結婚披露パーティーの準備
それからの日々は、雪のせいもあってあまり動きがなく、穏やかに過ぎていった。今年の雪はそれほど多くないようで、特に問題はないらしい。そんな中でも私達は、春に予定している結婚披露パーティーの準備でそれなりに忙しく過ごしている間に、季節は初春へと移ろっていた。
結婚披露パーティーまで二十日を切った頃、ヘイローズに頼んであった、パーティーで着るドレスが出来上がった。デザインをどうしようかと悩んだけれど、結局はヘイローズのアドバイスを受けて今回は既婚者向けの落ち着いたデザインになった。
意外にもラリー様が自分の色を入れたものに…と言い出したため、ラリー様の瞳の色の青を基調として、ところどころに紫や金をあしらった。レースなどは控えめにして、その分生地を最高級の物にして、落ち着きと気品を重視した。
「まぁ、素晴らしい出来ですわね…」
「ええ、でも、ちょっと私には大人っぽ過ぎないかしら?」
シンプルなデザインのドレスは、確かに品があって素晴らしい出来だった。背が高く美人のユーニスが着るなら文句なく似合うデザインだけど…私にとなると、ちょっと微妙な気がした。
「まぁ、アレクシア様ったら。奥方様になられたのですから、これくらいシンプルな方が品が際立ちますのよ」
「そうかもしれないけど…私、そこまで大人っぽくもないし…」
「まぁ、そんなご心配いりませんわ」
「そうかしら…」
「「「大丈夫です」」」
私が尚も躊躇していると、モリスン夫人だけでなく側に控えていた侍女たちにいい切られてしまった。う~ん、みんなが大丈夫というなら…大丈夫なのかしら…そりゃあ、ヘイローズは相手にぴったりなドレスを作る名人だけど…
「ドレスはシンプルでも、宝飾品をお付けになればちょうどいいバランスですわよ」
「へ?宝飾品って…」
私はセネットの家宝でもある紫蛍石で…と思っていたけれど…聞けば既にラリー様が手配していると言われた。いつの間に…と唖然としていた私に、ヘイローズは秋の結婚式の際に、翠玉と一緒にラリー様が頼んでいたのだという。それはラリー様の瞳の色と同じ青透石をあしらったネックレスとイヤリング、指輪と髪飾りのセットだという。
「それにしても…ご自分の色で固め過ぎです…独占欲の塊ですわね…」
呆れたようにそういうユーニスに、モリスン夫人も苦笑していた。独占欲って…
「アレクシア様は自覚がないようですけど、あの男は独占欲の塊ですわよ」
「ええっ?まさか…」
「このドレスがその証拠です。ここまで自分の色で固めるなんて…呆れてしまいますわ…」
「確かに…ここまでご自身の色で固めるのは…珍しいですわね」
ユーニスとモリスン夫人にそう言われたけれど、ラリー様がそうだとは到底思えなかった。いつも余裕の表情を崩さないし、独占欲を感じた事もないのだけど…
でも、婚姻が成立した後の豹変ぶりからして間違いない、と二人に畳み掛けられてしまっては、私には反論など出来ようもなかった。納得し難いけれど…確かに私が今までに出た結婚披露パーティーでも、こうも新郎の色で固めたドレスはあまり見なかった気がする…
「まぁ、いい牽制にはなるでしょうね。結婚されてもアレクシア様の力やセネット家当主の座を狙う者が現れないとも限りませんし」
「まさか…」
「全く…アレクシア様はもっとご自身の価値をご自覚頂きませんと…」
「そうですわ、アレクシア様。そうでないと守る側も守り切れませんわよ」
そんな事を言われても…と思ったけれど、その後二人は懇々私の価値について語っていたけれど…子どもの頃からずっと、無価値として扱われてきたせいか、そう簡単に自分への認識を変えられそうになかった。
私がラリー様に呼ばれたのはその日の夕方だった。久しぶりに執務室を訪ねると、そこにいたのはラリー様とレックス、ロバートと…レアード王子―ロイ―だった。
「レ…ロイ、お久しぶりですわね」
「ああ、奥方様、ご無沙汰しておりました」
ついレアード王子と呼びかけそうになるけど…それは禁句だった。彼の、そしてその姪のためにも、今はその名を口にするのは屋敷内のラリー様の執務室でも憚られた。
「ローズの調子はいかがですか?」
「お陰様で、すっかり傷の方は治っています。まだ記憶は戻りませんが…その方があの子にとっては幸いでしょう」
「そう、ですわね」
ロイもその姪のアナベル―ローズ―も、一時は危険な状態だったが、看病の甲斐あって今ではすっかり元気になっていた。未だに記憶が戻らないが、その分ロイを本当の父親と信じ慕い、今では仲睦まじい父娘そのものだ。
「今日は何か?」
二人に関しては、今のところ心配なところは特になかった。この辺境の冬に耐えられるかと心配していたローズも、風邪をひく事もなく元気に過ごしているし、最近では屋敷の侍女の子供達と楽しそうに遊ぶこともある。これから偽の遺骨を彼らの従者だという男に持たせて帰国させれば、王族としての彼らの存在は消えて、一層安全になる筈だ。
「ああシア、すまないね。貴女にも話しておきたくてね」
「話…ですか?」
「ああ、それは私からお話を。奥方様、私は娘と一緒に、アンザスに行こうと思います」
それは想定外である一方で、もしかしたら…と微かに可能性を感じていたものでもあった。




