一夜明けました
ふ…と意識が浮上するのを感じた私は、自分が目を覚ましたのだと感じた。肩が寒く感じて、思わず側に感じた温もりを求めて身を寄せた。温かいのは、それだけで幸せだと思う。子供の頃から色んな意味で寒かったから…温かい、それだけで私は自然と笑みが浮かんで、温かいそれに頬を摺り寄せたのだけど…
(あれ?)
いつもと違う感じがして、私の意識が一気にクリアになった。それと共に、今自分が寝ている場所がいつもと違うのを感じた。夜着とシーツの手触りがいつもと違う気がする。それに…この匂いは…
「目が覚めた、シア?」
掛けられた声に、私はビクッと音がしそうなくらいに身を固くした。今の声は私がよく知っている人だけど…こんなの近くから声がするなんて…あり得ない…いや、そうじゃなくて…
「ひゃあぁ?!」
目の前にいた人の姿に、私は自分の声とは思えないほど変な音を発していた。だ、だって、目の前にいたのはラリー様だけど…だけど、上には何も身に着けていらっしゃらなかったのだから…
そこまできて私は、ようやく自分が置かれた状況を理解した。そう言えば昨夜は結婚式で…そしてその後は…昨夜の記憶が一気に蘇って、私は気が遠くなる気がした…
それから後の事は、あまり思い出したくなかった。だ、だって、思い出すだけでも転げまわりたくなるほど恥ずかしかったし、身の置き所がなかったからだ。その上でラリー様の過保護モードがさらに上がった気がして…もう悶絶死しそうだった。
幸いだったのは、ラリー様が昨夜の事を何も仰らなかった点だ。きっと私の心情を思いやって下さったのだ…と思いたい。
甘過ぎる空気に何だかピリピリと焼かれるような気もしたけれど、これはアレかしら、甘すぎる物を食べると口の中が痛くなる気がするのと似ているかもしれない…うん、きっとそうなのだろう…
私が目を覚ました時には、既にお昼近かったと聞いて、どれだけ寝ていたのよ、自分…と恥ずかしくなった。でも、身体のあちこちが筋肉痛のように痛いし、節々も痛む。凄く疲れたし怠いし、眠くて、その日は殆どをベッドの上か暖炉の前のラグの上で過ごした。
一方のラリー様は鍛えているせいか、疲れは一切見えず、むしろいつもよりも元気そうに見えたのだけど‥気のせいじゃない気がする。むしろ顔色もいいし、生気が漲っている気すらする。もしかしたら寝ている間に、力を吸い取られたのかしら…と思うほどだ。
「アレクシア様、おめでとうございます」
ラリー様がレックス達に昨夜の事を聞いてくると部屋を出て行かれた後、私はユーニスからいきなりお祝いの言葉を貰って面食らった。結婚式の前にも散々お祝いの言葉を貰ったけれど…何だか今回はニュアンスが違う気がした…
「えっと、どうしたの、ユーニス?」
「どうしたもこうしたも、アレクシア様が無事ローレンス様と初夜を迎えられたからですわ。昨夜は最後まであんなにじたばたされて…」
「も、もうその話はやめて!」
あんまりにも直接的な気がして、私は恥ずかしくてそれ以上の言葉を聞けそうもなく、ユーニスのその先の言葉を遮った。いやもう、本当に恥ずかしいから勘弁して欲しい…ユーニスだけじゃない、モリスン夫人も笑みを浮かべているけど、何だか生温かい感じがして居た堪れない…
「でも、案ずるよりは産むが易し、でしたでしょう?」
「そ、れは…」
「ようございましたわ。途中で泣いて呼ばれるのでは…と心配していましたから」
「な…!」
そ、そんな心配をされていたとは思わなくて、私は穴があったが入りたかったし、何なら自分で今すぐ掘って埋まりたかった…もう、どんな顔してラリー様に会えばいいのよ…離れてしまったせいか、今度は顔を合わせるのが急に恥ずかしくなってしまった。これも全てユーニスが変な事を言うせいだ。ただでさえ疲労困憊で疲れているのに、今の会話で益々精神力がごっそりと削がれた気がした。
一方で、何だかんだ言って無事に初夜が出来た事にホッとしている自分がいた。確かに泣いてしまう気はしていたし、泣いてしまったのだけど…それでもラリー様は根気よく慰めて下さったのだ…あ、でも後半は泣いてもやめてくれなかったけど…って、思い出したせいかまた頬が熱くなるのを感じて、私は一人で見悶える羽目になった。
「な…何、これ…」
今のうちに湯浴みを済ませましょうね、と言われて浴室に入った私だったけれど…自分の身体に赤い発疹のようなものを見つけて、急に体が冷えるのを感じた。これは何かの病気かしら…今まで見た事もないものだったから、私は急に不安になった。もしかしたらラリー様にうつっているかもしれない。そりゃあ、簡単な病気なら治せるけど、自分自身は治せないのだ。昨日はこんな発疹はなかったのに…と不安になった私は、直ぐにユーニスを呼んだ。
「まぁ、ローレンス様ったら…」
私が発疹の事を話そうと胸元にあったそれをユーニスに見せたら、彼女は呆れた…と言わんばかりのため息を付いた。あまりにも予想外の反応に、そんなに悪いものなのかと不安になったのだけれど…
「アレクシア様、ご心配は無用です。これは、独占欲の現れですから」
「どくせん、よく…?」
「ええ、所有の印ともキスマークとも言いますわね」
「それって…」
「男性が恋人や妻が自分のものだと主張したいときに付けるのですよ。まぁ、愛されている証拠のようなものですから、気にしなくてもよろしいですわ。でも…」
「でも?」
「これは少々やり過ぎですわ。見えるところにまでなんて…ったく、涼しい顔してどれだけ執着しているのやら…」
ユーニスはため息を付きながらそう言ったけど、そこには多大な呆れが含まれているように見えたけど、見えるところまで?どういう事かと思って鏡を見て、私は言葉を失った。だって鏡に映った私の首筋にも同じような赤い痕が残っていたからだ…と言う事は、これってみんなに見られちゃうって事?
「暫くは襟の高い衣装にしましょうね」
そう言ってユーニスは、別のドレスを用意してきますと言って行ってしまったけど…ユーニス達にしっかり見られてしまった私は、暫くは彼女たちの顔を見るのも恥ずかしく、一人身悶える日々を過ごす事になった。
(もう、ラリー様のばかぁ!)




