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婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です【コミカライズ】  作者: 灰銀猫
六章

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神殿とセネット家の関係

「これはリドリー侯爵、ごきげんよう」


 声をかけられたからには無視する事も出来ず、私は平静を装いながら侯爵に挨拶をした。よく見れば侯爵の後ろには、神官の服装をしたスキンヘッドの初老の男性が佇んでいた。侯爵家の夜会に出席できる神官となれば、かなり高位ではないだろうか。


「ああ、こちらはセービン大司教閣下です。セネット侯爵は初めてですかな?」

「え、ええ。そうですわね、お会いするのは初めてですわ」


 セービン大司教は名前だけは知っていたけれど、会うのは初めてだった。彼は神殿を統括する立場で、神殿の聖女のいわばまとめ役でもあり、メアリー様を利用して彼女よりも身分が上の女性を聖女に押したのも彼だったと聞く。ジョージアナ様が選ばれた時も、平民で力のある女性がいたらしいが、聖女に選ばれたのはジョージアナ様だったとも。そういう意味ではあまり神官らしからぬ人物だとも言われている。実際、目の前の彼は尊大な態度を隠そうともしないけれど…彼には聖女の力はないし、ああも威張れるのが不思議ですらある。


「これはセネット侯爵、初めまして。セービンです」

「初めまして。セネット家の当主のアレクシアです」


 一応こちらの方が身分も立場も上なのだけれど…そうは思うけれど年齢はあちらが上なので、当り障りなく挨拶をした。一緒にいるのがジョシュア様とリネット様なので、若い者だと下に見ているのが透けて見えた。これってラリー様がいないタイミングを狙って声をかけてきたのかしら?


「貴女がセネット家の当主か」

「ええ、そうですわね」

「青みのある銀髪と紫の瞳が聖女の証というが…神殿から認められていない者が聖女を名乗るとは不遜ではありませんかな?」


 どうやら噂通り、セービン司教はセネット家とセネットの聖女を快く思っていないらしい。まぁ、神殿の上に立ち、国王と対等の地位にいるのに神殿には介入しないのだから、あちらからすると何だと思うのかもしれないけれど…


「不遜と言われましても…」

「しかも両親と妹は王家に仇成した犯罪者。そのような者が聖女を名乗るなど、何とも嘆かわしい事だ。聖女の末裔と言っても遥か昔の話。それを未だに後生大事にしがみ付くとなど、神への冒涜ですな」


 両親や妹の事を言われるのは覚悟していたけれど、まさか神を冒涜していると言われるとは思わなかった。セネットの聖女も神殿の聖女も、その力は神からの授かり物だと言われているから、そのような声がある事は知っていたけれど、こうもはっきり言われるとは思わず、私は返す言葉が直ぐには出てこなかった。


「全く、聖女の力もない者がセネット家の生まれだというだけで聖女と名乗るなど。これは大聖女や神殿への侮辱ではありませんか?」

「セービン卿、さすがに言い過ぎではございませんか?セネット侯爵はまだお若い。子供故に道理を弁えないのは仕方ありませんよ」

「そうは言うが、それではいつまで経っても神殿は張りぼての下で耐え忍ばねばならないのです。これも神の試練と言われれば致し方ないが、しかし、このような子供が…」


 セービン大司教は私とセネット家を快く思われていないのは明らかだった。確かにセネット家は常に聖女の力を持つ者が生まれるわけではない。セネット家の血を引く青みのある銀髪と紫の瞳を持つ女性が絶対条件だけど、力の強さは人それぞれだ。最近では祖母に力があったけれど、その力はあまり強くなかったし、陛下の話では紫蛍石を光らせるほどの力を持つ聖女はここ百年ほど現れていないと聞く。そして私が初代聖女と同等の力を持つことはまだ知られていない。


「私は思うのですよ、聖女の名を頂くのはセネット家である必要はないと。それは聖女を輩出した家にこそ相応しいと。そう思いませんかな、リドリー侯爵?」

「そのような恐れ多い事、私ごときが決められませんよ、大司教様」

「そうか、今の大聖女は貴殿の子女のジョージアナ嬢だ。セネット家よりずっと聖女の名を頂くに相応しいと思いますがな」

「大司教様のお言葉、勿体なく存じます」


 二人がセネット家から聖女の名を外したいとの噂を聞いてはいたけれど、こうもはっきりと言われるとは思わず、またも何と答えていいのかわからなかった。悪意には昔から慣れているけれど、セネット家に関しては私の一存で決められる事ではないし、そもそもそうと決めたのは初代国王であり、それを続けたのは王家なのだ。


「セネット侯爵も、分別があるなら潔く聖女の名を返上されることだ。少なくとも神殿はセネット家の聖女など認めていないのですからな」

「聖女の名は王家のご意志で、そこに我が家の意志が入る余地はございません。意義がおありでしたら陛下に奏上なさって下さい」

「な…」

「…何とまぁ、驕慢な。聖女の力もない者が聖女の名に縋り付いて情けない事だ」


 どうやら彼らは私に聖女の力がないと思っているらしい。一年前の夜会でラリー様がはっきりエリオット様達にそう告げたけれど、王都で私が力を使う事はなかった。それは私の身を案じたラリー様や陛下達が内々にしてくれていたからだけど…


「な…!いくら大司教様と言えど言い過ぎではありませんか?」

「そうですわ。セネット家は建国以来の名家。それにご両親や妹君の件はアレクシア様も被害者。非がない事は陛下もお認めになっていらっしゃいます」

「…ふん、何も知らない子供が生意気な」

「そうですぞ、いくら高位貴族の子女とは言え、まだ爵位も継いでいない身で大人に意見するなど…分を弁えるべきですな」

「全く、前セネット侯爵の教育が伺えますな」


 私を庇って下さったジョシュア様とリネット様に、大司教だけでなくリドリー侯爵まで苦々しい表情で睨みつけてきた。私のせいで彼らの立場が悪くなるのは申し訳なく、私は彼らに視線を送ってこれ以上は…と伝えると、彼らは私の意を汲んでそれ以上は何も言わずにいてくれたけれど、その表情は納得できないと思っているのは明らかで、私はこんな時なのに私の事を庇ってくれた彼らに心が温かくなるのを感じた。そうしている間に彼らはさっさと私達から離れて行き、暫くしてガードナー公爵達と話をしていた。


「どうやら神殿はセネット家を引きずり落としたいようですね」

「噂だと思っておりましたが…」

「アレクシア様、ご注意下さいませ。今回の事、辺境伯様にご相談なさった方がよろしいですわ」

「ええ、そうね…」


 リドリー侯爵や大司教の噂は聞いていたけれど、こうもはっきりと敵意を向けられるとは思わなかっただけに、私は胃に冷たい小石が積もるような錯覚に襲われた。ヘーゼルダインでの楽しい日々のお陰で、最近は両親やメイベルの事を思い出すことも滅多になかっただけに、こんな形で今の私に影響するのも想定外だった。あの両親と妹の呪縛から逃れられたと思っていただけに、私は何か得体の知れない者に足を掴まれてゆっくり引きずり込まれる感覚を覚えて手身震いした。




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