懐かしい顔
急に真面目に話を聞いて欲しいとラリー様に言われた私は、何事かと思って身構えてしまった。だって、夜会で急に真剣な表情になられたら、そう思っても仕方がないと思う。私は座り直してラリー様の言葉を待った。
「シア、貴女は気付いていないかもしれないけれど、貴女を狙っている男は貴女が思う以上に多いんだよ」
「ま、まさか…」
何の話かと思って構えていた私だったけれど、話の内容が思った者とは違っていたのもあって、私は拍子抜けしてしまった。いやいや、私に興味を持つ男性なんて居ませんから。
「あの、ラリー様?私、エリオット様の婚約者だった頃には、地味だの華がないだのと散々言われていたんですよ?だからそんな風に思う男性なんて…」
「その頃と今のシアは違うよ」
「まさか、そんなに変わりは…」
「いいや、以前は確かに痩せて肌や髪の艶もなくて地味だったかもしれないが。今は違う。肌も髪も艶を帯びて、ふっくらした頬も愛らしいし、身体つきも随分と女性らしくなった。それに、私の妻になってからは以前とは違う色香も漂うようになった。あの頃のシアとは全く違うよ」
「え…っと、あの…」
な、何を言い出すんですか、ラリー様!言われた事の内容が恥ずかしくて、顔から火が出そうだった。そりゃあ、あの頃よりは太ったし、髪や肌も綺麗にはなったけれど…でも、顔の造詣は変わっていないし、華がないのは変わらないと思う。
「正直に言うと、私は王都に来るのはあまり気が進まなかったんだ」
「え?」
「だって、こんなにも愛らしいシアを連れて来ては、変な虫が寄ってくるだろう?それでなくても領地の披露パーティーでは、シアの事を熱心に見ている男どもがいたんだ」
「ええ?そんな筈は…」
「シアは自分の魅力に無頓着すぎる。それでなくても侯爵家当主で聖女の力もあるんだ。そんな貴女に取り入ろうと近づいてくる男はいくらでもいるんだよ」
「そ、それは…」
「シアがそんなにも無防備では、私がいくらけん制してもきりがないよ」
何と言うか、誰の事を言っているのかと思ってしまう自分がいた。いや、それはむしろラリー様の方じゃない?とも。私だって王都に来たらラリー様に女性が言い寄るんじゃないかと心配していたのだから。
「とにかく、シアも十分に気を付けて。私は嫉妬深いからね。変な虫が付いたら直ぐに排除してしまうよ」
「な…」
耳元でそんな事を囁かれてしまった私は硬直してしまった。それは閨でのラリー様の囁きと同じだったからだ。そんな事を思い出させるような事はやめて欲しい…それでなくてもこの手の事は得意じゃないのだから。
ソファで休んだ私達だったけれど、さすがにずっとそこにいる訳にもいかない。今日は主役のようなものだからと、会場に戻った。相変わらずラリー様は私の腰に手をまわしているけど…こんなにくっ付きたがる人だっただろうか?大切に思って下さるのは嬉しいのだけど、恥ずかしさの方がどうしても先に立ってしまう。
「これはローレンス様。どこに隠れていらっしゃったんですか?」
「そうです、お探ししましたぞ」
そう声をかけてきたのは…副宰相のマッドレル様と近衛騎士団長のバイアット様だった。このお二人は王都にいらした時からラリー様と仲良くされていた方で、年も近く、今でも親しく交流されていると聞く。ラリー様曰く、悪友との事だった。
「セネット侯爵アレクシア様、ご無沙汰しております」
「ご結婚されて益々お美しくなられましたな」
「本当に。ローレンス様が心配なさるのも仕方ないですな
「…お二方とも、ご無沙汰しております」
褒められるのは嬉しいけれど、褒め過ぎじゃないだろうか…社交辞令だとはわかっていても面映ゆい気分だった。仲のいい三人はあっという間に会話に夢中になってしまったけれど、ラリー様が離して下さらないので笑みを浮かべて会話を聞いていた。
ふと、視線を感じてそちらの方を向くと、仲のいいリネット様を見つけた。私に声を掛けようとしているも、お二人がいらっしゃるのでタイミングを計っているのだろう。
「ラリー様、ちょっと…」
ラリー様の袖を引くとラリー様がこちらを見たので、ふとリネット様に視線を向けた。それだけでラリー様はわかって下さったらしく、腰に回していた腕を離して下さった。
「シア、あまり離れないでね」
「わかりましたわ。マッドレル様、バイアット様、友人が呼んでいるので失礼してもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ、マグワイヤ公爵令嬢か。そう言えば仲がよろしかったな」
「ええ、学園時代からのお友達です」
「そうですか、それは積もる話もありましょう」
「ありがとうございます。失礼します」
さすがに目上の人に無言で離れるわけにはいかないので、挨拶をしてからその場を辞した。
「リネット様、ごきげんよう」
「アレクシア様、おめでとうございます」
ついこの間会ったばかりだけど、リネット様はお元気そうだった。もう直ぐ婚約披露のパーティーがあり、それに私達も招待されていた。
「そうそう、アレクシア様、お懐かしい方がいらっしゃっていますわよ」
そう言ってリネット様が連れてった先にいた人物に、私は確かに懐かしさを感じた。
「フランク先輩…」
「やぁ、アレクシア様じゃありませんか。お久しぶりでごさいます」
そこにいたのはエリオット様の元側近で、私達の一学年先輩でもあったフランク=ギレット様だった。




