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婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です【コミカライズ】  作者: 灰銀猫
第五章

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新しい嵐の目

 ユーニスがロバートとお付き合いしているという話は、あっという間に屋敷内どころか騎士団にも広まった。何と言ってもユーニスは美人でしっかり者で頭もいいのだ。しかも王都育ちで王妃様の侍女をしていただけに所作も美しく、更に伯爵令嬢という高位貴族の出ともなれば、彼女に憧れる男性がいない方がおかしいのだ。


「嘘だろう…俺、憧れていたのに…」

「よりにもよって…ロバート様だなんて…」

「絶対に勝ち目ないだろうが…」

「俺の女神さまがぁ…」


 雪かきで怪我をした騎士達を癒すために騎士団の救護院を訪れた私は、あちこちで男性たちの嘆きの声を耳にする事になった。そりゃあユーニスは美人だし、クールに見えてその実面倒見がいいのだから、彼女と接したら好きになってしまっても仕方ないだろう。私だって、ユーニスが男性だったら絶対に好きになっていたと思う。自分が男だったら…自分が見劣りして怖気づいたかもしれないけど、きっと憧れたと思う。


 あれからロバートとどうなったとかが気になったけれど…その話をしようとするとはぐらかされてしまって、中々話してくれそうになかった。ロバートはあの時、プロポーズしようと思っていたと言っていたから余計に気になるのだけど…むしろだからこそ今はデリケートな時期で答えにくいのかもしれない。

 でも…ユーニスの態度からして、絶対にロバートを憎からず思っているのは間違いないのだ。あれから注意深くユーニスの様子を見ていると、ロバートの事を意識しているのが丸わかりだった。どうして私は気が付かなかったのだろうと思うくらいだ。


 一方のロバートはというと…相変わらず平常運転だった。いつもにこやかな笑みを浮かべているし、彼が動揺したり困惑したりなんて事は滅多にないだけに、どう考えているのかはさっぱりわからなかった。聞けば教えてくれるかも…とも思ったけど、本心を話してくれるとも限らない。彼は諜報部員なので自分の感情を消すなんてお手のものだろう。





 こんな状況が暫く続いた頃、屋敷にお義父様のご友人が訪ねてきた。

 その男性はブルーノ=ランスと言って、若い頃はこの地の騎士団に所属していた方だった。その後隣国との戦闘による怪我で引退し、その後は男爵家の当主として領地経営に専念していたという。息子が結婚してその後継たる男児が生まれた時点で引退したが、十年ほど前に孫娘を除いた三人は馬車の事故で亡くなったそうだ。男爵家は次男が継ぐ事になり、ブルーノ殿は孫娘を引き取って領地の別邸で育てていたという。

 お義父様とは今でも親しくしているのもあり、十六歳になった孫娘の先を案じ、まずは行儀見習いとして屋敷で侍女として働かせて欲しいとの事だった。


 ブルーノ殿と一緒にラリー様に挨拶に来た孫娘はキャシーと言い、綺麗な金髪と鮮やかな新緑の瞳を持つ美少女だった。少し妹に雰囲気が似ているかもしれない。何と言うか…庇護欲をそそると言うか、男性受けしそうな感じがした。

 実際、言動もラリー様をはじめとする男性には笑顔で饒舌だが、私や侍女頭のモリスン夫人に対しては口数が少なくなって、その態度は割とあからさまに見えた。これは…あまりいい話にならないかもしれない…と思ったのは内緒だ。


「あっ!ロバート様!」


 ラリー様達に挨拶をしている時、ロバートが執務室に入ってくると、キャシーは領主そっちのけでロバートに声をかけ、あっという間に彼の腕に絡みついたが…その時のユーニスの表情は、無表情で逆に怖かったと感じたのは気のせいじゃないだろう…


「やぁ、キャシー久しぶりだね」

「ええ。私、今日からここで行儀見習いをするんです。だからこれからはいつでもお会い出来ますわ」

「そうなんだ。頑張ってね」

「はい!」


 先日の意趣返しとでもいうのか、ロバートも彼女の態度を気にせず親しく言葉を交わしていた。うん、これは絶対にわざと…よね。私は新たな嵐が舞い込んできたのを感じた。


「キャシー、ご領主様へのご挨拶の途中だぞ」

「ごめんなさい、お祖父様。ロバート様がいらっしゃったから…」

「だからと言って淑女たるもの、男性に馴れ馴れしくするものじゃない」

「ちょっとくらいいいじゃない」

「ここに来たのは行儀見習いのためだろう?ご領主様と奥方様の前で失礼な態度をとるものじゃない」

「は~い」


 ブルーノ殿の諫めも全く気にしていないらしいキャシーに、ラリー様もお義父様も苦笑していた。二人とも、ユーニスとロバートの事を知っているだけに尚更だ。これは…一悶着ありそうだ…と誰もが思ったに違いない。




「全く…使い物になりませんわ…」


 キャシーが行儀見習いとして屋敷で侍女として働き始めてから三日目。モリスン夫人は小さくため息を付いて、頭を振った。キャシーに仕事を命じても全くやらず、サボりまくっているのだという。

 ブルーノ殿は夫のモリスン男爵の上司だった事もあるので、あまり強くは言えないらしい。聞けば男爵令嬢としてのマナーもなっておらず、侍女としての仕事も出来ないので、どこから手を付けるべきかと悩んでいるらしかった。


「マナーがなっていないのなら、外向きの仕事は無理ね」

「そうなのです。でも、内向きの仕事は嫌だといって…」

「そうは言っても、マナーがなっていない以上、それは無理だわ。お客様の相手をする事もあるのだし」

「そうなのです。内向きの仕事が嫌だというのであれば、うちでは出来る仕事などありませんわ」


 どうやらキャシーは、掃除や料理などの内向きの仕事は自分がする事じゃないと言って放棄しているらしい。男爵家の出の自分は、そもそも侍女として働く立場ではないと言っているのだとか。モリスン夫人も同じ男爵家の夫人だからと、対等な立場だと思っているらしい。

 だが、今のキャシーの立場は男爵令嬢ですらないのだ。男爵家は叔父が継いでいるため、彼女は元男爵令嬢に過ぎない。ただ、祖父のブルーノ殿は元男爵で顔が広く、騎士団でも上位にいたため、周りは今でも一目置いている。それを自分も同じだと勘違いしているらしい。


「ランス様は騎士団では厳しいお人だったのに…どうしてあんな風に育ててしまわれたのかしら…」


 モリスン夫人が嘆くも、今更どうにもならないだろう。


「もしどうしようもなかったら、私に言ってちょうだいね。私から注意して見るから」

「ええ、アレクシア様、その時にはどうかお願い致します」


 普段は滅多に弱音を吐かないモリスン夫人だったけれど…どうやらこれは私が手を出さなければいけない事になりそうだった。



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