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婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です【コミカライズ】  作者: 灰銀猫
六章

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久しぶりのダンス

 気が滅入るリドリー侯爵とセービン大司教との会話の後、私達はその場に流れた重い空気から逃れるようにバルコニーに出た。肌寒いほどの冷たい空気も、彼らとの会話の後には清涼剤のようにすら感じられた。思った以上にあの二人から負のダメージを得ていたみたいだった。これまでも夜会で嫌な思いをするのは日常茶飯事だった。エリオット様の婚約者だったころの夜会は気が重いというよりも精神の修行の場のように嫌な思いに耐える場所だったけれど、ラリー様と一緒に参加するようになってからはそのようなマイナスの感情は随分減ったため、こんな気分になるのは久しぶりだな、と思った。それだけ今は恵まれているのだろう。


「アレクシア様、どうやらリドリー侯爵とセービン大司教はかなり増長しているようです」

「そう、ですね」


 あまり他人を悪く言うのを好まないリネット様だけど、さすがに今回の事は流せる話ではなかったらしい。でも、それも仕方ないだろう。公爵家の令嬢と侯爵家の後継者相手にあそこまで上から目線でものを言うなど、この貴族社会では命取りだ。リネット様の実家のマグワイヤ公爵家は王家の血を引く由緒正しい家柄で、お父上の公爵は陛下も重用されている重鎮だ。

 一方のジョシュア様の実家の侯爵家は、リドリー侯爵家よりも家格は上で歴史も長い。今は王太子殿下の側近で、将来の出世は保証されているようなものだ。ジョシュア様とリネット様は王太子殿下ご夫妻に最も近しい者として、今後大きな影響力を持つと言われている。実際、実家の力だけでなくご自身の能力や人柄、人脈を思えば、あの二人がいくら神殿の力を翳したとしても対抗するのは難しいだろうに…


「この件は王太子殿下のお耳にも入れておきましょう。そもそも一臣下がセネット家の事で物申すなど不敬極まりないというのに」

「ですが、セネット家の現状を思えば、ああ言われても仕方ありませんわ」

「それでもですわ、アレクシア様。アレクシア様のお力はリドリー侯爵令嬢に引けを取らないと私は思っておりますわ」

「そうですよ。リネットの怪我を癒されたのはアレクシア様です。リドリー侯爵令嬢は…申し訳ないが大聖女という割には人を癒したという話は殆ど出てきません。そもそも彼女が選ばれたのも、リドリー侯爵の政治力の賜物だと言われているのですから」

「そうですか」


 確かにリドリー侯爵令嬢の能力に関しては、貴族相手に治療などをするも、平民には姿すらも見せないとう噂は聞いた事がある。そのせいか平民からはあまり評判がよくないらしく、平民の間では最後まで選考に残った平民出身の聖女の方が本当の聖女で、ジョージアナ様は金で大聖女の地位を買ったのだとも言われているらしい。


「それに、こうもはっきりと敵対的な態度をとってきたのです。これは陛下に相談された方がよろしいですわ」

「私もそう思います。セネットの聖女は陛下と唯一並び立つ存在。その事をセネット家の下にいる神殿が忘れて増長しては、国の乱れにも繋がりましょう」


 リネット様とジョシュア様の忠告は有難いけれど…そこまで大きな話にしていいのか、私はまだ迷っていた。実際、セネット家は常に聖女が現れるわけではないから、神殿の上に立つというのに違和感があるのだ。


「シア!すまない、待たせた!」


 そろそろ会場に戻ろうかと思ったところで、ラリー様が呼ぶ声がした。会場からまっすぐこちらに向かってくるのはラリー様で、先ほどまで一緒にいたマッドレル侯爵の姿はないから、話は終わったのだろうか。


「ヘーゼルダイン様」

「ああ、マグワイヤ侯爵令嬢、リード侯爵令息も、ありがとう」

「いえ、その事はいいのですが。実は…」


 そう言ってジョシュア様はラリー様に、先ほどのリドリー侯爵とセービン大司教との会話を話してくれた。話が進むたびにラリー様の笑顔が引き攣っているというか、段々目が座っていくように感じられた。


「そうか、あのお二人が、ね」


 最後にそう言ったラリー様は、笑顔だけど全く笑っていないのがちょっと怖かった。この顔はあれだわ、いつだったか私が暴言を吐かれた事を黙っていた時、話してくれなかったからとお仕置きされた時の表情にそっくりだ。という事は、相当お怒りなのだろうけど…今夜の事で私に怒りを向けたりなんか…しないわよね?


「彼らの事は私に任せて。マグワイヤ侯爵令嬢とリード侯爵令息は、これからもシアの良き友人でいて頂けると嬉しい」

「当然ですわ、アレクシア様は私の恩人ですもの」

「そうです。リネットの恩人は私の恩人でもありますからね」


 はっきりそう言い切ってくれる二人に、私は心が温かくなるのを感じた。家族からは与えられなかったけれど、今はお二人だけでなくラリー様やユーニス、ギルお義父様達が私を大切に思ってくれるのだ。


「さ、シア。せっかくだから夜会を楽しもう」

「え?ええ」


 急にそう言いだしたラリー様に私は面食らった。しかも、いきなり私の前に跪いて私の手を取った。


「我が最愛のシア、どうか私とダンスを踊って頂けませんか?」


 蕩ける様な甘い笑みを浮かべたラリー様がそう言うと、周りにいたご令嬢たちの黄色い声が聞こえた。ラリー様はどこに行っても注目を浴びているのだと実感してしまう。


「わ、私でよければ」

「シア以外にダンスを申し込みたいと思う人はいないよ」


 ラリー様、判って言っていませんか?そう思いながらも、私は心が浮き立つのを感じた。エリオット様とはこんな風にダンスを申し込まれた事など一度もないし、そもそも踊ったのも三回だけで、それも義務感からのもので、楽しいとか嬉しいなんて思った事はなかった。




「ふふ、みんながシアを見ているよ」


 ダンスを踊りながら、ラリー様が悪戯っぽい笑顔を浮かべてそう言った。そう言えばこんな風にダンスを踊るのは久しぶりな気がする。前回のリネット様の婚約披露パーティーでは、ガードナー侯爵令嬢たちに捕まってタイミングを逃してしまっていたから。


「まさか。皆さん、ラリー様を見ているのですわ」

「そんな事はないよ。シアの愛らしさに目を奪われているんだよ。シアは自分の魅力に無頓着すぎるよ」


 諭すようにそう言われたけれど、さすがにその言葉を信じる事は出来そうになかった。ふわりとターンをすると、ちょうどガードナー公爵令嬢の姿が見えた。黒に近い紺色の衣装の父親と、晴れた日の青空のような色のドレスの令嬢ではちぐはぐにしか見えなかった。口を引き結んで私達を見つめる心中は伺い知れないが、全く相手にされていないのにここまで執着する理由は何だろうと不思議に思う。未亡人とは言え他国の王子の妻だったのだ。彼女の立場からすれば、それなりの再婚話もあるだろうに。


「シア、よそ見しないで私だけを見て?」

「ラリー様…」


 耳元で急にそう囁かれて、鼓動が跳ねた。全く、私の夫は自分が人目を引くとわかっていて、こうして見せつけるような事をするのだ。またリネット様達に揶揄われるから、恥ずかしいからやめて欲しいのに。





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