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婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です【コミカライズ】  作者: 灰銀猫
第五章

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王子の目覚めと忠言

 それから十日ほどが経った。私は相変わらずラリー様に構い倒され、ユーニス達に生温い目を向けられる日々を送っていた。ラリー様は別人かと思うくらいに私に甘く、そしてとても元気だった。色んな意味で…

 レアード王子が目を覚ましたのは、そんな時だった。


 レアード王子が目を覚ましたと聞いた私は、ラリー様と一緒に王子が寝ている部屋へと向かった。ここには王子とその姪の二人が療養していたが、先に目を覚ましたのはレアード王子だった。部屋に入るとすでにレックスやロバートが駆け付けていた。


「レアード殿下、私が分かるか?」


 ラリー様が呼びかけると、レアード王子は僅かに視線をラリー様と私に向けたが、まだ意識がはっきりしていないのだろうか。ぼんやりと私達を見上げるだけだった。既に傷は癒え、私の力を送っても直ぐに切れてしまうので、身体の機能に問題はないと思う、ただ、出血が酷かったのと、寒い中で体温を奪われた事が重なり、それ以上の回復を妨げているのだろうと医者が言っていた。そう、聖女の力も万能ではないのだ。


「……を、…けろ…」


 意識がはっきりしてきたのか、レアード王子が何かを訴えかけてきた。だが、長く寝付いていたせいか、声は掠れてうまく聞き取れなかった。医師見習いがレアード王子に水を飲ませると、ようやく一心地ついたのか大きく息を吐いた。


「…いた男に…」

「男?一緒に居た男か?」


 聞き取れない言葉を補完するようにラリー様がそう言うと、レアード王子が小さく頷いた。男とは王子たちと一緒に助けたあの男性だろうか。


「あの男なら何度か目を覚ましている。まだ起き上がる事はできないが」

「気を…付けろ…決…し…気を…許す…な…」

「気を付けろ?気を許すなというのか?」


 ラリー様の問いかけに、レアード王子は今度は前よりも大きく頷いたけれど…そこが限界だったらしい。再び眠りについてしまい、私はラリー様と顔を見合わせた。


 結局それ以上の事は聞き出せず、私達はラリー様の執務室へと移動した。レックスやロバートも一緒だ。


「シアも聞いたか?」

「はい。王子は一緒に居た男に気を付けろと仰っていましたわね」

「ああ」

「あの男なら、三日前から目を覚ましています。まだ起き上がれる状況ではありませんが…」

「王子がああ言うなら、何かあるのだろう…もしかすると…王子たちを襲ったのはあの男かもしれん」

「そんな…あんな怪我をしていたのに?」

「敵を欺くためなら、ないとは言い切れませんよ。もしかすると…王子たちを狙ったのはこの屋敷に入り込むのが目的だった可能性もあります」

「そんな…」


 ロバートの言葉は、私が全く思いもしなかった内容だった。でも…


「可能性は排除できないな。案外あの男は王子の監視役で、王子が何かに気付いてこちらに来ようとしたのに便乗した可能性もある。王子たちが死んでしまえばそれでよし、死ななくてもここで口封じする気だったのだろう。今の王子たちなら、簡単に消す事が出来るからな」


 ラリー様はロバートの言葉を肯定するものだった。でも言われてみれば、その可能性が全くないとは思えない自分もいた。あの国は王族だからと言って安全ではないのだ。現王は実の息子たちを叛意ありとして何人も粛正していると聞く。国王を倒す方向に舵を切ったレアード王子の動きに、あの王が気付いた可能性もあるのだ。


「とにかく、あの男の監視は厳重にしましょう。動けないと思っていましたが…ふりをしている可能性もありますね」

「そうだな。必要ならずっと寝ていて貰うか」

「そうですね。でも、レアード王子も信用出来ません。二重スパイの可能性もありますし」

「そうだな。姪御がいるからといっても、あの子供が本物の姪とは限らない。我々は彼らの事を十分に知っているわけではないのだ」


 ラリー様の言葉に、レックスやロバートは賛成していた。レアード王子のこれまでの態度から、あの姪が偽物とは思えないけれど…そうは思ったけれど、私もレアード王子の事を知っているわけではなかったと改めて思い知らされた。決して気を許すなと言われてしまえば、それを否定する事も出来ないだろう。


「仰る通りです。とにかく、彼らに近づく者は限定し、近づく者はスパイの可能性もあると考えてよろしいかと。ロバート、影は何か動きを掴んでいるのか?」

「今のところ報告が上がっていませんよ。でも、もしかすると相手も隣国の影かもしれません。王やその周辺の」

「影か…だとしたら…厄介だな」

「はい。なので、やはりゆっくり眠っていて貰う方がいいでしょうね」


 結局、あの男は監視しやすい貴族牢に移した上、当面の間は薬で眠っていて貰う事になった。身体に負担がかかるけれど…刺客の可能性があるとなれば仕方ないのだとロバートは言った。暑い時期ならともかく、冷え込んできた今では牢に入れる事も難しい。

 ラリー様は、私が狙われる可能性があるのは許しがたいと言い、最悪あの男性が死んでも構わないとのお考えだった。これまで何人もの領主の家族が暗殺されているのだ。ラリー様はお義父様の甥っ子が亡くなった経緯をご存じなので、心配するのは仕方がないのだろう。


「シアも十分に気を付けて欲しい。あなたは自身を癒す事は出来ないのだから」

「え、ええ」

「ユーニス、すまないがシアが勝手に行動しないようにしっかり見ていてくれ」

「畏まりました」

「ラリー様ったら。私、そんな勝手になんて…」

「そうは言っても、シアの行動力を私が甘く見る事はないよ。貴女は自分が思っている以上に行動力があって、目が離せないのだから」


 そんな筈はないと言った私だったけれど、結局ラリー様だけでなくユーニスにまで肯定されてしまった。納得できないなら、部屋から出られないようにしようかと言われたけれど…その意味深で色を含んだ視線が何を指しているのかを感じて、私は渋々ながらも納得するしかなかった。


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