結婚披露パーティー
結婚披露パーティー当日。私はまだ朝も白い間に起こされて準備が始まった。今日の日に向けて散々磨き倒された身体に、ドレスや宝飾品を身に着けていく。
今回はラリー様の瞳の色のドレスだ。形はオーソドックスでレースなどの装飾は控えめにしたけれど、こうしてみるとそのせいで品のある仕上がりになっていた。さすがはヘイローズだなと感嘆するしかない。
想定外だったのは差し色で、紫と金だけでなく白も使われていて、それがアクセントになっている上、清楚さが増しているように見えた。この辺の絶妙なバランスはヘイローズのセンスの賜物よね。王都でも彼女ほどの感性を持つデザイナーも少ないんじゃないかと思う。
「まぁ、素晴らしい出来ですわ!」
「本当に…」
「これほどの貴婦人は王都でも滅多にいらっしゃいませんわ」
すっかり着付けが終わった私を囲む侍女たちが感嘆の声を上げたけれど…確かにヘイローズのドレスも、それに合わせて作られた宝飾品も見事としか言いようがなかった。地味な私でもビックリするほど別人に見える。ドレスに負けるかと思っていたのだけど、それも杞憂だった。
それよりも気になったのは、ラリー様に贈られたラリー様の瞳のように澄み切った青透石のアクセサリーたちだ。一体いくらしたのかと心配になるほどの良質なそれは、こうして身に着けてみるとその良さがじわじわと伝わってくる。辺境は財政難なのにこんな出費をして大丈夫なのかと心配になってくる…
「アレクシア様、表情が沈んでいますわ。それではせっかくの衣装が台無しですわよ」
「だってユーニス、こんな宝飾品、贅沢過ぎないかしら…」
結婚式の時だってとんでもなく立派な翠玉を贈られたのだ。あれは加工費などは宝石商がお祝いにと持ってくれたと聞くけれど…そう何度もそんな事は出来ない。彼らにだって生活があるのだから。
「そこは大丈夫だよ。シアは本当に謙虚だね」
そう言って部屋に入ってきたのはラリー様だった。私とお揃いの衣装に身を固めたラリー様は…反則なほどに麗しくてかっこよかった。ラリー様は私のドレスと同じ青と白を基調にした衣装で、騎士服とは違い凛々しさよりも優美さが勝っているように見えた。さすがは元王族、身のこなしが洗礼されているし、何を着ても所作を合わせていらっしゃるから申し分ない貴公子ぶりだ。こんなに素敵な人が夫だなんて…心配になってきた。
「ローレンス様、まだお支度は終わっていませんのよ」
「そうは言っても…愛しい妻の晴れ姿を早く見たいと思うのは当然だろう?」
すかさずユーニスがラリー様を嗜めたけれど、ラリー様はどこ吹く風だった。これ以上ない程に甘い笑顔で私を見下ろしてきたけれど…顔が赤くなってしまうからやめて下さい!
「おお、シアや、綺麗に出来上がったな」
私がラリー様の甘い台詞と表情に悶えていると、お義父様まで入ってきてしまった。ユーニスはぴくっと眉を反応させたけれど…さすがにお義父様には何も言わなかった。その表情からは、血が繋がっていなくても親子だわ…とでも思っていそうだ。
「お義父様」
「こうしてラリーと並んでいると、本当に似合いだな」
「ありがとうございます、お義父様」
「この晴れの姿、クラリッサ殿にも見せたかったな」
そう言われた私は、祖母の事やギルおじ様と呼んでいた頃のことが思い出されて、目の奥がツンとするのを感じた。子どもの頃の心の支えでもあったギルおじ様は、私の初恋の人で、一時は本気でおじ様のお嫁さんになりたいと思っていた時期もあったのだ。
でも、今は形を変え、血の繋がりはないけれど父と娘の関係になった。いや、ラリー様だってギルおじ様とは血が繋がっていない。全く血の繋がりのない三人が親子としてこうしてあるのが、とても不思議な感じだったけれど、私は今までに感じた事のない幸せを感じていた。
これももしかしたら、祖母の導きなのかもしれない…ふと、いつもは凛とした表情の祖母が微笑んでいるのが脳裏に浮かんだ。きっと祖母もこの日を喜んでいてくれるのだろう。
「さぁ、行こうか、シア」
ラリー様に導かれて、私は会場内に進んだ。お義父様からの紹介を受けて入場した私達に、招待客の視線が集まった。幸いにも、これまでの事があったせいか、婚約披露のパーティーのように怯む事はなく、私はあの時よりも冷静でいられたと思う。
会場には国内の主だった貴族の姿があり、殆どが見知った顔だった。エリオット様の婚約者として、夜会や舞踏会などには必ず出席させられていたからだ。嫌な事も多かったけれど、こうなるとあの時の経験は無駄ではなかったのだと思えるから不思議ね。
婚約披露の時は興味半分で出席していたせいか、会場内は騒めいていたけれど、今日は結婚披露のせいなのか、会場内は随分と静かに感じた。これもラリー様の出自と持って生まれた威厳のせいだろう。
そんな中で私は、思いがけない人物の顔を見つけて驚いた。声を出さなかっただけでも褒めて欲しかったくらいだ。
「ラ、ラリー様…」
「ああ…私も気付いたよ…」
「どうしてここに?」
「それは私が知りたいね」
どうやらラリー様も苦笑するしかなかったらしい。それもそうだろう、王宮にいるべき方がこんな辺境にわざわざやってくるなんて誰も思わないだろうに。会場にいる貴族たちの雰囲気がピリッとしているように感じたのは…国王陛下のせいだったのだ。




