想定外の客人
「兄上…どうしてここに…」
パーティーが始まり、ラリー様が招待客に挨拶をした後、私達は真っ先に陛下に元に向かった。それもそうだろう、そもそもいらっしゃっているならそうと事前に知らせて欲しかった。一体どこにお泊りになっているのか…ラリー様が知らなかったのだから、そこからして謎だ。国王たる御方が、軽々しく出歩くなど前代未聞だろうに。
「そりゃあ、ラリーの結婚式だからな。出ない選択肢はないだろう?」
「ですが…直ぐに王都の夜会でお会い出来るでしょうに」
「それはそれだ。私が見たかったのは、ここにいるラリーの素の姿だったからな」
「…だからと言って、軽く来られる距離離でもないでしょう…」
「そこは心配無用だ。王妃も王太子も王都にいるからな。あいつにはそろそろ国王代行をやって慣れて貰わねばならん」
「よく王妃様がお許しになりましたね…」
「ヘーゼルダインの視察も兼ねてと言えば快く送り出してくれたぞ」
「……」
どうやらこの来訪は視察の名目もあり、王妃様もお認めになっているらしい。まぁ、王太子殿下もお世継ぎのお子が生まれて、王太子としての地位も盤石だし、能力的にも申し分なくいらっしゃる。国王代行を務めても問題はないだろう。
そう言えば陛下は、王太子の頃はよくお忍びで市井に下りていたと聞いた気がする。となると…これはその延長なのかもしれない…視察とは仰っているが、こちらには事前連絡もないとなれば尚更だ。
「それに、ギルバートには連絡しておいたぞ」
「義父上…」
「ああ、すまんなラリー」
お義父様が苦笑しているところを見ると、こちらへの連絡も直前だったのかもしれない。それにしても…お二人は相変わらず仲がよろしいみたいだ。お義父様は陛下の剣の指導をされた事もあると聞くし、師とも兄とも慕っていらっしゃったらしいけど。滞在先もお義父様が手配したそうなので、警備の面でも問題はなさそうなのだけは一安心だった。今日はお義父様が陛下の案内役を務めるという。
それからは陛下御臨席の元でのパーティーとなり、格式が数段上がってしまった。それに慌てたのは侍女たちだったけれど…幸いにもマナー講座を受けた事で問題なく過ごしていた。
陛下のお世話は、急遽ユーニスが取り仕切る事になって事なきを得た。王妃様の侍女をしていたから陛下とも顔見知りだし、私的な時間も過ごしていたから陛下のお好みなども知っているから心強い。私もラリー様も招待客の相手に忙しくて陛下の側に控える事も出来なかっただけに、お義父様とユーニスの存在は有難かったのは言うまでもない。
「ラリー、アレクシア様も、ご成婚おめでとうございます」
そう言って声をかけてきたのは、ラリー様の姉上のナタリア様だった。婚約披露のパーティーにも来て頂いたけれど、あの時はスザンナの無礼を断罪して下さったお陰で、私の周辺も随分と平和になったのだ。
「姉上、ありがとう」
「ありがとうございます、ナタリア様」
「ふふ、仲睦まじいようで安心したわ。アレクシア様、こんな弟ですけれどお見捨てにならないでね」
「は、はい」
「姉上…どういう意味ですか、それは。酷い言われようですね…」
ナタリア様の言葉にラリー様が苦笑しているが、このお二人は大抵こんな感じよね。楚々とした見た目に反して豪胆なナタリア様に、ラリー様は頭が上がらないのだ。
「婚約パーティーの様子を思えば心配するしかないでしょう?しかも式が延期になったのだから尚更よ。なのに、あなたったら連絡一つ寄こさないんだし」
「それは…色々立て込んでいましたから」
「そうは言っても、手紙くらい出せたでしょう」
「…ご尤もです…」
結局ナタリア様には勝てないラリー様だった。
「それにしても、狼も女狐も虎視眈々とあなた達を狙っているわ。気を付けなさいね」
「心得ていますよ、姉上」
「ならいいけど。アレクシア様をしっかりお守りするのよ」
「当然です。狼なんぞ寄せ付けませんよ」
「…危険なのは狼よりも女狐よ」
「…なるほど」
「特に返り咲きの薔薇にはね」
「…そうですか」
お二人の会話に入っていけず、私は聞いているしかなかったけれど、女狐とか薔薇と言うからには女性なのだろう。ラリー様は問題になる女性はいないと仰っていたけれど…
「アレクシア様もどうかお気をつけて。でも、貴女はラリーの正妻でセネット家当主。爵位を持たない者に臆する必要はありませんからね」
「は、はい」
話が見えないけれど、詳しい事は後でラリー様に聞くしかないだろう。そう思いながら他の貴族に挨拶に回った。さすがに陛下やナタリア様がいらっしゃっているのもあってか、失礼な態度をとる者はいなかったけれど、ラリー様に熱い視線を向ける貴婦人や令嬢はやっぱりいて、ラリー様の人気の高さを改めて実感した。
それ以外でも、私に話しかけてくる者が以前よりも多かったのは意外だった。これはエリオット様や実家の事の事もあるだろうし、世辞も入っているだろう。
「ローレンス様、お久しぶりですわね」
挨拶もほぼ終え、飲み物でも…と移動し始めた私達は、ラリー様を呼ぶ声に足を止めた。そこにいたのは、楚々とした容姿と女性らしいなよやかな身体つきをした貴婦人が佇んでいた。




