懲りない侍女たちとその上司
「そういう事なら、わしよりもラリーに頼みなさい」
お茶の席でギルおじ様にお願いことをしようとしたけれど、その願いはあっさり却下されてしまった。今はこの屋敷の主はラリー様で、私たちいずれは夫婦になるのだから頼み事はラリー様に言うべきだと言われてしまったのだ。そう言われてしまうとそれ以上何も言えなかったわ。確かにその通りだから。
それでも、おじ様は話を聞いて下さったわ。とても驚かれたけれど、一方でそういうことなら尚更ラリー様に話すようにと仰った。
仕方なく部屋に戻ってから私は、ローラにラリー様と面会したい旨を伝えた。別にユーニスに頼んでもよかったのだけれど、この侍女たちやスザンナがどう動くのか、試してみたかったのもある。
「辺境伯様にですか? どのようなご用件で?」
「あら、妻になると決まっているのに、用がないとお会いしたいと言ってはいけないのかしら?」
「し、しかし、辺境伯様はお忙しく……」
「そうなの?おかしいわねぇ……ギルおじ様はそんなことは仰っていなかったけれど……」
「……っ!」
私とラリー様が近づくのを阻止しようとしているのが見え見えだわ。
「既に婚約者なのですもの。ラリー様ももっとお互いを知り合おうと仰っていたわ」
「し、しかし……」
「私達の結婚は王命よ。歩み寄らなければ叛意ありと受け止められる可能性もあるのですもの。仕方ないでしょう?」
彼女の固い意志を感じたけれど、こう言ってしまえば彼女たちが異を唱える事など出来なかった。渋々と分かりましたと応えて出て行った。
「まだ反抗する気のようですね」
「そうね。どう出るかしらね?」
この件は既にギルおじ様からもお墨付きを頂いているから、私は遠慮するつもりはないわ。そのお願い事も私個人の希望ではなく、この辺境伯領にとってメリットがあることなのだ。ギルおじ様も大層喜んでくれたから、ラリー様も反対はされないだろう。
それから一刻程すると、今度はスザンナがやって来た。
「失礼します、お嬢様。ラリー様とお会いしたいと伺いましたが」
「ええそうよ、ラリー様からのお返事かしら?」
そうじゃないとわかっているけれど、あえてそう尋ねる。意地が悪いと思うけれど、彼女たちには自分たちの立場を理解してもらわないと。
「いえ、そうではありません」
「そう、じゃ何の用かしら?」
「……ラリー様はお忙しい方なのです。お嬢様の気まぐれで仕事の邪魔をするのはおやめください」
そう来るのね。予想通りで思わず吹き出しそうになってしまったわ。
「別に私、仕事中に会わせろなどと言っていませんわ」
「……っ! しかし!」
「それに、お忙しいと思うからこそ事前にお伺いを立てているのよ。いきなりやってきて面会を求めるような不作法な真似など、恥ずかしくて出来ませんもの」
「……な……!」
前回、突然やってきて一方的に話を始めた事を揶揄ってみたら、笑えるくらいに顔が赤くなったわ。一応自分がやった事がマナー違反だと理解はしているのね。それならもう一押し、と……
「それに……私達の結婚は国王陛下がお決めになったもの。歩み寄る姿勢を見せておかなければ、叛意ありと受け取られてしまうのよ。そうなって困るのはラリー様よ。あなたはラリー様に無用な疑いをかけたいの?」
「そ、そんな……」
「それに……お互いを知り合おうと仰ったのはラリー様ですし、そう提案されたのはギルバート様ですわ」
国王陛下の命令であり、二代の主が決めた事に異を唱えるのか? 暗にそう尋ねるとスザンナはそれに反論するだけの材料は持ち合わせていなかったらしい。ラリー様はお忙しいので! と捨て台詞にもならないようなことを言って去っていった。全く、あまりにも単純すぎてつまらないわ……もう少し手ごたえがないと暇つぶしにもならないのだけれど……
「アレクシア様、物足りないとか思っていらっしゃいませんか?」
「あら、さすがはユーニスね。さて、ラリー様は何時お会いして下さるかしらね?」
スザンナがどのような態度に出るか、私たちは楽しみにしていた。それに彼女たちの嫌がらせなんて、家族や王都の令嬢たちに比べたら可愛らしいものだから。
私がラリー様とお会い出来たのは翌日の午後だった。ビリーの話では昨日は外せない公務が入っていたけれど、今日の午前中は比較的暇だったらしい。半日の遅れはスザンナが出来る最大の抵抗だったのでしょうね。さすがに国王陛下からの謀反ありの発言と、ギルおじ様とラリー様の提案に異を唱える方法を見つけることは出来なかったらしい。たったそれだけなんて……つまらないと思いながらも、私は指定されたラリー様の私室に向かった。




