紫蛍石と聖女の騎士
それから三日間、私はラリー様に構われ倒された。仕事は大丈夫なのかと聞いたけど、もう冬に入ってシーズンオフで、特に急ぎの仕事はないらしい。唯一、レアード王子達の事があるけれど、こちらは男性が何度か目を覚ましたけれど、それも僅かな時間な上、会話が出来る状態でもなく、特に変化はないという。
隣国側から問い合わせもないそうで、ロバートが色々調べてはいるが、今のところこれと言った収穫はないらしい。どちらにしてもこれから兵を送り込んでくる事はないだろうし、結婚式でもこれと言って大きな騒ぎはなかったため、今は様子を見ているのだと教えてくれた。
そのお陰と言うべきか、私は一日の殆どをラリー様と過ごしていた。しかも、大半をベッドの上で…と言う羞恥心を多大に削がれる状況で、だった。世の中の新婚はこんなものだよ、なんて言われたけど…本当にみんなこんな恥ずかしい状況で過ごしているのだろうか…それでも、ラリー様が凄くご機嫌なので反論する気にはなれなかった。
「あの…ラリー様、それは…」
「ん?何だい?」
異変に気が付いたのは、結婚式の三日後だった。その前夜もいつの間にか眠っていたのだけど、朝目を覚まして気が付いたのだ。私がラリー様にお渡しした紫蛍石が、ラリー様の胸元に、何と言うか…くっ付いているのだ。何と言えばいいのだろう…同化している?そんな感じで、鎖が変な感じで浮いていたのだ。
「本当だ…」
ラリー様が指で紫蛍石に触れたが、不思議な事に本当にくっ付いて離れなかった。何がどうなっているのか不安になったが、ラリー様に聞くと痛くも何ともないという。
「…触ってもいいですか?」
「ああ、構わないよ」
痛みはないというけど、このままじゃ皮膚が炎症を起こしてしまわないだろうか…と私は何とか外れないかと思って触れたのだけど…
「は?」
「え?」
私が触れた途端、ラリー様の胸にあった紫蛍石がぽうっと光ると、その石を中心にラリー様の肌に赤く文様が浮かび上がった。その文様は…
「セネットの…家紋?」
それはセネット家の家紋だった。しかも、その文様は私の持つ一回り以上大きい紫蛍石と同じ赤色で、以前はほんのり薄紫に光っていた石が今では私の物同様、赤く光っていた。
「これは…」
鏡でご自身の胸元を目にしたラリー様も驚いていらっしゃったけれど、私の方も驚きと心配で気が気ではなかった。もしかしたら、何か悪い作用があるのでは…と思ったからだ。
だけどラリー様は、ああ、そういう事か、と仰ると、自室から分厚い封筒を手に戻られた。それは国王陛下からラリー様に宛てられたもので、その中は…セネットの聖女にまつわる事が記載されていた。
「どうやら私は…セネットの聖女の守り人になったみたいだね」
「守り人?」
暖炉の前でラリー様に後ろから抱き込まれながら、私達は陛下から送られた書類に目を通し、一つの結論に達した。それは、セネットの聖女を守る「守り人」と呼ばれる騎士の存在だった。
陛下からの文書には初代聖女の事が記されていて、そこに聖女を守るための騎士がいた事も含まれていた。その騎士は聖女から紫蛍石を渡され、いつの間にかその石は身体の一部となり、聖女の力を受けて完全に同化したとあった。これは、今のラリー様と同じだ。
石が同化した騎士は、どんなに離れていても聖女の危機を察知する力と、聖女が側にいなくても常に癒しの力を得る事が出来て、その力で終生聖女を守り続けたという。その騎士は建国の王の側近の一人で、その後聖女と共にセネット家を興したと伝えられていた。つまりその騎士は、聖女の夫になった相手だった。
「なるほど、セネットの聖女を守る騎士のためのものだったのだね、この石は」
「そう…みたいですね。でも、そんな効果があったなんて…」
これではラリー様が私のために危険な目に遭うのが前提の様で、私は喜べなかった。だって、ラリー様は私にとって一番大切な人なのだ。ただでさえヘーゼルダインの当主として、いざと言う時には先陣に立つ事もあるのに、更に私のせいで危険な目に遭うなんて…
「申しわけありません、ラリー様」
「シアが謝る事はないよ。むしろ私は、とても光栄だと思っている」
「でも…」
「この前誓っただろう?私の忠誠はシアに捧げると」
「それは…でも…」
「それに、悪い事ばかりじゃないよ。この石のお陰でシアが危険な時にはわかるし、怪我をしても側にいなくても治して貰えるんだ。むしろおつりがくるほどだよ」
「……」
確かにラリー様の仰る事もわかる。危険を察知するのはいいとしても、側にいなくても怪我を治せると言うのは凄く大きいと思う。もし隣国との戦闘に出ても、私が側にいなくても何とかなるのだろう、きっと。そう思えば、確かにメリットはあるのだけど…
「むしろそんな光栄な立場に選ばれた事が嬉しいよ。私の愛するシアの騎士に、他の者がなるなんてそっちの方が許せないからね」
「な…」
「私は心が狭いから、シアの隣を誰かに譲る気はないよ」
これは…熱烈な告白みたいで、私はラリー様の腕の中で悶絶するしか出来なかった。
「ふふっ、可愛いね、シアは。耳まで真っ赤だよ」
「…っ!」
もう、誰かラリー様を止めて下さい!紫蛍石の事を深刻に悩んでいたのに、ラリー様にかかると何でもないような事に変わってしまっていた。私の騎士と言う事に戸惑いながらも、私自身もラリー様を誰にも渡したくないとの思いと…これで誰にもとられないような気がして…心が満たされるのを自覚するしかなかった。




