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婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です【コミカライズ】  作者: 灰銀猫
第五章

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噂の真相

 ロバートを巡ってキャシーに嫉妬していると言われたユーニスは、艶やかな笑みを浮かべていた。うん、これはもう、かなり怒っているわよね。だって目が笑っていないもの。私は彼らのために心の中で手を合わせた。


「私があの子に嫉妬する理由をお聞きしても?」


 優雅に、それこそ王宮で対応するレベルでそう問いかけたユーニスに、先ほどから口さがなく騒ぎ立てていた若い騎士達が息を飲むのが伝わってきた。それもそうだろう、こんな辺境の地で最上級のマナーで対応されたら、どうしていいかわからなくなっても仕方がない。しかも相手はまだ騎士見習いの半人前で、マナーのマすらも弁えていないのだ。

 しかもユーニスは美人だ。意志の強さを秘めた煌めく瞳と、公爵家の令息すらも妻にと乞うほどの美しさ、背がすらっとしていて優雅で完璧な所作は辺境では異質だ。

 実際、ユーニスは伯爵家の出でここでは私達に継いで高い身分になり、本来なら気軽に声をかけるのも憚られる立場なのだ。


「…そ、それは…」

「それは?」

「…あの、わ、若いし…」

「若い?」

「そ、そうです!…キャシーは若くて…可愛いから…」

「それに…守ってあげたくなるし…」


 若い騎士達は実際のユーニスを知らなかったから、本人を目の前にして動揺しているようだった。きっとそれくらいしか理由が思いつかなかったのだろう。それもそうだ、キャシーがユーニスに勝っているのは若さだけだろう。見た目でいえば美人のユーニスの敵ではないのだから。まぁ、守ってあげたくなる儚さはユーニスにはないけれど。


「他には?」

「え?あ、あの…」


 ユーニスが呆れたようにそう返すと、騎士達が戸惑いを露にした。どうやら彼らには若さや庇護欲をそそる点以外に嫉妬する点が見つからなかったのかもしれない。そして、その考えは正しいだろう。一方でユーニスは、そんなものに価値を見出していないのは明らかだった。


「そうよね…若さ以外でユーニスに勝てる部分なんてないわよねぇ…」


 若い騎士達が沈黙してしまったので、私が思わずそう呟くと、騎士達が一斉に私に視線を向けた。私が何かを言うとは思わなかったらしい。


「マナーは全く出来ていないし…」

「それはまだ若いから…」

「第一、ロバートが熱心にユーニスに求婚しているのに、何でユー二スが言い寄っている話になるの?」

「は…?」

「だって、家格でいえばユーニスは伯爵家の令嬢で、男爵家の三男とは言え継ぐ爵位もないロバートじゃ釣り合いが取れないじゃない」

「は、伯爵…?」

「それにユーニスは王妃様のお気に入りで、公爵家の令息からも求婚されるほどなのよ?」

「…え?」


 どうしてこんな話が出ているのかと不思議になって、思っている事を口にしてみたけど…若い騎士達は理解出来ないと言った風で固まってしまった。どうやらキャシーの言い分を一方的に信じ込んでいたらしい。事実があまりにもかけ離れていて、直ぐに消化出来ないのだろう。彼らは私の護衛の騎士の指示を受けて、他の先輩騎士に連れて行かれた。




「ありがとう、シア」


 その後、部屋に戻ると私はラリー様に礼を言われた。何を?と不信に思って見上げると、ラリー様から思いもしなかった事を告げられた。

 冬になるとヘーゼルダインは雪に囲まれて鎖国のような状態になる。その為、領内ではおかしな噂が流れるのが当たり前なのだという。噂はしょうもないものから、場合によっては噂で終わらせる事が出来ない悪質なものまであり、それを解決するのも騎士団の仕事らしい。要は流言飛語の取り締まりだ。


「それが今回の件とどんな関係が…」

「騎士たる者、流言に惑わされるなど言語道断だ。片方の話だけ聞いてもう片方を責めるなど論外だし、それが戦時だったらどうなる?」

「それは、かなり問題ですね…あ…」

「そう言う事。まぁ、暇な時にはろくでもない噂が流れるから、これは一種の訓練みたいなものなんだよ」

「訓練って…」


 呆れてしまいそうになったが、確かに話を聞くと納得でもあった。要は騎士たる者が噂を鵜呑みにするなど言語道断、惑わされた者は適正なしと見做されるらしい。しかもこんな初歩的な噂に惑わされるなど、話にならないと。今回キャシーの嘘に乗った騎士見習いは全員、騎士としての適性なしと見做されて失格となるらしい。


「それじゃ…最初から…」

「全てはロバートの掌の上だよ。勿論、ユーニスもね」

「は?」


 ラリー様が私の後ろに控えるユーニスに視線を向けたから、私は慌ててユーニスを振り帰ると…ユーニスは申し訳なさそうな表情で私を見ていた。も、もしかしてこれって…


「ユーニス、知っていたの?」

「申しわけございません、アレクシア様。ロバートから協力して欲しいと頼まれて…」

「ええっ?それじゃ…」

「その…ロバートとは仲たがいしていたわけではありませんので…」

「そうなの?」


 ずっと心配していたのに…私にまで内緒だったのが、何だか面白くなかった。ラリー様もユーニスも、敵を欺くには味方からというからと言うけど…何だか仲間外れになった気分で面白くなかった。


「でも、シアは知っていたら彼らに同情して手助けしてしまうだろう?」


 ラリー様にそう言われると、何も言い返せなかった。確かに、知っていたら彼らが除隊にならないように手を貸した…かもしれない。でも、ここではそういう甘さは命取りになるのだ。彼らが生き延びるためにも、他の者が道連れにならないようにするためにも、適性がない者は早い段階で除隊させないといけないらしい。それが辺境の厳しさだと言われてしまうと、納得せざるを得なかった。


 ちなみに噂の渦中にいたキャシーだけど、あの後モリスン夫人の指導に耐え切れなかったらしく、程なくしてランス殿と共に屋敷を辞した。キャシーも自分の立場を理解したようで、以前のような我儘は鳴りを潜め、近々遠縁の年の近い商家の次男に嫁ぐことが決まったと聞いた。マナーが出来ていないから貴族や騎士の妻は難しそうだし、妥当な線だろう。



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