ラリー様へのお願い
「失礼します、ラリー様。アレクシアです」
ラリー様の私室に入ると、既にラリー様がのんびりソファに掛けて寛いでいた。この様子からしてビリーが言っていた通り今日は忙しくなかったみたいね。室内にはメイナードだけでなくスザンナもいた。ラリー様の護衛だから仕方ないけれど、私が何を言うのか気になって仕方ないのでしょうね。
「義父上とのお茶を楽しんでいるのだって?」
家令のメイナードがお茶を入れてくれて、私はそれを受け取った。
「ええ、おじ様に祖母の事を聞かせて頂いていますの。祖母は私の憧れでしたので」
「ああ、そうだね。クラリッサ様は大変な美人な上に有能で、領主としても素晴らしかったと聞いている」
まさかラリー様からお祖母様の話を聞けるとは思わなかったわ。
「そうなのですか。ラリー様は祖母にお会いになった事は?」
「そうだね、夜会で何度かご挨拶をさせて頂いた事があるよ。いつでも背を伸ばして、凛とされていたね」
「そうでしたか」
お祖母様の姿が目に浮かぶようだわ。いつだってお祖母様は、体調が悪くなってからも背を伸ばしていらっしゃったから。
「それに、義父上がこの領地でやった改革の中には、クラリッサ様がやった事を真似したものもあると仰っていたよ」
「そうなのですか?」
おじ様がお祖母様の……それはとても誇らしくて嬉しいものだった。お祖母様は私の憧れであり、目標としている人だから。国王陛下や王妃様、マナーの先生たちの中にもお祖母様をお手本にしていると仰っていたけれど、こんな遠いところまでお祖母様がやった事が役に立っているならこれほど嬉しいことはないわ。きっとお祖母様も喜んでいらっしゃるはず。
「ああ、シアは甘いものが好きなのだって?」
「え? ええ、でも人並みにですわ」
「そう? 義父上に聞いて、私もケーキを用意させたんだ。是非食べてくれ」
「まぁ、お気遣いありがとうございます」
メイナードが差し出した小さめのケーキが幾つか盛りつけられた皿に私は目を輝かせた。小さなケーキがたくさんで、色んな味が楽しめるようになっている。これは王都でも見た事はないわ。私が知らなかっただけかもしれないけれど……
こうして私達の会話は和やかに始まった。最初は近況やここには慣れたかなどの当たり障りのない会話が続いたけれど、さすがにラリー様の時間は有限だろうと思い、私は本題に入ることにした。
「ラリー様、本題に入りたいので、ユーニスとメイナード以外の者は下がらせて欲しいのですけれど」
「な……!」
ラリー様の返事の前に、スザンナが強く反応したわ。あらまぁ、主人たちが話しているのに声を上げるなんて随分と堪え性がないわね。
「シア、どうしました? ここには信用できる者しかいませんよ」
「それでも、私のことでもありますし、私が信頼出来る者にしか聞かせたくありません。ラリー様がお聞きになった上で、話してもいいと思われるのであればご自由にして頂いても構いません。ですが、まずはその内容をお話したいのです」
これは譲れないわ。私の身の安全にも関わってくるかもしれないから。
「そうか、わかった。メイナードとユーニス以外は下がれ」
「……な! そんな! ラリー様! 私はラリー様の護衛です! お側を離れるなど……」
スザンナは不自然なほどに狼狽えていた。何をそんなに慌てているのやら……まぁ、心当たりがあるから心配で仕方ないのね。だったら最初から喧嘩なんか売らなきゃいいのに。
「なんだ? そんなに慌てて。別に四六時中ついているわけじゃないだろう」
「し、しかし……」
「何だ? まさか私がシアに害されると思うのか?」
「い、いえ……そういう訳では……」
「だったら問題ないだろう? 可愛い婚約者の初めてのお願いだからな。暫く外してくれ」
ラリー様って……天然なのかしら? それともわざとなの? スザンナの慌てようを面白がっているようにも見えるわ。でも、ギルおじ様が知っているなら、ラリー様も私とスザンナ達たちのことも知っている筈。それでこの態度って……
「さて、婚約者殿、どんなお話かな?」
ああ、これは絶対に後者だわと確信しながら、ギルおじ様にお願いしようとしていた話を始めた。




