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婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です【コミカライズ】  作者: 灰銀猫
第五章

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雪上の散歩

 始めて雪が降ったその日は、結局一日中降り続けた。雪に接するのが初めての私はまず、雪が降ると音がなくなるのを知った。雪が降ると人が外に出ないせいだろうか、本当に静かなのだ。こんなに音がなくなる事があるなんて…と、私は今まで静寂という言葉の意味が全く静寂ではないと改めて知る事になった。

 ラリー様の話では、雪がもっと、そう、膝上くらいまで積もると、今以上に静かになるのだと教えてくれた。今は水っぽい雪で人が歩くと音がするけれど、もっと積もるとその音すらもなくなるのだという。


 ようやく晴れ間が出たのを見計らって、私は庭に出る事にした。雪の上を歩くなんて初めてだから、ちょっとだけ興奮していた。モリスン夫人がフード付きのコートと、雪用にと乗馬用のブーツに似た靴を用意してくれた。普通の乗馬靴では冷たいし、水がしみ込んでくるので雪用の物があるのだという。少し重いけど中には布が貼ってあって確かに温かいし、コートも水を通さない仕様のものらしい。王都では見た事もなかったけれど、雪国には雪国に合せたものがあるのだと感慨深かった。


「シア、滑りやすくなっているから気を付けて」


 ラリー様に手を引かれながら、私は雪の上の散歩を楽しんだ。雪は膝の少し下くらいまで積もっているので、僅かな距離でも歩くのに難儀した。雪の上の一歩がとてつもなく重くて、思うように進めなかった。でも、雪の中を歩くのは不思議な感覚で、初めての雪は私の想像以上に神秘的だった。


「目が…痛くなるのですね」

「そうだね。夏の日差しよりも、雪の晴れ間の方がずっと眩しいかもしれないね」


 日差しが出ると、雪に反射して一層眩しく感じた。雪が降ると目を傷める者が増えるんだよとラリー様が教えてくれたけれど、それも納得の明るさだった。ラリー様の金の髪も一層輝いて見えてドキドキしてしまったのは、ラリー様には内緒だ。本当にラリー様の金髪は豪奢という言葉がぴったりの、綺麗な金髪なのだ。

 私は昔から青銀髪のせいで両親から邪険にされ、エリオット様からは冷たい女と見られていた。だからずっと金の髪に憧れていたから、ラリー様の金髪がとても羨ましかったのだ。


「ああ、シアの髪が一層輝いて…とても綺麗だ」

「…っ!」


 ふっと髪を触られるのを感じたと思ったら、頭上から甘い言葉が降ってきた。不意打ちはまだ慣れていないのに…白い結婚をと頑なに言っていたラリー様なのかと思うほど、以前とは別人のような気がした。


「シアの髪は本当に神秘的だね。この色は…セネットにしか出ないと言われているけど…シアの清楚で凛としたところにぴったり似合っているよ」

「そ、そうでしょうか…」

「ああ、私はこの髪色が好きだよ。勿論、シアの髪だからというのもあるけどね。ああ、雪の中では一層輝いて、まるで雪の女神のようだね」


 そう言いながらラリー様は、私の髪を一房手に取ってそこに口づけていた。な、なにをしているんですか…と思うけれど、そこで動揺してはラリー様を喜ばせるだけだという事は、ここ数日で十分身に染みて理解していた。

もう、どこからそんな言葉が出てくるのかと思うほどラリー様が褒めるものだから、私はどう返していいのかわからず何も言い返せなかった。それでも…ラリー様の言葉は、私のマイナスな考え方をプラスに変換してくれた。ラリー様にそう言われると、今まで嫌だった青銀の髪が好きになれそうな気がしたからだ。こんな事で十年以上も持ち続けていた考えが変わるなんて…と思うけれど、それは私にとってはきっと嬉しい変化なのだろう。




 散歩の後は、すっかり赤くなってしまった私の鼻や耳、手に、ラリー様の過保護モードが発動してしまったのは言うまでもない。直ぐに身体を温めなければと湯浴みに放り込まれ、その後は暖炉の間で後ろから抱き込まれてしまった。そんなに冷えてはいないと思うし、そこまで身体が弱いわけではないのだけど…王都にいた頃は真冬でも暖房は許されなかったのだ。むしろ他の人よりは寒さに強いと思う。


「全く、あいつらはもっと厳しい罰にしておけばよかった」

「それに関しては同感です」


 そうラリー様に説明したところ、それはそれで私の両親に酷く憤慨されて、やはりあの程度の罰では足りなかった…としみじみと言われてしまった。今は彼らの方が厳しい環境にいるし、そこから抜け出すのは容易ではないし、私もここで温かく過ごせているのだからいいんじゃないか…と思うのだけど…そこに関してはユーニスまでラリー様に同調していた。

 過保護な二人に面食らったけれど…それでも二人とも私を大切に思ってくれているのだと思うと、心の中がじんわりと温かくなるのを感じた。それはきっと、あのままエリオット様と結婚していたら決して得られなかったものだろう。

 いや、そもそもラリー様がこんな過保護で甘い言葉をいうような人だとは思わなかったのだけど。更に言えば、あんなにラリー様に点が辛かったユーニスが、ラリー様に同調しているのも意外だった。そりゃあ、今はユーニスもラリー様の直属の侍女で、雇い主と使用人の関係だけど…



 それから屋敷は日に日に雪に覆われていった。多い時はラリー様の背丈よりも積もる事もあるのだという。雪は降っては消えを繰り返しながら、少しずつ増えていくらしい。今年は雪が少ないとの予想が出ていると聞かされたけれど…雪を見た事がない私にとっては、これだけでも十分だった。



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