ユーニスの結婚に向けて
ロイとローズの出発を見送った翌日、私達も王都に向けて出発する予定だったが、その日の晩、私はラリー様と共にお義父様に呼ばれた。明日からはお義父様に留守をお願いするからその話かと思ったのだけど…部屋に行ってみると、そこにいるのはロバートとユーニスだった。そう言えばユーニスの姿が見えないと思っていたけれど…ここにいたのね。
「義父上、どうされましたか?」
「おお、ラリー、すまんな、出立前の忙しい時に」
「いえ、それは構いませんが、一体」
どうやらラリー様も、この場にロバートとユーニスがいるのが気になったらしい。まぁ、それもそうだろう、この二人がお義父様の元にいるなんて、その理由は私も気になったのだから。
「まぁ、座ってくれ」
そう言って私達に席を勧めたお義父様は、私達を呼んだ理由を話してくれた。
「ロバートを…養子にですか…」
「ああ。ユーニスと恋仲になったはいいが…継ぐ爵位もない男爵家の三男と伯爵家のユーニスでは、さすがにトイ家が黙っていないだろうからな」
「それは確かに…」
それはお義父様の言う通りだった。ユーニスの実家は没落しかけているとはいえ伯爵家だ。そんな彼女は王妃様のお気に入りで、高位貴族の令息から求婚された事もある。そんな彼女の相手が辺境伯家の分家の三男では、実家が黙っていないだろう。ユーニスは実家とは疎遠だが、勘当はされていない以上、まだトイ伯爵の庇護下にいるのだ。
「それで…どの家の養子にするおつもりですか?」
「テイラー子爵家だ」
「テイラー子爵と言えば、あの?」
「ああ、あの子爵家だ」
何だかお義父様とラリー様の含みのある言い方に、私は首をかしげるしかなかった。テイラー子爵家と言われてもピンとこなかったからだ。聞いた事がないと言う事は、ヘーゼルダインの分家の一つだろうか。王宮に出入りしていた子爵家なら、ほぼ把握していたもの。
「あの…そのテイラー子爵家とは?」
「ああ、シアは知らないだろうね。テイラー子爵家はヘーゼルダインの筆頭子爵家なんだ」
「筆頭子爵家…」
「そう、ヘーゼルダインのまとめ役と言うべきかな。辺境伯家の下につく子爵・男爵家の中でも一番辺境伯家に近い家だよ」
「そうでしたか」
なるほど、分家の中でも一番お義父様と血が近い家なのね。伯爵家以上は大抵分家を持っているし、分家は本家を支え、時には血を繋ぐために養子として本家を継ぐ事もある。本家の血を繋ぐための存在なのだ。
「テイラー子爵には子がいたが、数年前の戦闘で跡継ぎを亡くしていてな。誰かを養子に…との話が以前から持ち上がっていたのだが…ラリーが当主になったため、分家の血を繋ぐ意味合いも薄れたからと、当主が亡くなったら廃爵の予定だったんだ」
「そうでしたか」
「ロバートから、ユーニスとの結婚の相談を受けていたんじゃが…トイ伯爵も中々頭が固い御仁だからな。せめて爵位だけでもと言っても、辺境伯の側近では子爵が精一杯じゃ。じゃが、ないよりはマシじゃろう?元々ロバートは男爵家の出じゃ。それを思えば破格の出世と言えよう」
確かにお義父様の言う通りだと思う。トイ伯爵はユーニスには悪いけど、あまり賢い御方とは言えなかった。投資に失敗して多額の負債を抱え、家を傾けたのはユーニスの父だ。一時はユーニスを高位貴族に嫁がせて支援を狙っていたけれど…それをユーニスが断ったせいで喧嘩になり、今は疎遠というか絶縁の一歩手前なのだ。
でも…貴族が結婚するからには、当主の了解が必要なのよね。辺境だからなし崩し的にそうしても問題はないだろうけど…それではユーニスの名誉が守れない。ロバートはユーニスを大切に思っているから、正式な手続きに拘るだろうし…
「それで…テイラー子爵は何と仰っているのです?」
「あちらはロバートなら是非にと言ってくれているよ。彼もロバートの有能さはよく知っているから。なんせ騎士団で彼を育てたのは彼だからな」
「そうですか。それなら…」
「ああ。既に手続きのための書類は揃っているんだ。後は陛下にお認め頂ければ問題ない」
「そうですか」
陛下に関しても、問題はないだろう。ラリー様がお願いすれば問題なく裁可頂けそうだし、そもそも公侯伯の分家に関して力があるのは領主たる公侯伯爵家の当主で、王家は裁可するだけなのだけど。
「王都に着いたらまず陛下に書類を出してお認め頂く。それからトイ家に使いを出すつもりだ。」
「それはいいですわね。それに…」
「シア、まだ他に何か?」
「ええ、念のためなのですけれど…」
そう前置きして、私は私の考えをみんなに話した。それはトイ伯爵を説得するのにも有効だと思うのだけど…
「なるほど、そう言う事なら重ねて陛下にお願いしておこう」
私のために辺境にまで一緒に来てくれたユーニスのためにも、私は一肌でも二肌でも脱ぎたかったのだ。そしてそれは、ユーニスとこれからもずっと一緒にいるためには必要な事だった。今のユーニスは、トイ伯爵が結婚しろと命じたら拒否できない立場なのだから。
こうして翌朝、私達は王都に向けてヘーゼルダインを発った。今回もお義父様が当主代理となり、レックスやリトラー、ミーガンがその補佐役に回る事になった。
同行したのはロバートとユーニス、そして護衛として辺境騎士団の一団が同行する事になった。今回は往復だけでも一月、滞在期間を含めると三か月程度の長丁場の予定で、これだけの期間ラリー様が領地を離れるのは、領主になって初めての事だった




