辺境伯からの迎え
襲ってきた男たちを自警団に引き渡した私たちは、自警団の提案を受けて辺境伯からの迎えを待つことにした。その方が絶対的に安全だからだ。いくら王都の第一騎士団の騎士に守られているとはいえ四人しかいないし、これから先は険しく人の往来の少ない山道になる。このメンバーで無理をして進むよりは、迎えに来て頂いた方がずっと安全だからだ。
ただ、その話がこの街の監督官の元に伝わると、ちょっとしたトラブルになってしまった。王命で辺境伯との結婚を命じられた話はまだこの地に伝わっていなかったのもあってか、私たちは逆に不審者に見られてしまったのだ。
でも、それは仕方ないわね。普通、貴族、それも侯爵家の令嬢が結婚する場合、婿側が騎士を率いて迎えに上がるのが一般的だから。まさか花嫁が、いくら第一騎士団とはいえたった四人の護衛を連れて自ら出向くなど前代未聞だもの。街の監督官は私たちが詐欺師の一行だと疑ったらしく、宿で軟禁される羽目になってしまった。
「全く、これでは軟禁ではありませんか!」
そう言って憤慨したのはユーニスだったが、実際、私達は別邸からの外出は認められなかった。それは護衛の四人も同じで、彼らもこの扱いには憤慨していた。そうは言っても、たった七人ではどうしようもない。下手に反発すれば牢に繋がれる可能性もあるからと、私は皆を宥めるしか出来なかった。辺境伯の元に行くまで我慢して欲しいとお願いすると、みんなは渋々ながらも従ってくれた。
最終的には王家の紋章入りの書状と、護衛の四人が第一騎士団の記章を着けていたこと、また監督官の補佐官が本物かどうかは辺境伯の迎えが来れば直ぐにわかるからと執り成したため、私達は監督官の別邸に滞在する事になった。まぁ、それでも厳重に警備されていて、それは護衛と言うよりも監視に近かったのだけど。それでも、知らない人と隣り合わせになる宿よりも監察官の別邸の方がずっと安全に思える。同行してくれる皆を危険な目に合わせずに済んで私はホッとしていた。
「お嬢様、辺境伯家の迎えが到着しました!」
ビリーが弾んだ声でそう教えてくれたのは、街に滞在してから四日目、屋敷を出発してから十五日目だった。
「まさか? 早すぎるわ」
街の監督官が辺境伯へ使いを出したのは街に滞在して二日目で、早馬でも辺境伯の屋敷には丸一日はかかり、逆算すると一日でここまで辿り着いた計算になる。本当に辺境伯家の騎士なの?
そんな疑問を抱えながら別邸の外を窺うと、そこにはずらりと並ぶ騎士の姿があった。一体何人の騎士がいるのかしら……
「セネット侯爵令嬢が王都を発たれたと王家より連絡がありまして。その為辺境伯が我々を遣わしたのでございます。本来でしたら我が主がお迎えに上がらねばならぬところですが、あいにく外せぬ所用がございまして……」
迎えの護衛団の代表は四十代くらいの騎士で、モーガンと名乗った後、申し訳なさそうにそう告げた。顔に痛々しい傷跡が残っているけれど、穏やかな物言いは実直で真面目そうな人柄が伺えて、辺境伯様の人となりと心遣いを感じた。少なくとも拒否されているわけではなさそうね。
「いいえ、お心遣いありがとうございます。こちらも不作法な訪問ですので、かえって恐縮です」
実際、この輿入れ自体が非常識の連続だっただけに、かえって申し訳ない気持ちになってしまったわ。今までは無事に辿り着けるかどうかばかりを気にしていたけれど、こうして辺境伯の護衛団に迎えられると、こちらの訪問の在り方が非常識だということを思い出してしまった。婚姻は王命ではあるけれど、こんな訪問では辺境伯様にもいい印象を与えないわよね。これまでは道中の危険ばかりを気にしていたけれど、それが解決してしまうと今度は非常識な訪問というもう一つの問題を意識せざるを得なかった。
結局その日は時間的に遅いからと出発は翌日になった。順調にいけば三日で辺境伯家の屋敷に着くという。護衛の四人はここで引き返す事も可能だったが、彼らは最後までお供しますと言ってくれたため、そのまま一緒に屋敷を目指す事になった。
短い付き合いではあるけれど、彼らは私を案じてくれるようになっていた。これも多分、私がクロフとグレイディの傷を癒した事が大きいのでしょうね。それほどに治癒魔法は貴重で珍しいものだから。




