婚礼衣装と髪飾り
ユーニスに初夜の事を言われた私は、これまでになくラリー様を意識してしまって…その後の生活に著しい支障をきたす羽目になった。反乱の後始末が終わってしまえば、またラリー様が過保護モードに戻ったからだ。
勿論、ユーニス達のエステ攻撃は毎日行われる事になり、その時間帯はさすがに執務に戻られていたのだけれど…
「いい匂いがするね、シア」
「顔色がずいぶんよくなったね。それに肌も輝くようだよ」
「髪が艶々になったね。こんなに綺麗な銀髪だったなんて…誰にも見せたくないな」
( 何言ッテルンデスカ、ラリー様、ワタシニハ解読不可能デス…)
いつも通り、暖炉の前で私を後ろから抱き込んでいたラリー様だったけれど…ラリー様が壊れてると思った私は間違っていないと思う…私はもう、身を固くしてこの状況が過ぎるのを待つしか出来なかった。精神がゴリゴリ削がれていくのが目に見える気がした…
そうしている中、メイナードが婚礼衣装のサイズ合わせが終わったとやって来た。これでラリー様から離れられる…とホッとしている自分がいた。
だって…ユーニスがあんな事を言い出したせいで私は、ラリー様を意識してしまって落ち着かないなんてレベルを遥かに超えていたのだ。ラリー様の身体の大きさとか、私よりも高い体温とか、耳を掠める柔らかくて艶のあるお声とか、骨ばって剣だこがある固い手とか…
って、ダメよ、考えちゃ…!心拍数が上がると、くっ付いているせいかラリー様が気付いて心配そうに顔を覗き込みに来るのだから…あのお顔も反則だわ…って、いけないわ、これからヘイローズが来るのに…
「うわぁ…!」
「まぁ!何て素晴らしい…!」
「これはまた…語り草になりそうでございますわね」
ヘイローズが持ってきた衣裳はところどころ手直しがされて、前よりも一層気品ある品に変わっていた。華美にすると領民の反感を買うかもしれない…と私たちが言ったため、ヘイローズはそれなら…と装飾を落ち着きのある物にアレンジしてくれたのだ。
早速袖を通して確認を…と言われた私は、追われるように着替えて、ついでにと言わんばかりに髪を結われ、メイクをされた。そして…最後にヘイローズが取り出したのは、大きな翠玉をあしらった髪飾りだった。
「これは…」
「宝石商がアレクシア様のためにと加工したお品ですわ」
「では、あの時の…」
「ええ。あれから、婚礼衣装に合わせたデザインにしたいからといって、うちの工房に職人を連れてやってきましたの。それで、ご衣装に合うようにと話合いをした結果、このデザインになりましたのよ。夜会服などとも合せられるようにと。この様なデザインはまだ我が国では珍しいですけれど、アレクシア様が王都で身に付けられれば、きっと流行いたしますわね」
示された髪飾りは思った以上に大きく、私の手のひらくらいの大きさだった。地は金で細かい細工が施され、翠玉を中心に細かく金の細工がツタのように伸びて、ところどころに小さな宝石が組み込まれている。形は…少し歪で、翠玉がある部分は楕円形だが、一方だけそこからツタが伸びるように細くなっていった。そして、それに合わせたデザインの小さなものも二つあった。
「これは…どのように…」
これまでに見た事のない形に私は戸惑ったが、ヘイローズはお任せ下さいと言うと、結った髪にその飾りを添えた。その場所はよくある頭のてっぺんではなく、耳の後ろから前に向かうような形だった。小さな二つの飾りはその反対側に添えられた。
「これは最近他国で流行り出しているデザインですわ。これまでと違って、左右非対称なのがウリですの。後ろ側が地味になりがちですが、これは後や横からも見栄えがよくて、小さな飾りを添える事で一層華やぎが出るのですよ」
なるほど…鏡に映った髪飾りは、私の白っぽく地味な髪の上では凄く目立って、衣装の迫力にも負けていなかった。その代わり、私が衣装に負けている感が否めないのだけれど…
「どうですか、シア…」
着替えが終わったと侍女がラリー様を呼びに行って貰うと、ラリー様も婚礼の衣装で現れた。背が高い上に鍛えられた体格のラリー様に、婚礼衣装はこれ以上ないくらいにお似合いで、そのお姿はまるで美を纏う男神のように凛々しかった。侍女だけでなく、ヘイローズやモリスン夫人からもため息が漏れたほどで、私も思わず見惚れてしまったのだけれど…あれ?何だかラリー様も…固まって、いる…?
「あの…ラリー様?」
私がためらいがちに呼びかけると、ラリー様が我に返ったようで、何だか困ったというような笑顔を浮かべられた。どうしよう…もしかして似合っていなかっただろうか…確かに衣装に負けているとは感じていたけれど…
「…これは…天界から神の御使いが現れたかと思いましたよ。シア…凄くお似合いだ…」
「…な…!」
…どういう意味ですか、ラリー様…!それは褒めている…のでしょうか…正直どう受け止めていいのかわからなかった私だったけれど、ラリー様は私の手を取るとまるで妖精ですね、と耳もとで囁かれた。…前から思っていたけれど…ラリー様って女性を惑わすのが上手くありませんか?わ、私に言っても何も出てきませんが…
「本当に、アレクシア様はお美しいですわ」
「ええ。春の女神のようですわね」
「ここに来られた頃とは別人ですわ」
えっと…ユーニスもヘイローズも何を言っているの?と言うくらいに褒めてきて、私は居心地の悪さに見悶えた。私は華やかさもないし美人でもないのに…
「全く…アレクシア様はご自身の魅力を全く分かっていらっしゃらないんだから…」
「ああ、私も同感だ。こんなに愛らしいのに…」
「これも全て、あのぼんくら王子とクソ家族のせいですわね」
「ああ、あいつらは万死に値するな。やはりもっと罰を重くすべきだったよ」
「いっそこのお姿を見せびらかしてやりたいですわ」
「いや、あいつらには勿体なさ過ぎる。それはダメだ」
急に物騒な会話を繰り広げ始めたラリー様達に、私は声をかけられなかった。何と言うか…ここの人達は過保護なだけでなく、褒め上手すぎて困る…
でも…みんなが私を案じてくれている事と、衣装も似合っていない訳じゃないという事はわかってホッとした。私はこのまま、無事に結婚式が終わるのを祈ったけれど…その前に私の心臓の方が心配だったのは言うまでもない。




