字の読み書きが出来ない者が多いので、出来ることなら読み書きだけでも……と願う親は少なくなく、また子供の世話をしなくても済む分、家で細々とした内職するよりも格段に収入が増えるという。
「しかし……子どもをたくさん連れてこられても……居場所が……」
「だったら教会などはどうでしょう? 元から人がたくさん集まるように出来ていますし」
「しかし……教会が受け入れてくれるだろうか……」
ラリー様も顎に手を当てて考え込んでしまった。おじ様やラリー様の側近の方々もだ。
「では子どもをたくさん受け入れた教会には、その分協力金として寄付を増やしてはいかがでしょう?」
教会の中には資金繰りが厳しいところも多いと聞くわ。そういうところなら寄付金欲しさに協力してくれるかもしれない。
「そうですね、人が集まれば布教にもなりますわ。それに多くの教会は人手不足だと聞きます。草むしりや掃除などを子どもたちに手伝わせてはいかがでしょう」
「だったら食事作りも自分たちでやらせてみては?」
「……なるほど……」
私の提案に、モリスン夫人とメイナードが賛成してくれた。ラリー様は興味深げに聞いていらっしゃる。王族に生まれたから庶民の生活は馴染みがないのかもしれない。
「そうじゃな。では寄付金を半分にして昼食の材料をこちらが用意するのはどうじゃ?」
「なるほど、それだと教会も一食分助かりますな」
おじ様の提案に頷いたのはモーガン殿だった。おじ様は栄養失調で亡くなる子どもが後を絶たないため、教会に材料を提供することを提案された。教会は寄付で成り立っているから慢性的な資金不足のところが殆どで、食事にも事欠くところもあるという。
「では、協力してくれた教会には謝礼と受け入れた子どもの人数に応じた食材を出そう」
ラリー様もこの案に乗り気のようだった。
「そうですね。預かっている間は子どもたちに読み書きを教え、掃除などのお手伝いを頼みましょう。家事が身につけば母親の助けになりますし、働きに出る際も役に立ちますから」
「そうじゃな。十を超えると働きに出る子もいるからな」
さすがモリスン夫人は主婦の視点からいい案を出してくれるわ。貴族の私たちはお金さえ出せばいいと考えがちだから勉強になる。
「では試しに、どこかの教会で実際にやってみましょう。それで問題点も見えてくると思います。うまくいったらその方法で広げていけばいいですし」
「そうだな。早速教会を当たってみよう」
こうして騎士たちへの治療と未亡人とその子供たちへの対策はスタートした。
騎士たちの治療については、ラリー様は実力があって隊をまとめていた幹部クラスの復帰を優先的に願ったため、そちらから治療を始めることになった。出来る人の方がこなせる仕事量が違うし、慢性的な人材不足のこの地では効率を重視するしかなかった。
また、未亡人対策としてはメイナードやモリスン夫人の提案通り、教会の助けを借りる事にした。ただ、大きな教会は資金面で困っていないようで難色を示したらしい。そこで資金面で厳しい状況の小規模の教会の協力を仰ぐことにした。そういった教会の方が協力を仰ぎやすく市民との距離も近いためやりやすいだろうと。
また、小規模な教会は資金稼ぎのために、刺繍や小物作りなどをして売っているところが多い。子どもたちにも刺繍や小物作りを教えれば売る品が増えて収入増に繋がるし、子どもたちも手に職を付けられるわ。ヘーゼルダインは冬は雪に閉ざされるせいで手仕事が盛んだから、十年、二十年後には特産物に育てることも出来るかもしれない。




