結婚披露の夜会
ユーニスとロバートの結婚の件が片付き、そこから陛下主催の夜会まではあっという間に過ぎた。その間にロバートはラリー様が陛下とお会いする際に同行し、非公式ながらも陛下と顔合わせをして、直々にユーニスを頼むと言葉を賜ったと言う。その席には王妃様もいらっしゃって、ユーニスを泣かせたら全力で潰しますからと、これまた脅迫とも取れる言葉で一応認められたらしい。
王妃様はご自身の侍女にとの思いがまだあるからだろう、とラリー様は言っていたけど…ロバートも大変だと思う。夫婦喧嘩して王妃様に愚痴を言ったらロバートの命はないかもしれない…と、王都の家令のイザートは震えあがっていた。冗談で流しておきたいところだ。
夜会の日、私は数日前から磨き上げられ、当日も早くから準備に追われた。今回は秋の夜会以降に結婚した貴族のお披露目も兼ねているが、基本的に秋以降に結婚する貴族は少ない。今回、確認したところ、陛下から紹介されるのは私たちだけだと言う。
また変な意味で目立ってしまうのだけど…ラリー様は私達の仲のいいところを見せつける格好の機会だとご機嫌だった。私としてはラリー様に女性が群がってこないかが心配でしょうがないのだけど…ラリー様はそんな相手はいないと言っているし、それを信じるしかない。過去の事はもう関係ない筈だ。
この日のドレスは、光沢のある銀色の生地をベースに、上半身を中心に金糸で豪奢な刺繍が施され、差し色も金色だった。既婚者らしくスカートの広がりは抑えてあるが、露出は控えめだ。これはラリー様の意向もあるし、聖女としての私の立場も関係しているのだろう。
一方のラリー様も同じで、銀の生地をベースに、金色を差し色にした衣装だった。一見地味に見えるんだけど…ラリー様がお召しになるとそうは思えないのだから不思議だ。
今までは青をベースにしたドレスばかりだったので、今回のドレスは新鮮だった。それでもアクセサリーは結婚式で使った青透石のものにした。ヘイローズもそれを頭に今回のドレスを考えていたので、ドレスにもぴったりだった。
「ああ、シア、綺麗に仕上がったね」
「ラリー様も…とてもお似合いです」
うん、ラリー様は何を着てもお似合いよね。やっぱり顔とその素晴らしく整ったお身体のせいだろう。背が高いだけでなく鍛えているし、お年を召して威厳も増しているだけにかっこよさが際立っている。隣に立つのを遠慮したくなるのは許して欲しいと思う。
「はぁ…シアに悪い虫が付かないか心配で仕方ないよ」
深くため息を付きながらそう言うラリー様だったけれど、それは私のセリフだ。ラリー様こそ女性にモテモテなのだから、どこから変な虫が出て来るか…私にはそっちの方が心配で仕方なかった。
今年最初の夜会は、今年も大盛況だった。これまでもエリオット様の婚約者として参加していたから怖気づく事はないのだけど、今日は自分が主役だったりするので面映ゆい。それでも、ラリー様と正式に夫婦になったと認められると思うと、それはそれで嬉しさが勝った。
前に王都の夜会に出た時は、結婚なんて望んでいなかったし、白い結婚でいいと思っていただけに、人生どこでどう変わるかわからないものだな、と思う。ラリー様の態度も別人のような変わりようだし。こんなに甘ったるい事を平気で言う人だとは思わなかった。
「ヘーゼルダイン辺境伯、ご結婚おめでとうございます」
「これでギルバート殿もご安心されるでしょう」
「後はお世継ぎが生まれれば万事安泰ですな」
陛下に紹介された私達は、あっという間に貴族たちに囲まれてしまった。陛下が先日、領内で行った結婚披露パーティーに出席されたものだから、陛下とラリー様の仲の良さがはっきりして、余計にすり寄ってくる人が増えたのだろう。
一部では陛下がラリー様の才能に嫉妬して辺境に追いやった、なんて噂する貴族もいただけに、今回の訪問の意味は大きかったと思う。エリオット様もそんな事を言っていたから尚更だ。
でも実際には兄弟仲は良好だし、陛下はヘーゼルダインの状況にも強く関心を持っていると認知されたから、ラリー様に気に入られようとする貴族が一層増えたような気がした。
「疲れたかい、シア?」
「いえ、これくらいなら大丈夫です」
そうは言っても、夜会というものは何かと疲れるものだ。ラリー様は私をエスコートしてバルコニーにある席まで移動すると、近くにいた給仕に飲み物を頼んだ。確かに挨拶しっ放しで喉が渇いていたから、ラリー様の気遣いが有難かった。バルコニーの二人掛けのソファに腰を下ろすと、脚が思った以上につかれているのを感じた。
「さすがに今日は目立ってしまったな」
「そうですね。他に陛下から紹介される貴族もいらっしゃいませんでしたし」
「でも、シアとの仲を見せつけるには絶好の機会だよ」
にっこりと笑顔を浮かべながらラリー様は、一層私に密着してきたのでびっくりした。人がいるからやめて欲しいのだけど…
「ラリー様、ひ、人前ですよ」
「だからやっているんだよ」
にこにこしながらそう答えたラリー様だけど、何か企んでいるようにしか見えないのは私の気のせいだろうか…幸いここまで来る貴族は少ないけれど、それでも席が空いていると思ってやってくる人はそれなりにいるのに…
「こうしておけば、私達の間に入り込もうなどと馬鹿な事を考える者達をけん制できるだろう?」
「そ、それは…ラリー様さえ気を付けて下さったら…」
「何を言っているんだい?シアにだって悪い虫が付くかもしれないだろう?こんなに愛らしいのに」
「わ、私に言い寄る人なんかいないから大丈夫です」
「……」
私がそう言うと、ラリー様は一瞬私をまじまじと見て、ため息を付いた。そのリアクションはどういう意味だろうか。
「シア、真面目に聞いて欲しいのだが」
「え、っと、何でしょう?」
急に表情を改めたラリー様の様子が只ならぬような気がして、私は思わず居住まいを正した。




