元婚約者の元側近
リネット様の言う懐かしい人とは、エリオット様の側近の一人だったフランク=ギレット伯爵令息だった。私達の一年上で幼い頃からエリオット様の側近を勤めていたが、婚約破棄される少し前に家の事情から側近を辞していた。温和で穏やかな気質の方で、エリオット様に蔑ろにされていた私を庇って下さった方だ。
「お久しぶりです、アレクシア様。っと、今はヘーゼルダイン辺境伯夫人でいらっしゃいましたね」
「ええ、お久しぶりです、フランク様。ご無沙汰しておりました」
以前と変わらない、穏やかで優しい笑顔に私は安堵を感じた。エリオット様の婚約者だった時、理不尽な事をされる度にエリオット様を諫め、困っている私に手を貸して下さった方だった。
「その節は大変お世話になりました。なのに、急に王都を離れてしまって…ご挨拶も出来ずに申し訳ございませんでした」
「いえ、あれは仕方ありませんよ。急な婚約破棄と王命での婚姻だったのですから」
「そう言って頂けると助かります」
相変わらず気遣い上手な方だ。不義理をした事は申しわけないが、でも今はラリー様の妻なので、必要以上に接触するのもよくないのが残念だ。その辺を面白おかしく噂する貴族が後を絶たないからだ。
「それにしても、随分とお綺麗になられましたね」
「そ、そうでしょうか?」
「そうですわよ、アレクシア様。以前と比べても髪も肌も艶が出て別人のようですわよ」
「ええ。あの頃はご苦労も多かったのでしょう、いつもお疲れの表情でしたし」
「そう、でしたね…」
うう、あの頃は確かに痩せて地味だと言われていた。まぁ、それは今のあまり変わりないとは思うけれど…
「本当に…ずっと…いつかお力になりたいと思っていたのです」
「ありがとうございます。そのお気持ちだけで十分ですわ」
そんな風に気にして下さっていたとは思わなかった。多くの人はエリオット様に同情的で、私は出来損ないの婚約者と言われていたからだ。
「アレクシア様は…今は…お幸せですか?」
「え?ええ」
「…そうですか。よかった」
急にそんな風に聞かれるとは思わず、驚いてそんな風にしか答えられなかったけれど…何だかフランク様の笑顔が寂しげに見えた気がした。そう言えばフランク様はまだ婚約者がいらっしゃらなかった筈。お父君は副宰相だし、伯爵家の跡取りだから条件としては悪くないと思うのだけど…
そうは思うけれど、そのような込み入った事を聞くのはマナー違反なので、私はそれ以上の事を口にする事はなかった。
「シア!」
「ラリー様」
そうしている間にも、お二方とのお話を終えたのか、ラリー様がやって来た。相変わらず女性達のラリー様に送る視線が熱い気がする…
「お話は終わったのですか?」
「ああ、すまないね。一人にして」
「それは大丈夫ですわ。リネット様達がいらっしゃいましたから」
そう言ってリネット様とフランク様に視線を向けると、ラリー様は彼らに笑みを浮かべて視線を向けた。
「やぁ、久しいね、マグワイヤ嬢。それから…」
「学園時代の先輩で、エリオット様の側近だったフランク=ギレット伯爵令息様です。エリオット様の婚約者だった頃には色々お世話になりましたの」
「ああ、ギレット伯爵のご子息か」
「ご存じですの?」
「ギレット伯爵はね。仕事の関係でやり取りをする事もあったからね」
「そうでしたか」
なるほど、ラリー様はヘーゼルダインの当主としてよく王都に書類を出していたけれど、それは宰相府宛もあったのを思い出した。となれば、確かに宰相補佐のギレット伯爵と付き合いがあってもおかしくはない。
「始めましてかな、ローレンス=ヘーゼルダインだ。お父君にはお世話になっている」
「こ、こちらこそ初めてお目通り致します。ギレット伯爵家のフランクです」
う~ん、こうして並ぶとやっぱりラリー様は大人の男性という感じだ。フランク様も学園時代は年上だし、子どもっぽいエリオット様と比べると大人っぽいと思ったものだけど…本物の大人とは違うのだと感じた。
「シア、姉上が探していたよ。少しいいかい?」
「ナタリア様がですか?ええ、是非」
「それじゃ、失礼するよ。マグワイヤ嬢、次は婚約披露パーティーでお会いしよう」
「はい、お待ち申し上げております」
「失礼します」
それから私は、ラリー様に連れられてナタリア様の元に挨拶に伺った。王国の花と謳われたナタリア様だけど、結婚しても男性に熱い視線を受けていらっしゃるのは変わらない。それでもご本人は夫でもあるモーズリー公爵と仲が良く、付け入るスキが全くないと言われている。
「アレクシア嬢。お久しぶりね」
「ナタリア様も元気そうで何よりです」
「ラリーが迷惑をかけていないかしら?この子、意外に抜けているところがあるから」
「…姉上…」
ナタリア様の容赦ない言い様に、ラリー様が渋い表情になった。ナタリア様、見た目は楚々として大人しそうに見えるのだけど、実は豪快で歯に衣着せぬ物言いをされるのだ。そしてその矛先にラリー様がいる事が多いのは、姉弟の関係だからだろうか…
「アレクシア様は暫く王都にいらっしゃるのですよね?」
「え?ええ、その予定です」
「そう…でしたら是非我が家にいらしてくださいな。ゆっくりお話もしたいし」
「ええ、是非」
最近は殆ど交流がなかったナタリア様からのお誘いに、私は二つ返事でそのお誘いをお受けした。




